軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.悪役令嬢はすれ違う

ケイラとナイジェル枢機卿のことは思い過ごしかもしれないが、ベゼルと一緒にいたのは確かなのだ。

彼女が直接ベゼルと関わっている以上、安心はできない。

「どうしてだ? 君はたまたま知ってしまったが、本来なら犯罪ギルドのはの字も耳にする機会はないだろう?」

公爵令嬢なら知る由のない話だ。

もしかしたら王太子妃になってもそうかもしれない。

(だからといって無視して良いことなの……?)

「むしろ聞きたくない情報ではないか?」

「気持ちの良い話ではないのかもしれません。ですがシルの耳には届くのでしょう?」

「私は慣れている」

「慣れの問題ではありません。必要だからシルは情報を聞き、判断するのではなくて?」

決して無視して良い話ではないのだ。

立場ある者だからこそ、知っておかねばならないことがある。

たとえ国が抱える闇であっても。

「犯罪ギルドのことだからといって無視はできませんわ。わたくしも彼らが何を考え、求めて行動するのか知っておく必要があります。彼らは悪人ですが、生まれは弱者なのですから」

本来なら国が守るべき人間だった。

けれど支援が行き届かず、彼らは悪事に手を染めなければ生き残れなかった。

そして悲しいかな、貧民街では犯罪ギルドへの道筋がもう出来上がってしまっている。

「情状酌量の余地がない者は断罪されて然るべきでしょう。けれどもし未然に防げることがあるのなら」

「あるのなら専門家に任せるべきだ。心配しなくともアラカネル連合王国にも捜査機関はある」

「それは……そうでしょう」

シルヴェスターの言い分も正しい。

ただどうも煙に巻かれている気になる。

「シルはどうして、この件からわたくしを遠ざけようとするの?」

怖がらないよう気遣ってくれているのだとしても腑に落ちない。

バーリ王国による工作の件では、距離が縮まったように感じられた。

包み隠さずシルヴェスターが話してくれたからだ。

しかし今回は、遠く手の届かないところへ置いていかれたようだった。

先ほどのベランダでの安心感が消失していく。

「私はディアを守りたいだけだ」

「わたくしだってシルを守りたいだけですわ」

「ならばもう、犯罪ギルドの件は口にしないでくれ」

「理由をお伺いしても?」

「危険だからだ。君が言った通り、彼らは悪人だ。常識が通じるとは限らない」

身を守る一番の方法は、距離を置くことだと諭される。

何も知らなければ、彼らは近寄ってこないと。

自分たちにとって利がない限り、犯罪ギルドは貴族と関わらない。

貴族の勘気をこうむれば、埃を吹き飛ばすように消されてしまうからだ。

平時ならクラウディアも素直に頷けた。

けれどもうナイジェル枢機卿と会った際、クラウディアの中で警鐘が鳴ってしまっている。

「直接、彼らと関わろうなんて思っていませんわよ?」

「今はそうでも、君が関心を持っている限りわからないだろうっ」

大きな声ではなかったが、強まった語気に目を見張った。

クラウディアが言葉を発するより先に、シルヴェスターが席を立つ。

「すまない、自分でも上手く気持ちを伝えられない。ただ私は君を守りたい。そのために憂いになるような芽は摘みたいのだ」

「わたくしの行動がシルの平穏の邪魔になっていると?」

「そうではない! 私のことなど、どうでもいい。何度も言うが君を守りたいだけだ」

シルヴェスターの言い分に衝動を抑えきれず、クラウディアも音を立てて立ち上がる。

「どうでもよくありません! わたくしも繰り返しになるけれど、シルを守りたいの。どうして一緒に考えてくださらないの!?」

自分の言葉で、もどかしく感じていた理由がわかった。

一方的に守られ、距離を置かれたことに納得できなかったのだ。

共に同じ道を歩むはずなのに、同じ景色を見るはずなのに、どうして今になって危険だからと遠ざけられるのか。

危険なのはシルヴェスターも一緒だろうに。

「今までの相手とは違うのだ、ディア。君の異母妹も、ラウルも敵になる存在ではなかった」

異母妹とは完全に敵対していたけれど、シルヴェスターからすれば簡単に消せる存在だった。

ラウルは敵ですらない。単に仮想敵国の人間であるだけだ。

レステーアも、クラウディアの命を狙っていたわけではない。

「だが犯罪ギルドは違う。枢機卿、教会もそうだ。不用意に敵対してしまえば命の危険がある。教会に関してはアラカネル連合王国が良い例だろう」

異教徒に認定されれば、国王であっても庇いきれないかもしれない。

相手も相応の証拠が必要になるが、教会の手がどこまで伸びているか確証は誰も持てなかった。

王家が有する諜報専門の影も、他人の心までは覗けない。

「君だけは一番安全なところにいて欲しい」

「……納得できませんわ」

固く唇をむすぶクラウディアに、シルヴェスターはこれ以上言えることはないと部屋を辞す。

扉の閉じる音と共に、クラウディアはソファーへ身を埋めた。

「どうしてわかってくださらないの……?」

きっとシルヴェスターも同じ気持ちだろう。

互いに思い合っているはずなのに、解を得られない。

クラウディアだって進んで危険な目に遭いたいわけではなかった。

(足を引っ張るつもりはないのに)

ならば望まれているままにするのが一番だろうと、頭は答えを出す。

耳を塞ぎ、ただただ嵐が通り過ぎるのを待つべきだと。

けれど胸が張り裂けそうだった。

納得がいかず、気持ちを制御しきれない。

遂には高まった感情が、青い瞳から涙を溢れさせた。