軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第119話 危うく返り討ちに遭うところだったが

「相変わらずケンさんとのコラボ配信は視聴者数がすごいなぁ。いつもの二倍近くも見てるよー」

Xチューブの管理画面を確認しながら美久が言う。

恋音は頷いて、

「う、うん……やっぱり叔父さんのチャンネルと同時視聴している人も多いんですかね……」

「そのケンちゃんネルは、同接最高200万を超えてたみたいだからねー。同接で200万を叩き出せるチャンネルなんて、たぶん日本じゃ他にないよ。つまり、恋音ちゃんの叔父さんは日本一の探索者で、日本一の配信者ってことになるね」

「叔父さんがどんどん遠い存在になっていっちゃう……」

「赤の他人並に?」

「それは言葉を間違えちゃったやつです……っ!」

二人はそんな話をしながら目黒川沿いを歩いていた。

新ダンジョンを攻略した後、コラボ配信を終了してダンジョンから帰還すると、管理庁の職員から詳細の説明を求められた。

それがようやく終わって仲良く自宅に戻るところである。

恋音が住んでいるグループの寮は同じ目黒で徒歩圏内だし、現在は一人暮らしをしている美久もそれほど遠くない場所に住んでいるのだ。

やがて別れ道へ来たところで、

「じゃあね、恋音ちゃん、今日はゆっくり休んでねー」

「はい、美久先輩も! お疲れさまでした……っ!」

そうお互いを労い、別々の方向へ。

途中で何度も足を止めて振り返った恋音は、同じように振り向いて苦笑する美久に、その都度大きく手を振った。

「それにしても……今日の配信は楽しかったなぁ。大変だったけど、美久先輩と一緒に試練を乗り越えた感じで……前よりもっと距離が縮まったかも……」

美久の姿が見えなくなると、恋音は今日のことを振り返りながら思わずニヤつく。

そうして寮として利用しているマンションの入り口がある通りまで来た、そのときである。

「っ」

道を塞ぐように立つ、複数の人影に気づいて恋音は思わず足を止めた。

最初は今日の配信を見ていた記者たちが、恋音にアポなしのインタビューをしようと待ち構えているのかと思ったが、明らかにそういった雰囲気ではない。

探索者としての勘が警鐘を鳴らす中、さらに背後にも複数の気配が。

「(道の両側を塞がれた……? しかもこの人たち……明らかに普通の人じゃない)」

その中の一人が進み出てきた。

ちょうど街灯に照らされ、容姿がはっきりと見えた。

「(外国人……?)」

アジア系ではあるが、あまり日本では見かけない顔立ちの男だった。

年齢は二十代半ばくらいだろうか。

小柄だが鍛えられた体躯で、幾つもの修羅場を潜ってきたと感じさせられる圧力がある。

恋音と同じ覚醒者かもしれない。

「そう警戒しない。危害を加える気はない」

男は片言で告げた。

「な、何が目的ですか……?」

「理由はまだ言えない。大人しくついてくる。あっちの車に乗で移動する」

「……嫌ですと言ったら?」

「少し痛い目を見る」

どう考えてもまともな連中ではない。

応じるままに車に乗ってしまったら、拉致して外国に連れていかれても不思議ではなかった。

恐怖で恋音の心臓が早鐘を打つが、同時にどこか冷静な自分もいた。

探索者になってからレベルアップしてきたし、今日は先輩と二人だけで下層のボスすらも討伐したのだ。

恐らく強くなったことへの自信のお陰で、この状況でもパニックにならずにいれているのだろう。

「すうううっ……きゃあああああああああああああっ!!」

とりあえず大声で叫んでみた。

だが反応があるどころか、本来ならそれなりの人通りがあるはずのこの道には、人の気配すらもない状態だ。

「それは無駄。人払いしているし、声は届かなくしてある」

恋音はすぐに次の手に出た。

踵を返すと同時に地面を蹴り、全速力で逃げ出したのだ。

もっとも、後方には三人の男たちが逃げ道を塞いでいる。

それでも恋音は構わず突っ込んでいった。

体格の良い真ん中の男が恋音の突進を止めようとする。

恋音より恐らく体重で四十キロ以上は重たいだろう。

「……っ!?」

だが恋音のタックルを受け、その大柄の男が吹き飛ばされた。

驚いた両脇の二人が慌てて恋音の身体に飛びかかるが、恋音が腕を振ると二人そろって叩き落してしまう。

そのまま逃走できるかと思われた、そのときだった。

先ほどの小柄の男が、いつの間にか彼女の目の前に回り込んでいた。

「探索者になったばかりではなかったか?」

男は恋音の強さに困惑しつつも、強烈な回し蹴りを繰り出した。

「ぐっ!?」

咄嗟に腕でガードした恋音だったが、凄まじい衝撃に耐え切れずに宙を舞い、近くの建物の壁に叩きつけられてしまう。

「(つ、強いっ……間違いなく、わたしよりも遥かに格上っ……)」

小柄な体躯から放たれたとは思えないほどの蹴りの威力である。

もっとも、先ほど恋音が大男を吹き飛ばしたように、探索者においてモノを言うのは体格よりもステータスなのだが。

「探索者になったばかりにしては強い。だが私との力の差は歴然。大人しくついてくるか?」

「……嫌に決まってますっ!」

恋音はきっぱりと相手の要求を断りながら、アイテムボックスから戦斧を取り出して構えた。

本来は探索者がダンジョン外で武具を使用するのは禁じられているのだが、状況が状況だ。

「やはり痛い目見ないと分からない」

男もまた両腕に何かを装着する。

恐らくガントレットのような武器だろう。

直後、男が凄まじい速度で躍りかかってきた。

◇ ◇ ◇

『無事にターゲットを確保した』

『了解。探索者とはいえ、小娘一人を捕獲するのは楽な仕事だっただろう』

『……危うく返り討ちに遭うところだったが』

『は? おいおい、冗談はやめろ。相手はつい最近、探索者になったばかりだぞ?』

『なるほど、どうやら随分と古い情報に基づいて指示を出していたようだな。一度、Xチューブを確認してみるといい。地下15階のボスとまともにやり合える強さはあるぞ』

『……マジか。ともあれ作戦は成功したわけだ。ルートはすでに確保してある。捕らえたターゲットを連れ帰れ』

『了解』

そう応じて男は通話を終了する。

ちらりと後ろの座席を振り返ると、手足を縛られて眠らされた少女の姿を確認できた。

車は高速道路を走っていた。

そうして目黒から車を走らせること、およそ二十分。

やがて車が辿り着いたのは羽田空港だった。