軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話 それは聞かないでくれ

薙刀を構える北条政子。

一方、男が手にしているのは大振りのサーベルだ。

「ぶっ殺してやる!」

「ですから、すでに死んでいると申しているでしょう」

地面を蹴り、正面から突っ込んでいく。

酔っ払っている割にはしっかりとした足運びだ。

だが豪快に繰り出されたサーベルの一撃は、北条政子の薙刀にあっさりと受け止められる。

「はっ、そんな細腕でオレの攻撃を受け切れるわけねぇだろ!」

それでも構わず力で押し切ろうとした男だったが、

「っ……な、なんだっ? ぜ、全然、ビクともしねぇ……っ!?」

「はて? お力に自信がおありのようでしたが……まさか、この程度ではございませんよね?」

「て、てめぇっ……舐めんじゃねぇっ! おおおおおおおおっ!」

裂帛の気合と共に男の腕に血管が浮かび上がり、サーベルに満身の力が籠る。

しかしそれでも薙刀は微動だにしなかった。

「ば、馬鹿なっ!? こんな非力そうな女にっ……」

「力任せにもほどがございますね。せめてもう少し技術を習得された方がよろしいかと。……こんなふうに」

「っ!?」

一体どういう原理か、北条政子が軽く後ろに下がったかと思った次の瞬間には、男の身体が宙を舞い、結界の壁に叩きつけられていた。

「がっ……な、何を……?」

「では今度はこちらから参りましょう」

戸惑いながらもすぐに立ち上がる男を余所に、彼女はそう軽く宣言。

言葉通りに自ら距離を詰めると、薙刀の連撃が男に襲いかかった。

「くっ……そ、がっ……」

それを男はどうにかサーベルで捌いていくが、北条政子が表情一つ変えない――英霊だからかもしれないが――のに対し、男の方はまるで余裕が感じられず、必死の形相だ。

「……さて。もう理解できたでしょう? これ以上の戦いは無意味だと」

やがて彼女が薙刀を止めたとき、男は全身汗だくになっていた。

「っ……ま、まだ、オレは負けてねぇぞ!?」

お客さんたちが「あんたの負けだ」「もう帰れよ」「店長さんが出るまでもない相手じゃん」などとブーイングするが、男は強情にも引き下がる様子はない。

「外野は引っ込んでろ! そもそもオレはまだ一撃も貰ってねぇ! 見ての通り無傷だ!」

本人が主張している通り、確かに外傷は一つも見当たらないが、

「……愚かでございますね。まだやりたいと言うのなら、それでもいいでしょう。ただし、そのときはこれだけの人たちの面前で、さらなる痴態を晒すことになりますが……」

「うるせぇっ! 本番はここからだ! 手加減はしねぇぞ!」

男のサーベルが毒々しい色合いの液体で濡れていく。

「毒でございますか。死んでいる人間に聞くとでも?」

呆れたように呟く北条政子だが、激高している男はその指摘に気づかずに躍りかかった。

その瞬間、男が身に着けていた服がバラバラに弾け飛ぶ。

「……は?」

男は全裸になっていた。

下着すらない、生まれたままの姿だった。

「だから忠告したでしょう? さらなる痴態を晒すことになると」

「きゃあああああああああああああっ!?」

男は大事なところを隠しながら、若い女性のように絶叫する。

「いや逆だろ」

「普通は汚いもの見せられた女性が叫ぶところなのにな」

「租チンで草」

「……俺も政子様に見せつけたいハァハァ」

「え、もしかしてあの男が伝説の全裸くん?」

お客さんたちが思わずツッコミを入れる中、

「お、お、お、覚えていやがれえええええええええええっ!」

男はそうありきたりな捨て台詞を残し、店を飛び出していった。

その日の夜、俺は久しぶりに旧友たちとリモートで話をしていた。

『いやー、聞いたぞ? なんか大変だったみたいだな』

『けど、さすがケンちゃんだよ。ほとんど一人で解決したんだって?』

『何とかなってよかったねー』

河北、東口、南野の三人で、彼らとは大学時代からの仲だ。

「ちょっと待て。それぞれ何の件について話してるんだ? 正直色々あり過ぎてどれを指しているか分からん」

俺が聞き返すと順番に教えてくれる。

『そりゃもちろん冤罪の件だろ。謎の外国人美女のせいでしばらく休業もしてたんだろ?』

『え? 門山碧の救援チームとして新宿歌舞伎町ダンジョンに潜った話だよ?』

『あれあれ? 女の子のアルバイトが辞めちゃって、新しく田中くんが入ってきたってやつじゃないの?』

案の定、全員バラバラだった。

「やっぱりな。まずは河北の件だが、それはすぐに解決したから大丈夫だ。犯人は天童奈々のフランスの同僚だってことも判明している。それから東口のやつだが、公にはされていないがそれは間違いない。地下45階に謎の巨大花の魔物がいて、そいつが原因だったんだ。フロラルドミナンスっていう魔物の進化種らしいが、なんで急にそんな突然変異を起こしたかはまだ分かってないようだ」

そういや、門山碧事務所からはお礼代わりに何かあったら力を必ず貸すと言われているんだっけ。

とはいえ、今のところ何も思い当たるものはない。

強いて言えばアルバイトを頼みたいことくらいだが……さすがにそんな長期的なお願いはダメだろう。

「南野のアルバイトの件だが、よく知ってるな? 配信じゃそこまで話してないはずだが……」

『よく7チェンネルのケンちゃんのスレッド見てるからねー』

「え、そんなのあるのかよ」

『もちろんあるでしょ。むしろ今かなり勢いのあるスレの一つだし』

どうやら俺の知らないところで勝手に話題になっているらしい。

『でも、前の子は何で辞めちゃったの? 一時期は毎日のように働いてたはずでしょ? Aランク探索者で、仕事の速さについていけなかったわけじゃないだろうし』

「そ、それは聞かないでくれ」

まさか家に忍び込まれ、身動きを取れなくされた上で襲われそうになったからクビにしたなんて言えるはずもない。

「ともかく、田中くんのお陰で助かった。ただ、大学生だから毎日来てくれるってわけにはいかなくて」

それに卒業後は探索者として本格的に活動するだろうし、いつまでもバイトを頼むことはできないだろう。

『それで英霊をってわけかー』

『凄いスキルだよねぇ』

『もしかして歌舞伎町ダンジョンの攻略報酬?』

「ご名答だ」

そうして最初に契約した北条政子は、即戦力として活躍してくれている。

「しかも戦うこともできるみたいなんだよ。もしかしたらAランク探索者並みの強さはあるんじゃないか?」

『ははっ、普通に考えて最初にイメージするのは戦わせることだけどな?』

『だよねぇ』

『英霊召喚でアルバイトを増やそうなんて考えるの、ケンちゃんくらいでしょ』

「そうかなぁ?」

ただ、彼女がアルバイトをすることになって、新たに発生した問題もあった。

それは北条政子お目当ての客が増えまくってしまったことである。

「だから結局、人手が足りてないんだよ」