軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 好きでやってるからいいんだ

「悪いな。いつも閉店後の作業まで手伝ってもらって。お陰で早く帰ることができる」

「いえいえ、好きでやっているだけですから気にしないでください。ちゃんとバイト代もいただいてますし」

「正直バイト代なんてたかが知れているけどな」

うちのお店は9時閉店だが、掃除や翌日の仕込みなどの作業をやっていると、なんだかんだでいつも10時近くになる。

だが大阪真緒がバイトで閉店後の作業も手伝ってくれるようになったことで、最近は9時半くらいには店を出ることができるようになった。

「しかし毎日朝から晩まで休みなく働いて、本当に大丈夫なのか?」

「全然へっちゃらです。それより店長さんはもっと大変ですよね? 定休日も毎回ダンジョンに潜っておられるようですし……」

「いや、俺は好きでやってるからいいんだ」

「じゃあ、私も好きでやっているので大丈夫ですよ」

うーむ、そんなふうに言ってもらえるのはありがたいが、彼女にとって俺の店で働くことにメリットがあるとは思えないのだが。

元々は探索者事務所に入っていたそうだが、なぜ辞めたのだろうか。

気にはなるものの、あんまり詮索してもよくないかと思って、こちらから聞いたりするのは控えているのだ。

「店長さん、お疲れさまでした」

「お疲れさま」

店の鍵を閉めると、そこで彼女と別れる。

俺と彼女の帰る方向は真逆なのだ。

ケンちゃん食堂は、東京西部にある立川駅からさらに西へ数駅ほど行った小さな駅の近くにある。

栄えている立川駅の周辺と違って店も少なく、夜になると一帯は暗い。

そのため夜道の向こうに消えていく後ろ姿を見ていると、若い女性を一人で帰らせていいものかと思ってしまうが、ダンジョンの下層でミノタウロスを狩るようなAランク探索者には無用な心配というものだろう。

「……それにしても、相変わらず視線を感じるな」

恐らくスカウトだろう。

一時期はかなり減ってきたが、まだ懲りずに俺を勧誘したい者たちがいるようだ。

「当然応じる気はないけどな」

そう呟いて、俺は地面を蹴った。

同時に隠密スキルを発動し、闇に紛れていく。

スカウトに自宅を特定されたくないための措置である。

店も困るが、家にまで押しかけられたら堪ったものではないからな。

大通りに出ると、そのまま真っすぐ北上。

やがて俺が住んでいるマンションが見えてくる。

築35年。

割と年季の入ったマンションだが、その分、家賃が安い。

しかも一人暮らしでは持て余す2LDK。

少々不便な立地なのもあって、この広さにもかかわらず家賃は6万円台だ。

「さて、後はもう風呂に入ってビールを飲んで寝るだけだな」

俺の住んでいる203号室のドアを開けようとしたところで、

「ん? 視線?」

不意に嫌な気配を感じ取り、俺は後ろを振り返った。

だがその感覚は一瞬で霧散していく。

「……気のせいか? やめてくれよ、自宅まで押しかけてくるのは」

「……ふ、ふふふふふ……やっと、特定できた……神オヂの……自宅……ふふ……ふふふふふふふふふふ……」

次の定休日、俺は再び金本美久とコラボ配信をしていた。

もちろん姪の恋音も一緒だ。

「わ、わたし、Dランクに昇格しました……っ!」

「おお~~っ、凄いじゃないか!」

前回のコラボ配信でダンジョン探索デビューを果たした恋音は、あれから忙しいアイドル活動の合間を縫ってコツコツとダンジョンに潜り、実績を積み重ねていったという。

その結果、たった一か月ほどで一気にDランクに昇格したらしい。

〈もうDランク?〉

〈昇格早すぎだろ〉

〈やはりニシダの姪っ子やな〉

〈成長速度が半端ねぇ〉

「頑張ったな! Fランクからこんなに短期間でDランクにまで昇格するなんて、なかなか無いはずだぞ!」

〈と、一気にSランクに昇格した人が申しております〉

〈ニシダは例外だから……〉

〈けどこれで恋音ちゃん、美久ちゃんと同じランク?〉

「けど、無茶はしていないだろうな?」

「う、うん、上層しか探索していないから……。それに、おじさんにパワーレベリングしてもらったお陰で、まったく苦戦したりしなかったよ」

「恋音の言う通りでした。単にステータスだけでなく戦闘のセンスもあるため、中層でも問題なく戦えるでしょう」

マネージャーで、Bランク探索者でもある加賀麗華が太鼓判を押す。

「ちなみに私はCランクに昇格できました!」

〈美久ちゃんCランク!?〉

〈すげえええええええ〉

〈おめでとう!〉

〈そろそろ昇格する頃かと思ってた〉

「そうなのか? おめでとう」

「ありがとうございます、ケンさん! でも、私もパワーレベリングのお陰ですよ!」

〈パワレベすげー〉

〈ニシダのがなw〉

〈普通はパワレベあんまり意味ないんだって〉

〈俺もニシダにパワレベしてもらいたい〉

「ぜひ今回もお願いします!」

「お、お願いしますっ」

二人とも気合が入っている。

「そんなわけで、今回も前回に引き続き、ここ井の頭ダンジョンで深層の魔物を相手にパワーレベリングを行っていこうと思います」

〈今回も楽しみ〉

〈目指せ、パワー系アイドル!〉

〈また隠しボス討伐ルートで帰還するのかな?〉