軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.悪役令嬢は連合王国の王子と対面する

「わたしの領地は南部なので避暑地には向きませんけど、領地で過ごす予定です」

「シャーロットもかしら?」

「はい、お姉様たちがいない王都に残っても意味がないですの」

学園へ入学してから、シャーロットはルイーゼのこともお姉様と呼ぶようになった。

クラウディアと並んで模範にしたいらしい。

ルイーゼもシャーロットと打ち解け、お姉様呼びを許している。

「うう、もうすぐ会えなくなるのは寂しいですの~!」

学園では毎日顔を合わせていたので、クラウディアも陽気なシャーロットの声を聞けなくなるのは寂しかった。

シャーロットになら何度でもお姉様と呼ばれたい。

彼女のおかげで頭に残っていた異母妹の声も忘れられそうだった。

ぎゅっと腕に抱き付かれ、ピンク色の頭を撫でる。

その先でルイーゼと目が合うと、顔を逸らされた。

シャーロットをあやすのは、もうお決まりになりつつある。

ルイーゼにとっても見慣れた光景であるはずなのに、どうしたのだろうと首を傾げた瞬間、か細い声が届いた。

「わたしだって寂しいですわ……」

抱き締めたい衝動に駆られた。

普段は凜として気の強さを窺わせる令嬢から儚く告げられたら、誰だって同じ心境になるはずだ。

(最近、特に愛らしくなられた気がするわ)

本音を告げられるようになったからだろうか。

流石に人目があるので、クラウディアは笑顔を見せるに留めた。

ただ思いは伝わっていると、さりげなくルイーゼの細い手を握るのも忘れない。

「クラウディア、オレも寂しいぞ!」

「ぼくもです!」

「張り合わないでくださいませ」

負けじとラウルとレステーアまで声を上げはじめるが、この二人については無視する。

二人とも本心であるのは伝わっているけれど、何故か素直に受けとめられない。

(可愛げが感じられないのよね……)

ラウル一人なら、また違った印象を受けたかもしれない。

レステーアと並ぶと、親鳥に餌を求めるヒナに見えて仕方なかった。

ほどなくしてシルヴェスターがスラフィムを連れてやって来る。

「紹介しよう、アラカネル連合王国の第一王子、スラフィム殿下だ」

誰と一緒にいても、真っ先にシルヴェスターが目を引くのは変わらない。

欲目が入っているのは否めないが、窓からの光を受けとめる銀髪は、時折虹色を宿して煌めいていた。白磁の肌に落ちる影が耽美的で、見蕩れてしまう。

黄金の瞳が愛しげに細められると頬が熱くなった。

私情を封印して、スラフィムと向き合う。

シルヴェスターへ視線が集まりがちだが、スラフィムが見劣りするわけではなかった。

背はシルヴェスターより低いものの長身で、クラウディアからすれば見上げる形になる。

胸まであるブロンドを後ろでまとめ、リボンを結んでいる姿は優雅だ。

冷たく見えてしまいそうなグレーの瞳にも温かみがあり、顔に浮かぶ優しい笑みは春の陽光を思わせる。

しっかりした体躯に威圧感はなく、落ち着いた物腰が特徴的だった。

二十四歳と六歳年上なのもあってか、雰囲気は親戚のお兄さんという例えが一番しっくりくる。あくまで雰囲気に限った話だけれど。

逆行前に会う機会はなく、クラウディアとは正真正銘の初対面だ。

「スラフィム・アラカネルです。ラウル殿下もお久しぶりですね。殿下のご活躍は、海を越えて自分の耳にも届いていますよ」

「オレなんて、まだまだです」

スラフィムが年上だからか、いくらかラウルの口調が丁寧になる。

肩をすくめるラウルに対し、スラフィムは朗らかな笑みを絶やさない。

「教会の介入なく、国王との軋轢をご自身で解決されたのです。もっと誇って良いと思います」

教会とは、きまぐれな神様を信仰する宗教団体である。

ハーランド王国の南東に位置する小国を拠点に、大陸全土へ影響力を持っている。

大陸一の勢力を誇る教会は唯一神信仰を是とし、信仰する神の名前が違っても唯一神であれば同じ教義だと認めた。

(きまぐれな神様は、時として名前も変えるという考え方なのよね)

宗教を通して倫理観を教える教会は、人々のお手本だ。

宣教以外にも活動の場を広げているが、彼らの基本理念は調和にある。

国をまたいで活動する教会の力は強く、国家間で諍いが起こると仲裁者として介入することも少なくない。

また、その実績から教会に仲裁を求める国もあとを絶たなかった。

大陸の国々にとって教会の恩恵は数知れず、ハーランド王国も枢機卿を招いて国の役職に就かせるほどだ。

しかしアラカネル連合王国となると話は変わった。

彼らは唯一神を信仰していない。

(わざわざ教会の名前を出したってことは、思うところがあるってことよね)

アラカネル連合王国が教会に対し不満を持っているのは周知の事実だ。

この会話に大きな意味はない。

それでも教会について言及しているのは確かだった。

「スラフィム殿下にそこまで褒められると面映ゆいな」

ラウルは何も気付いていない様子で頬をかく。

バーリ王国も、ハーランド王国と同様に教会から枢機卿を招いている。

唯一神信仰を教義としている以上、迂闊なことは言えなかった。

(こういう身のこなしは見習いたいわ)

言質を取らせない振る舞いは人によってそれぞれだが、ラウルは全く嫌みじゃない。

(改めて考えると、そうそうたる面子ね)

何せ三国の王族が一堂に会しているのだ。

シャーロットに至っては、緊張で顔が硬直している。

シルヴェスターやラウルのおかげで、クラウディアは感覚が麻痺しているのを感じた。