軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第70話 うちなんて46人兄弟だしね

「どうしてこうなった……」

新宿歌舞伎町ダンジョンの入り口前で、俺は頭を抱えていた。

歌舞伎町といえば、言わずと知れた日本最大の歓楽街。

無数の居酒屋やパブ、キャバクラ、ホストクラブ、スナック、ラブホテル、ガールズバー、風俗店、パチンコ店などなど、夜の店が軒を連ね、深夜も人通りが消えることはない。

しかしその一画、かつてはトー横などと呼ばれていた場所には、現在、歌舞伎町にはそぐわない武骨で物々しい建物があった。

そこが新宿歌舞伎町ダンジョンへの入り口だ。

「申し訳ありません、西田さん。ですが二次被害を避けるために、戦力を可能な限り結集すべき状況なのです。加えて、西田さんは以前、このダンジョンを攻略された経験がおありとのこと。正直あなた以上の適任はいないでしょう」

頭を抱える俺に、諭すように言うのは迷宮管理庁の長官、長尾凛子だ。

彼女の嘆願、もとい強制招集によって、俺まで捜索チームに加わることになってしまったのだ。

Sランク探索者になると、国からの強制招集に応じなければならない義務が発生する。

だからSランクに昇格なんてしたくなかったのだが……今さら後悔しても仕方のないことだろう。

「いや、確かに攻略しましたけど……もう二十年近くも前ですよ? ブランクを考えてください、ブランクを」

「……西田さんにブランク? 御冗談を」

なぜか笑われたんだが?

新宿歌舞伎町ダンジョンは、クラス9に位置づけられ、地下45階まである高難度ダンジョンだ。

日本に約200あるダンジョンだが、このうちクラス9を超えているのは、この新宿歌舞伎町ダンジョンを含めてわずか5つしかない。

冥層までは届いていないとはいえ、45階の深層ともなると、さすがに気楽には挑めないのだ。

「いつもの気軽な食材探しとは訳が違うんだが……」

「地下30階で気軽と言える時点でおかしいのですけれど?」

長尾氏とそんなやり取りをしていると、天童奈々が割り込んできた。

「はっ、こんなロートルを連れて行かなくても、あたしらだけで十分だけどなっ!」

「そのロートルを襲撃して敗れたのはどなた?」

「あ、あんときは全然本気じゃなかったからっ!」

長尾氏に指摘され、顔を真っ赤にして言い返す天童奈々。

「ふふ、小学生のような反論ですね。あなたもう30歳ではありませんでしたか? さすが、小学生の頃の約束をいつになっても後生大事に抱えているだけのことはありますね」

「ぐああああああああああああっ! やめてくれえええええええええっ! 自分でも痛い女だって思ってはいるんだよおおおおおおおおおおっ!」

……うーん、フルボッコ。

さすがは若くして迷宮管理庁の長官を任されるだけのことはあるな。

「ナナを揶揄うのはやめてくださいまし」

見かねてエルザ=シモンが加勢に入る。

「そういう純朴で世間知らずで良い意味でアホなところが、ナナのかわいいところなのですわ」

「それフォローになってねぇよな!?」

結成された捜索チームは、全10人で構成されている。

Sランク探索者としては、俺、天童奈々、エルザ=シモンの三人に加えて、

「ニシダくーん、またよろしくねー、本願良子だよー」

本願良子。

某新興宗教の幹部の娘にして、超級の治癒魔法の使い手であることから信者たちに〝聖女〟と崇められ、すでに教祖に次ぐ影響力を有しているとか。

そんな彼女は、迷宮暴走のせいでやり直しになった昇格試験で唯一合格し、新たにSランク探索者になったようだ。

「よかったらさ、うちの団体に入らないかなー?」

「遠慮します」

いきなり宗教勧誘された。

「えー、ニシダくんにとって悪くない話だと思うけどなー。うちの一番の教えは分かりやすく言うと『産めよ、増えよ、地に満ちよ』だからさ、とにかくたくさん子供を作るのが至上命題なんだー。うちなんて46人兄弟だしね」

「46人!? ど、どうやってそんなに産むんだ……?」

「もちろん腹違いも含めてだよ。うちのパパは事実婚の妻が八人いるからねー」

……やばい宗教だとは聞いていたが、やはりやばい宗教のようだ。

「ニシダくんだったら、若い女性信者たちをたくさん紹介してあげられるよ? まだ独身だし、お金もあるでしょ? 40歳の今からでも頑張れば10人は作れると思う。あ、壺を買わせたりなんてないから。あれはうちとは別の宗教だから」

「お断りします」

「あはは、そっかー。うん、じゃあまたその気になったらいつでも声かけてよー。ボクは普段、浅草にある教団本部にいるからさぁ」

そして残りはすべてAランク探索者たちで、

「ニシダさん、いつも配信、楽しく拝見させていただいています。僕はこの探索者チーム、メルシーズのリーダーをしている一ノ瀬新之助です。どうかよろしくお願いします」

まだ二十代半ば頃と思われる好青年が、代表して挨拶してくれる。

どうやら彼らは普段から共にパーティとして活動しているらしい。

彼らは5人パーティで、男性3人、女性2人といった構成だ。

全員同じくらいの年齢だなと思ったら、どうやら学生時代にサークルでダンジョン探索をしていたメンバーのようで、卒業と同時に同じメンバーで探索者事務所を立ち上げ、今に至るのだとか。

「さすがにSランカーの皆さんには敵いませんが、チームで深層を探索した経験は何度もあります。決して足手まといにはならないかと。被救助者の運搬のためには、相応の人手も必要でしょうから」

「……まともだ」

「え?」

俺が思わず呟いた一言に、一ノ瀬新之助はキョトンとする。

「いや、今まで会ってきた上級探索者たちが、どいつもこいつも変人ばかりだったから……。ちゃんと常識人もいたんだな……」