軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第122話 君に選択肢はない

俺が乗った小型の飛行機が滑走路を通り、夜の空へと飛びあがった。

恐らくプライベートジェットというやつだろう。

広い機内は完全に貸し切りで、俺以外には先ほどの東南アジア系の男しか乗っていない。

安定飛行に入ったところで、男が告げた。

「正面のモニターを見てくれ」

俺の家のテレビの五倍はありそうな巨大なモニターだ。

そこに映し出されたのは俺と同じくらいの年齢を思われる、強面で禿頭の男だった。

『君と話ができるなんて光栄だ。魔族殺しのキッチンザムライよ』

外国語だったが、自動翻訳されて日本語の字幕がついた。

「御託は要らないから早く要件を言え」

『まぁそう焦るな。私の名はアルジャ・カスワン。ランジタラ統合王国軍で少将を務めている』

「ランジタラ統合王国軍……?」

ランジタラ統合王国。

その名は当然ながら俺も耳にしたことがあった。

東南アジアに位置する都市国家だ。

この時代にあって、非常に王権の強い国であると共に、このダンジョン時代で最も成功した国の一つと言われている。

都市国家と言われるだけあって小さな国だが、高難度のダンジョンが幾つも出現したことで、一気に先進国に仲間入りを果たしたのだ。

今や一人当たりのGDPは日本を大きく上回り、世界第三位だという。

そのランジタラ統合王国の軍には、国中の探索者たちが所属しており、ひたすらダンジョンの探索に注力しているというが……。

そんな軍の高官が、モニター越しではあるものの、こうして直接、コンタクトを取ってくるなんて。

「ちょっ、ちょっと待て。ということは、恋音をさらったのは……ランジタラ統合王国……?」

思っていた以上の巨大組織で俺は面食らう。

『その通りだ。そして単刀直入にその目的を伝えよう。キッチンザムライ、ニシダ。我々は君の力を必要としている』

「……俺の力を?」

『ああ。現在我が国は、冥層の攻略に全力を注いでいる。これから世界の壮絶なダンジョン競争で勝ち抜いていくには、冥層攻略が必須と考えているからだ。しかし、やはり冥層ともなると並のSランク探索者では太刀打ちができない。Sランクを越える力を持つ探索者が必要不可欠だ。……そう、魔族を倒した君のような』

「つまり、俺にお前の国でのダンジョン攻略に協力しろと?」

『当然、相応の報酬は出す。すでに世界中の組織から勧誘を受けていると思うが、それらとは比較にもならない金額を期待してもらって構わない。無論、金だけとは言わん。君が希望するならば、日本では絶対に受けることができない最高のサービスを提供しよう。……例えば、女とかな』

気づけば、強く握りしめた右の拳がぶるぶると震えていた。

「まさか、そのために恋音を……?」

『そうだ。こうでもしなければ、君を我が国に連れ帰ることはできなかっただろう。少々強引だったが、君ほどの探索者を手中に収められるとならば、我が軍はいかなる無茶も厭わぬ』

プチン、と頭の中で何かが切れた気がした。

「ふざけるなッ……そんなことのために恋音をッ……」

膨れ上がった俺の闘気で、飛行機が大きく振動する。

機内に警報音が鳴り響いた。

『……落ち着くがよい。もはや君に選択肢はない。君の姪が無事に日本に帰ることができるかは、君の行動にかかっているのだからな』

「貴様あああああああああああああああああああっ!」

『無論、希望すれば、いつでも君の姪とは連絡が取れるようにしておこう。こんなふうに』

突然、映像が切り替わったかと思うと、そこには恋音の姿が映っていた。

『っ、おじさん!?』

「恋音!? 無事か!?」

『えっ、う、うん……この部屋に閉じ込められてはいるけど……』

映っているのは、二十畳くらいはありそうな広い部屋だった。

見た感じ恋音の顔色はよく、拘束されている様子もない。

やはり彼女はダンジョン攻略の帰り道で襲撃に遭って車に乗せられ、そうして羽田空港からプライベートジェットで異国の地に連れてこられたという。

『そのときにちょっとだけ怪我したけど、今は治療されてるし、酷い目に遭わされたりはしていないよ』

「すまない……俺のせいで……」

『あ、謝らないで! おじさんのせいじゃないし……隣には寝室もあって、お風呂やトイレもあるの。一応、部屋の中なら自由に動いて良いって言われてて、食事とか、あと必要なものを伝えたら何でも持ってきてくれるみたい』

幸い丁重に扱ってくれてはいるようだ。

「俺も今、飛行機でその国に向かっているところだ。恋音を人質にして、強制的にダンジョン攻略をさせようという腹積もりらしい」

『そんな……せっかくお店が順調なのに……』

「いや俺の店のことはいい。それを言うなら恋音のアイドル活動だって」

また沸々と怒りが湧いてくる。

とはいえ、状況としては最悪だ。

恋音の救出は絶望的だし、やつらの要求に応える以外の選択肢がまるでない。

再びモニターの画面が切り替わり、禿頭の男の顔が映し出される。

『どうやら状況を理解したようだな。観念し、我が国の発展に貢献してくれたまえ。君には本当に期待している。では次は我が国で会おう』

そう一方的に言い残して、男はモニター画面から消えた。