軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第69話 全速力で走ってきたので

「一体どうすればいいんだ……」

俺は頭を抱えて呻いていた。

あの後、不安のあまりダンジョンからどうやって出て、自宅まで戻ってきたのか全然覚えていない。

ただ、家に警察が訪ねてきて、軽い事情徴収をされたことは覚えている。

どうやら被害届が出ていないため、逮捕されるようなことはないという。

逆に冤罪だと訴えたが、それなら基本的には民事で解決してくれと言われてしまった。

昨日の今日のことで、店は臨時休業とさせてもらった。

ネットではすでに俺の動画が拡散されまくっていて、YやXチューブには大量の中傷メッセージが届いている。

中には脅迫まがいのものもあって、こんな状況では店の営業などできるはずもない。

なのに俺は、気づけばいつも通りの時刻に、普通に店に来てしまっていた。

「おはようございます、店長さん」

「大阪さん? 何で店に? 今日は臨時休業だと伝えたはずだが……」

するとなぜか店にはアルバイトの大阪真緒の姿があった。

「はい、把握していますよ。それより大変な目に遭いましたね」

「……お、俺は何もやっていないっ……やっていないんだ……」

「そうですよね。店長さんはそんなことをする人じゃないですから」

「っ……俺のことを信じてくれるのか?」

「ふふ、当然ですよ」

「けど……このままじゃ、しばらく営業は難しいかもしれない……」

「大丈夫ですよ、店長さん。ほら、これを見てください」

「え?」

大坂真緒がスマホの画面を見せてくる。

そこではとある動画が再生されていた。

「これは……あのときの動画?」

謎の外国人に冤罪をかけられる寸前、彼女がドローンを修理しているときの映像だった。

そのままドローンが復活し、俺が再びXチューブと連携させようとスマホを操作している間に、その背後で自ら着ていた服をびりびりに引き裂いている。

「少し前から拡散され始めている動画です。どうやら近くにいた別の探索者が撮っていたみたいです。一部にはフェイク動画じゃないかって声もありますけど……ほとんどの人が店長さんこそが被害者だと信じてくれてるみたいです」

「こ、この動画の通りだ! 間違いない! しかし一体誰が……」

「誰のお陰かは分かりませんが……よかったですね、店長さん。身の潔白を証明することができましたね」

ネット上にアップされた動画のお陰で、俺の冤罪はすっかり晴れた。

ほんの少数だけ、あれは偽動画だと訴えている人もいるが、ネット世論としてはあの外国人の女が示談金欲しさに俺を狙ったのだという方向で固まりつつある。

お店の早期再開を願う声も大きく、明日にでも営業を再開してもいいのではと思っていると、

「ん? 電話だ。……那乃葉から? もしもし、那乃葉? どうしたんだ? ……え? 今すぐ管理庁に来てくれ? っ……俺を陥れようとした犯人の女を捕まえたって!? わ、分かった、すぐ行く!」

管理庁に急行した俺は、先日と同じ長官室へと案内された。

そこで待っていたのは長尾凛子に、水沢氏、那乃葉、そしてプラチナブロンドの白人美女――間違いない、昨日のあの女だ!

「ん? 天童奈々……?」

それになぜか天童奈々も一緒だった。

「西田さん、御足労いただきありがとうございます。立川にいらっしゃったはずなのに早かったですね?」

「全速力で走ってきたので」

ここまでだいたい10分くらいだろうか。

さすがにちょっと疲れた。

「……な、なるほど(私も電車よりは速く走れる自信はありますけど、どう考えてもここから立川まで10分は不可能ですね……)」

長尾氏は少し呆れたように苦笑してから、

「それより本題に入られていただきますね。昨日の一件、管理庁としても見過ごすことのできない事案でしたので、色々と調べさせていただきました。その結果、犯人がフレンス連合国から観光目的で入国していたSランク探索者のエルザ=シモン氏であることが判明しました」

「ということは日本人じゃなかったのか」

「はい。エリナは偽名。両親が日本に帰化し、自身は日本生まれの日本育ちということも真っ赤な嘘でした。つまり外国人が、無許可で我が国のダンジョンに侵入していたわけです」

