軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43.悪役令嬢は考えをまとめる

「クラウディア様、お疲れではありませんか?」

「精神的にくるものはあったわね」

施設を出て、ヘレンと馬車に乗る。

二人のときは対面して座るのが普通だ。けれど今回ヘレンは隣へ腰を下ろした。

「どうぞ、わたしの肩にもたれてお休みください」

「ありがとう」

言われるまま頭を預ける。

ヘレンの優しさを受けて、全身から力が抜けた。

「ウェンディ様を怒らせてしまったわね」

「最初から怒っていましたよ」

「それはそうだけど理由が違うわ」

悪事について怒ることと、好きな人を守るために怒ることは同一視できない。

特に後者は必要のない精神的負担をウェンディに強いた。

手を出すどころか、クラウディアはヒューベルトのことを一切知らないというのに。

「ウェンディ様が侍女と距離を置きはじめた時期と合わせて、ヒューベルトについても調べるべきね」

「わたしのほうでも訊いておきます。ウェンディ様の件で、ロイド家の侍女たちはクラウディア様に献身的ですから」

これ以上リンジー公爵家の怒りを買わないためだろう。誰の目にもウェンディが悪人に映っていた。

「ヒューベルトという人物が怪しいとお考えですか?」

「少なくともウェンディ様を変えるきっかけになった人だと思うわ。悪い人でなければ、すぐに居所を掴めるはずよ」

ウェンディの言う通り、真実、ヒューベルトが正義の人なら。

「後ろ暗いことがなければ隠れる必要はないですからね。でも彼がウェンディ様を騙していたなら」

「もうとっくに姿を消しているでしょうね」

人を騙して利用する狡猾な人間が、自分に繋がる証拠を残しているとは考えにくい。

「どこまでが彼の謀かはわからないけれど……」

ウェンディが匿っている証人も怪しい。

警ら隊やルキですら追えなかった実行犯を、彼女はどうやって見つけたのか?

クラウディアの企みだと思い込ませるために、これもヒューベルトによって用意されたようにしか思えなかった。

それにウェンディの証言を裏付けるための捜査で、証人となる貴族派を襲った実行犯を捕まえられなかったら、ますます彼女の状況は不利になり誰も耳を貸さなくなる。

「ウェンディ様だけが罪を被るのは避けたいわ」

ヒューベルトは紛れもなく共犯者だ。彼も罪に問われて然るべきである。

ただ望みとは裏腹に、捕らえるのは無理だと理性が囁く。

どこにいるかすら定かでないのだ。

(暗躍している者がいるのは確かなのに)

正体を掴みきれない感覚は、サスリール辺境伯領でも感じた。

煮え切らない思いに、状況を整理しようと口を開く。

「支離滅裂なところもあったけれど、ウェンディ様の主張はパーティーのときから変わってないわ」

「そのようでしたね。ウェンディ様がクラウディア様を装ったのは、トーマス伯爵の事件一回だけでしょうか?」

「だと思うわ。少なくとも南部のサスリール辺境伯には関わっていないでしょう」

ウェンディが匿っている貴族派襲撃の実行犯の証言は、偽証の疑いがあるので保留にする。本当に匿えているのかも怪しいくらいだ。

それを除いたら、偽クラウディアが確認されているのは二回。

サスリール辺境伯とトーマス伯爵の事件でだ。

トーマス伯爵の事件ではウェンディが装ったことが判明している。

「ウェンディ様にはドレスティンを翻弄する技量も、南部へ行っている時間もないと思うわ」

マリリンの店が強盗に入られたのは四月。

サスリール辺境伯に偽クラウディアが現れたと考えられるのは、香水が入手できた春から夏の間だ。

夏の間、ウェンディは北部に滞在している。

動けるのは春しかないが、彼女の周辺からも南部にいた話は出ていない。

なるほど、とヘレンが頷く。

「あの様子を見る限り、ドレスティン様のご主人様になるのも難しそうですね」

クラウディアだから話――ロールプレイを合わせられたのだ。

深窓の令嬢とうたわれていた侯爵令嬢ができることではない。

「そう考えると、サスリール辺境伯領に現れたのはプロのようね」

人を騙すことに慣れた。

計画の規模を考えても、関わっているのは手練れだろう

隣り合っているとはいえ、サスリール辺境伯とベンデン家は国を跨いでいる。

しかもクラウディアが仮面舞踏会に参加しなければ、偽クラウディアがいたことに気付けなかった。

偽装された二件の繋がりは香水。

裏で糸を引いているのは一体誰なのか。

(ルキと一緒ね。どうしても枢機卿の顔がチラつくわ)

弧を描く碧眼が脳裏を過る。

これでは大事なことを見落としかねないと頭を振って幻影を追いやった。

何にせよサスリール辺境伯領の件では、パルテ王国――ベンディン家と関わりがあるのだ。ことはハーランド王国だけで済まないと気を引き締める。

「営業時間に間に合うなら、マリリンの店へ寄りましょう」

「香水についてお訊ねになるんですか?」

「ええ、わたくし用の調香は彼女しか知らないもの」

にもかかわらずドレスティンも、ウェンディも香水を入手している。

出回っているものではないから二人の入手先は同じだろう。

香水は現物がなくても、材料の配合などがわかれば再現が可能だ。

微細な部分はマリリンにしか表現できないとしても近いものは作れる。

別日に改めたほうがいいのだろうが、ウェンディの話を聞いたあとだと早く確認したい気持ちが勝ってしまった。

「では到着したら起こしますのでお休みください」

王都郊外から中心部への移動は時間を要する。

考えを整理できたのもあって、クラウディアはヘレンの言葉に甘えた。

思いの外、気疲れしていたのか、瞼が落ちるのに時間はかからなかった。