軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第65話 ちゃんと責任取ってもらわねぇと

小さい頃から人一倍負けん気が強く、男子が相手でも平気で喧嘩し、ボコボコに殴りまくって泣かせてしまったことは一度や二度ではない。

そのせいか、同年代の弱っちい男が、彼女の恋愛対象になることはなかった。

そんな天童奈々にとって、あれは間違いなく初恋だった。

『大丈夫か?』

『っ……』

本来ならまだ上層レベルの実力しかなかった当時、つい調子に乗った挙句、中層の魔物に殺されそうになったとき、助けてくれた大学生の青年。

『(か、カッコいい……)』

あの瞬間の衝撃を、彼女は未だに忘れてはいない。

それ以来ずっと彼女は青年に憧れ続けた。

何の知らせもないまま青年が表舞台から消した後も、ダンジョンに潜り、探索者としてのランクを上げ続ければ、いずれまた会える日がくるはず。

そう信じて戦い続けた結果、気づけば最高位のSランクにまで上り詰め――

――すっかり30歳を過ぎていた。

「ああああああああああああっ!!」

都内某所にある高級タワーマンション。

その最上階の一室で、天童奈々は絶叫していた。

「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

顔をトマトのように真っ赤にさせながら、50畳近くもあるリビングの広々としたフローリングの上を何度も何度も転がり続けている。

「怒りで我を忘れていたからって、まさかあんな醜態を全世界に向けて晒してしまうなんてええええええええええええっ! あああああああっ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ……穴があったら入りてえええええええええええっ!!」

実はあのダンジョンでの一件後、いったん冷静になった彼女は、自分が仕出かした出来事の恥ずかしさを自覚してしまったのだ。

以来、それを事あるごとに思い出してしまい、羞恥に悶えているのだった。

「うぅ……もうまともに外を出歩けねぇ……何で配信中だって知りながらあんな真似を……それもこれも、全部あいつが悪い……絶対に許せねぇ……だから、うん……ちゃんと責任取ってもらわねぇと……」

と、そのときである。

バルコニーの窓から突然、何者かが侵入してきたのは。

もちろんここはタワーマンションの最上階。

地上100階を超えているため、外から侵入するのは不可能だ。

――それがSランクの探索者でもない限り。

「ナナ! 捜しましたの!」

「っ!? え、エルザ……っ? 何でここに……?」

美しいプラチナブロンドの髪に、フレンス人形のような端整な顔立ち。

そのあまりの美貌と探索者としての輝かしい実績から、地元ではダンジョン時代のジャンヌ=ダルクと呼ばれている。

エルザ=シモン。

それが彼女の名前で、現在、ヨーロッパのダンジョン先進国の一つ、フレンス連合国のSランク探索者だ。

天童奈々は現在そのフレンスを拠点に活動しているのだが、エルザは奈々が所属している探索者チームの同僚である。

「あなたを迎えに来たのですわ」

「……は? フレンスからわざわざ、Sランク探索者が? おいおい、そんなの普通、チームスタッフの役割だろうが」

「もちろん止められましたわ? あたくしに抜けられると困る、と。でも突っぱねてやりましたの。ダンジョンよりも、ナナ、あなたを連れ戻す方が重要ですわ」

「いやいや、あたしは所詮、外国出身の傭兵のようなもんだぞ? 母国出身で、チームの主力張ってる存在の方が遥かに重要だろ」

「何を言ってるんですの。あなたは大切な仲間なのですのよ?」

奈々より10歳近くも若く、後からチームに加入してきた後輩がエルザだ。

当時はまだBランク探索者だったが、才能のあったエルザは、あっという間にSランクまで駆け上がり、今ではチームの主力として活躍している。

最初に奈々が指導役を務めたこともあって、確かにエルザは奈々のことを慕っているようだった。

だがまさかチームを一時離脱し、自らこの極東の島国まで足を運んでくるとは……。

「……悪ぃが、あたしはフレンスに戻る気はねぇ」

「っ……なぜですの?」

「あたしは……ここ日本で、やるべきことができた。少なくともそれが終わるまではこっちにいるつもりだ」

断固とした決意を示す奈々。

一方、エルザはその目からすっと感情の光が消失し、

「それは……もしかしてあのニシダとかいう、キッチンザムライに関わることですの?」

「え? い、いやっ……」

分かりやすく動揺を示した奈々に、エルザは確信したように頷く。

「やはりそうですの……。ですが、ナナ、あなたあの男に、フられたのではないですの?」

「フ、フ、フられてはねぇし!? 単に忘れられてただけだし!? むしろこの前の一件で思い出してくれたから、割と可能性はあるはずだし!? あっちも独身みてぇだし!?」

奈々は顔を真っ赤にして反論した。

「あんな中年男のどこが良いんですの?」

「は? どう考えてもカッコいいだろ? 年齢を重ねて以前よりさらにカッコよく……って、いいい、今のは冗談っ! 冗談だからな!? た、確かにあんな中年男、何の魅力もねぇよ! けど、約束は約束だからなっ! しかも大勢の前であたしに恥ずかしい思いをさせやがった責任を取らせねぇと! そう、これは復讐だ、復讐! あくまであいつに復讐するために、あいつにはあたしとけ……け、け、けっ……結婚してもらわないといけねぇんだよっ!」

「……さいですの」

本人は何やら必死に否定しているが、どう考えてもあの男に惚れ込んでいることは明白だった。

「このまま説得するのは難しそうですわね……一度出直しますの」

エルザは踵を返し、入ってきた窓からバルコニーの方へ戻る。

タワマン最上階に吹く強い風。

それがあっという間に声を掻き消してしまう中、端整な顔を般若のように歪めながらエルザは宣言するのだった。

「あたくしの 愛(・) し(・) て(・) や(・) ま(・) な(・) い(・) ナナを、あそこまで惑わすなんて……キッチンザムライ、お前を絶対に許しませんわ……っ! ダンジョン時代のジャンヌ=ダルクことエルザ=シモンの名に懸けて、必ずやお前を排除し、ナナを取り戻してみせますの……っ!」