「う……」

エリナあらためエルザは、長尾氏の厳しい指摘に頬を引きつらせる。

「それで、そこに天童奈々がいるのは?」

「エルザ=シモン氏は、彼女がフレンスで組んでいるチームメンバーの一人だったのです」

「えっ、そうなのか?」

とすると、すべて天童奈々が仕掛けたことだったのか。

やはり相変わらずまだ俺のことを恨んでいるらしい。

「こ、今回の件にあたしは何も関わってねぇ! エルザが勝手にやったことだ!」

「そうですの! あたくしが独断でやったことですわ! だからナナに責任はありませんの!」

どうやら天童奈々がけしかけたわけではないようだ。

「ではなぜ西田さんを貶めようと?」

「あたくしは、早くナナにフレンスへ戻ってきてもらいたくて日本に来たんですの! でもっ、信じられないことにナナはそこの男のせいで帰る気はないと言ってきたのですわ! それが許せなくてっ……」

彼女が洗いざらい白状したことによると、あのパートナーの男は金で雇った探索者らしい。

外国人美女に頼まれ、鼻を伸ばしながらあっさり協力に応じてくれたそうだ。

「にしても、よくこんなに早く特定できましたね?」

「ええ、頑張らせていただきました。フレンスのSランク探索者の情報は我が国ではあまり出回っていませんし、そう簡単には特定できないと高を括っていたのでしょう。正直言って日本を舐めすぎですねぇ、ダンジョン時代のジャンヌ=ダルク(笑)さん?」

「ぐぬぬぬ……」

長尾氏に煽られ、悔しそうに歯ぎしりするエルザ。

「どうされますか、西田さん? 彼女をダンジョンへの不法侵入で逮捕することも可能ですが、せいぜい罰金刑でしょう。探索者として稼いでいる彼女にとって大した痛手にはなりません。ただ、彼女は地元で非常に人気のある探索者の一人です。今回の件を日本政府を通じてフレンス政府に強く訴えるなど国際的な問題としてしまえば、今後母国での活動に支障が出る可能性もあるでしょう」

正直そんなことをしても俺の溜飲がほんの少し下がるだけ。

あの俺の潔白を証明する動画のお陰で、すでにネット上では俺を性犯罪者と思う人は少なく、店の営業も再開できそうなのだ。

「うーん、まぁ俺としては別に何でもいいかなと。今後二度とやらないと誓ってくれれば」

「なるほど、畏まりました。では、迷宮管理庁に彼女の対応を一任していただいても?」

「それで構いません」

俺が了承の意を示すと、長尾氏は満足そうに頷いて、

「というわけですので、エルザ=シモン氏、あなたには新宿歌舞伎町ダンジョンに潜っていただこうかと思います」

「……ダンジョンに、ですの?」

「はい。実は現在、新宿歌舞伎町ダンジョンで、我が国のSランク探索者が率いるチームが行方不明となっておりまして。すぐに捜索チームを結成し、派遣したいところなのですが、目標場所がかなり深い階層でして、なかなか相応しい探索者を用意できないのです」

「そ、そこにあたくしも加われ、と?」

「その通りです。そうすれば今回の一件、穏当に処置させていただきましょう」

長尾氏は有無を言わさぬ雰囲気を醸し出しつつ、にっこり微笑むと、そこで視線を天童奈々の方へと向けた。

「あ、そうそう。そういえば、そちらの天童奈々氏は先日西田さんを襲った件について、まだ何の償いもされていませんでしたね?」

「っ……つまり、あたしも参加しろってことかよ?」

「どうせあれ以来、自宅にこもり切って暇にされているだけでしょう?」

「ぐっ……」

「今回の件、エルザ氏の暴走にあなたにも責任がゼロではないわけですしね」

「わ、わかったよっ……」

どうやら二人そろって新宿歌舞伎町ダンジョンの捜索チームに加わるらしい。

二人ともSランクのトップ探索者なのだし、それを活かす形で罪滅ぼしをしてくれるなら管理庁側にとってこれ以上ない話だろう。

そんなふうに思っていると、今度は長尾氏の視線が俺の方へ。

「それで西田さん、一つご相談なのですが」

……何だろう。

すごく嫌な予感しかしない。

俺、何も悪いことしてないんだけどな?