軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.悪役令嬢は連合王国の王子の意思を知る

四人の中でただ一人、トリスタンだけが状況を理解できずにいる。

「シル、どうしたんですか?」

「説明はスラフィム殿下にしていただこう」

穏やかな笑みを浮かべたシルヴェスターの思考は読めない。

しかし先ほどまでの和やかなムードは消えようとしていた。

眉尻を落とし、スラフィムは悲しげな表情を見せる。

「料理を楽しんでいただいていたところを邪魔してすみません。どうしても我が連合王国の実情を知っていただきたかったんです」

何故、現地のものではなく、ハーランド王国製の焼き菓子が出されたのか。

そこにどんなメッセージがあるのかと勘ぐらずにはいられなかったクラウディアだが、スラフィムの話に目を見開く。

焼き菓子はこの日のために用意されたものではなく、元々あったものだったからだ。

「ハーランド王国の方には信じられないことでしょうが、ここにいるのが全員、連合王国の人間なら珍しいことではないんです」

「ハーランド王国製の焼き菓子が出されるのが普通だと?」

「はい。ハーランド王国のお客様の場合はフルーツが出されますが、今回は自分が担当者に無理を言いました」

シルヴェスターとスラフィムが会話を重ねる。

「連合王国では、たとえ貴族であっても砂糖を使った菓子を食べる機会は少ないんです」

「全く手に入らないわけではないだろう?」

教会から爪弾きにされていると言っても、流通が完全に遮断されているわけではない。

他国と比べれば高値になるが砂糖の購入はできた。

金色の前髪をさらりと揺らし、スラフィムは苦笑する。

「おかげ様で外貨には余裕がありますから購入はできます。きっとそれも教会は気に入らないんでしょうけれど」

アラカネル連合王国は金融業で成功を収めている。

建国当初、まだバラバラだった島々の意向を金融政策で一つにまとめ上げたくらいだ。

海上保険からはじまった他国向けの金融商品は、今や陸上にも及んでいる。

教会が大法官として入り込んでいる小国も、保険はアラカネル連合王国のものを利用していた。

小国が保険なしに物資を流通させるにはリスクが大きく、実利の面では保険も教会と並んで手放せない。

清貧を重んじ、利益を享受できない教会にとって、金融は介入できない分野だ。

アラカネル連合王国を異教徒といってはばからない教会にとって、彼らが発言権を持つのは喜ばしくない展開であり、教会が影響力を伸ばすのに際しても邪魔だった。

「砂糖よりハーランド王国から焼き菓子を輸入するほうが、安上がりなんですよ」

「えっ!?」

トリスタンが声を出して驚き、慌てて口を閉じる。

顔には出さないものの、クラウディアもトリスタンと同じ心境だった。

(そうだわ、砂糖は教会の課税対象でも、焼き菓子は違うもの)

輸入品である以上、現地で買うよりは割高にはなる。

けれど既製品と違い、砂糖は調味料でしかない。

高値で買ったあとも形になるまで、製菓にかかる人件費などが加算されていくのだ。

砂糖が高値だとは知っていても、上乗せされる諸経費まで考えが及んでいなかった。

だからスラフィムは、この機会を設けたのだろう。

「ちなみに連合王国では甘さ控えめの菓子が好まれます。贅沢は権威の象徴でもありますが、甘味については節制するのが習慣になっています」

平民に至ってはフルーツさえ口にできないという。

島々が集まって建国されたアラカネル連合王国には、まず農業に適した土地が少なかった。

気候から栽培できる植物も限られる。

金融業が成功するまで、住民の生活は漁業に頼った貧しいものだった。

「自分たちは祖先がバイキングだった事実を否定しません。周辺諸国に多大な迷惑をかけていたことも事実です。だからこそ文化人であろうと奮起しています」

温かみのあるグレーの瞳には、確固たる意思が宿っていた。

国を代表し、国民の代弁者たる姿が。

スラフィムの真摯な態度に、クラウディアも背筋が伸びる。

「砂糖を欲しているのも、甘味に慣れた他国の賓客をもてなしたいためです。教会は自分たちを異教徒と呼びますが、自分たちは唯一神信仰を否定しません」

自然を愛することが罪なのか。

全てを等しく敬うことが罪なのか。

スラフィムの訴えは、至極当然のことのように聞こえた。

「何故、唯一神信仰でないだけで文化人であることを否定されるのか。自分たちが教会を受け入れられないのは、この一点のみです」

最後に、楽しい時間を壊してすみませんとスラフィムは頭を下げる。

「政治的な話はこれで終わりにします。近年は観光業にも力を入れていますから、このあとはぜひ連合王国の情緒を満喫してください」

ここでいったん、スラフィムとは別行動になる。

けれど宿泊するホテルは一緒だった。

港町から王城までは距離があるため、クラウディアたちの滞在中はスラフィムもここへ留まるという。

「夕食をご一緒できるなら、目についたものを教えてください。他者から見て、自国がどう映るのかとても気になります」

先ほどの真剣な表情から一転し、瞳が優しく細められる。

自国への愛が溢れる姿は、見ていて気持ちが良い。

(暑苦しく感じないのは、スラフィム殿下の人徳かしら)

日差しが強い港町であっても彼は涼しげだった。

すらりとした体型に、所作が繊細だからだろう。

(レステーアとはまた違った柔和さだわ)

彼女も細身で貴公子然としているが、どこか否を言わせない雰囲気がある。

その点スラフィムには、拒絶をにおわせるものがなかった。

何でも包み込んでくれそうな慈しみが感じられる。

教会とは反目しているが、彼自身は唯一神信仰を認めているのだ。

(けれど教会は絶対に認めないでしょうね)

唯一神信仰を守ることで教会はここまで勢力を拡大してきた。

アラカネル連合王国を認めてしまえば、今までの否定はなんだったのかという話になる。

(きまぐれな神様は気にしなさそうだけど)

何を言っても、きまぐれなのだ。

唯一神信仰だろうが万物精霊論だろうが、神様にしてみれば関係なさそうに思えた。