軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.化け物になってしまった人たちを戻す

23

結局、泊まることになった。転移で帰ることはできたんだが、翌朝学校で『何でうちに泊まらなかったの!?』とか言い出しそうだったからな、ももか。

で、だ。

俺はこのものすんごい広いお屋敷に通された。

着替えを持っていなかった俺たちは、浴衣を貸してもらえることになった……わけだ。

そう、俺“たち”な。

「 咲耶(さくや) は何でいるん?」

咲耶(さくや) も一緒に浅間の家に泊まることになったのだ。なぜか。

「……別にいいでしょ」

「いやその……」

「別に、いいでしょ」

「あ、はい……」

俺たちはでけえ和室にいる。ここを使っていいそうだ。

なんつー広い家。

で、和室には俺と 咲耶(さくや) がいる。 咲耶(さくや) の浴衣姿は、まあ、美人だ。

クラスの連中が氷の令嬢とか言って騒いでる理由がわかる。

「ど、どうかな……?」

咲耶(さくや) がちらちらと俺を横目に見ながら尋ねてくる。

「おう、浴衣似合ってるな」

「そ、そっかな……♡」

「うん」

咲耶(さくや) は上機嫌になった。なんなんだってばよ。

お兄ちゃん、最近妹の情緒が不安定すぎて理解できないです。思春期の妹ってほんと扱いムズカシイね。

「悠仁~!」

すぱん、とふすまが開いて、ももかが出てきた。こっちも和装していた。おお、似合う……。

「……何? 今からお兄ちゃんと寝るところだったんだけど?」

咲耶(さくや) が俺をにらみつけてくる。

「あたしも寝るんだけど」

「え゛?」

妹である 咲耶(さくや) が一緒に寝るのはともかく、なんでももかも……?

「寝るわよ!」

ももかがパンパンと手を鳴らす。黒服の男たちが、どこからともなく現れて布団を敷いた。

川の字に布団を並べると、男たちは去って行く。

「アレは誰なんすか……?」

「浅間家の使用人たちよ。うちで住み込みで働いてるの」

「ほえー……。じゃあ家族みたいなもんか?」

ももかは、ふるふると首を横に振る。

「家族は……居ないわ。葛葉だけよ」

「…………」

なんだか、地雷を踏んでしまった感がある。申し訳ないことしたな……。

「さ、寝るわよ!」

「あ……!」

すでにももかが左端の布団に入っていた。ももかはこっちを見て、キラキラした目を向ける。

「さ、子供……作るわよ!」

……とんでもないこと言ってるぞこいつ……。まあでも、一緒に布団に入れば子供が自動的にできると思い込んでるし、この人……。

まあ、そういうエッチぃことにはならんだろう。妹の前でそんなことできない(したくない)。

『なんじゃ、やらんのか?』

魔王が落胆したように言う。こいつ、そういうシーンを期待してたのか……。

「 咲耶(さくや) ……は、もう寝てるし……」

しかも端っこに座っている。必然として、俺が中央の布団に寝ることになる。両脇に、妖刀美少女たちを抱えながら。

ナンダこのシチュエーション。

『クラスの男子どもから、また呪われてしまうのぉ~』

「やめて」

ややあって。

俺は布団に横になっていた。……まあ、疲れてはいたからな。

しかし寝れん。他人の家だしなぁ。

『美少女に囲まれておるしな』

蝶々と子狐も、それぞれ主の近くで横になっている。まあ全員女、しかも美少女ではある。

『我も美女ぞ』

「はいはい」

『ぬぅ~……。勇者はもしかして男のほうがよいのか?』

「んなわけあるかい……」

俺だって人並みに性欲はある。が、 咲耶(さくや) は妹だし、ここはももかの実家。

親御さんがいるようなとこで、手を出すわけには……。

「…………」

ふと、違和感に気づいた。そう、変だ。

俺……ここに、すんなり泊まれた。それが、変だ。

普通、娘が深夜に男子高校生を連れてきて泊まらせるなんて言ったら、親は止めるだろう。

でも……止められなかった。というか、ももかの親にそもそも会ってない。

「…………」

この家、なんか変だ。

『主よ。この屋敷……なんだか妙じゃ』

魔王もまた、同じ意見らしい。

『妖魔の気配を感じるのじゃ、屋敷の中から』

「………………うそだろ?」

妖刀使いのももかの家に、なんで妖魔の気配がするんだよ……。

いや、まて。ももかが気づいていないってパターンもあるのか。

妖魔の位が高いと、妖刀使いたちは感知できないのである。

…… 式神(くずのは) すら気づいていないのは変だけども。

『それほど強い妖魔なのかもしれんのぅ』

「……俺は、違う気ぃすっけどな」

『違う気? とはなんじゃ』

「…………ちょっと調べるか」

ひとんちの中を調べるのはためらわれる。けど……妖魔がここに居るのは事実。

そして、ももかが妖魔を放置(あるいは気づいていない)ことも事実。それは……やっぱ変だし、ほっとけない。

妖魔だった場合、ももかや 咲耶(さくや) に被害が出るやもしれんからな。

後手に回る前に調べてみよう。

「魔王、妖魔の位置を教えろ」

俺は、浅間の家の中を歩いて行く。……誰一人として、すれ違わない。さっきの黒服男たちともだ。

……静かな廊下の中を、歩いて行く。

『ここじゃな』

「…………」

屋敷の外、土蔵の前へとたどり着く。土蔵には、何枚ものお札が貼ってあった。

「……どう見ても、何かが封印されてるよな、ここ」

『じゃな。何十もの封印術が施されておる。誰も開けられないようにの』

……やっぱ変だ。誰も開けられないって、ももかも開けられないってことだろ……?

なんでそんな場所があるのかも意味不明だし、なんで封印されてるのか、そして……どうしてここの中から妖魔の気配がするのかもわからん……。

やっぱ、ほっとけない。

「 解呪(ディスペル) 」

解呪(ディスペル) 。呪いや封印を解除する魔法だ。

扉にかかっていた封印は、俺の魔法によって消し飛ぶ。

「んじゃ、おじゃまー」

土蔵の扉を開ける。すると、むわり……と腐臭が鼻をついた。

『なんだか陰気な場所じゃの』

薄暗い室内。足音が、かつーん……かつーん……と響く。どうやら思ったより土蔵の中は広いようだ。

「う゛ー……」「あ゛ー……」

「あ゛ー……」

どこからか、うめき声が聞こえてきた。なんだ……?

俺は魔法の光で周囲を照らす。

……そこは石畳がしかれた体育館のようなホールだった。

そして、ホールの中には妖魔が何十体かいた。

『雑魚妖魔じゃの』

しゅんっ、と魔王が俺の隣へと転移してきた。

「我が消し飛ばしてくれよう」

魔王が右手に炎を貯める。……俺は、そのとき偶然、近くに居た妖魔と目が合った。

そいつの目を見て……。

「待て」

俺は魔王を呼び止めた。

「どうしたのじゃ?」

「こいつら……なんか変だ。妖魔じゃあねえかも」

「なんじゃと……?」

何十もの妖魔が俺の元へと近付いてくる。でも……襲いかかる様子はない。

俺は呼吸を読む。相手の呼吸を読むことで、攻撃のタイミングがわかる。敵を知ることができる。

「こいつら……人間だ」

「なんと!? 人間じゃと!? しかし……妖魔の気配がするぞ。魔力も妖魔のそれじゃ」

「たしかに、こいつらの魔力は妖魔だけど……呼吸が人間なんだよ」

ケモノにはケモノの呼吸方法がある。

この妖魔たちは、人間の呼吸をしてる。

「妖魔にさせられた……あるいは、妖魔に体を完全に乗っ取られた連中じゃあないか?」

『そのとおりよ』

いつの間にか、 葛葉(くずのは) がそこに居た。

彼女の表情は沈んでいる。この現場を見て驚いていないってことは、訳を知ってるってことだ。

『この子達は、浅間の家が保護した養子よ』

「養子……」

『ええ。全国から集められた孤児。浅間の家は孤児を引き取って、幼い頃から妖術師になるように教育を施すの』

そういや、ももかが言っていた。学校には通っていないって。

家で妖術師になるための訓練を受けていたのか。

『ここは浅間の家の持つ特別訓練室。養子たちは10歳になると、この土蔵に入れられる。妖魔がたっぷりと居るこの土蔵の中で、生き残った一人が……浅間の家が所有する妖刀、緋刀【梅】の所有者となる』

なんてことだ。浅間家は、そんなことをしていたのか……。

「なんでそんなことを?」

『すべては強い妖刀使いを作るためよ……。妖刀は呪いを喰って強くなる。だから……浅間の家はこんな蠱毒みたいなことをさせるの』

……蠱毒。毒虫を壺の中に集めて、最後の一匹になるまで殺し合いさせる呪術だという。

浅間の家で行われたのは、それだ。

結果、ももかだけが生き残り、妖刀を手にした。

……ももか以外の養子は全員妖魔に体を喰われ、結果……妖魔に体を乗っ取られてしまったと。

「あほくさ」

としか言いようがなかった。そんな馬鹿みたいな儀式を経て作られた妖術師が、俺より弱いのだ。

「そんなアホみたいな呪い……俺が 解呪(ディスペル) してやるよ」

『無理よ。妖魔に体を喰われた妖術師は二度と……にんげんには戻れない。絶対に。100%。どんな手段を使っても』

ふん……。

「そりゃ、この世界の未熟な異能では治せないってだけだろ」

この子らを助ける義理は俺にはない。初戦は部外者だ。

でも……俺は事情を聞いてしまった。犠牲になったこの子達を、かわいそうって思ってしまった。

弱者は助ける。なぜなら俺は……勇者だからな。

「出力最大・ 解呪(ディスペル) !」

さっきよりも強い 解呪(ディスペル) の魔法を使う。

その場にいた妖魔化してしまった妖術師たちを、光が包み込む。

すると……。

妖魔の醜い姿から、人間へと戻っていく。

あたりには、10歳くらいの幼女達が居た。

何十もの幼女達が、目を丸くしてる。

「どうなってるの……?」「これはいったい……?」

そこへ……。

「何やってるの!? 悠仁っ!?」

ももかが慌てて土蔵へと入ってきた。

「ここには入っちゃ駄目って……」

ももかは目の前の光景を見て、フリーズする。

「みん、な……?」

「「「ももちゃん!」」」

ももかの周りに幼女たちが集まっていく。そっか、この子らは同じ浅間の家の養子であるももかとつながりがあるんだ。

「みんな……なんで……? みんな……妖魔に……喰われた……はずなのに……」

『ゆーくんが治したの。妖魔になってしまった彼女たちを、にんげんに戻したの』

「!? そ、そんな……奇跡みたいなことを……やってのけたの……?」

ももかが呆然とつぶやく。そして、静かに涙を流す。

彼女の友達はももかに抱きついている。そして……その肌の暖かさから、生きてる実感を得たのだろう。

「悠仁……ぐす……ゆうじぃい……!」

ももかが号泣しながら近付いてきた。そして……ハシッ! と抱きついてくる。

「ありがとうっ。みんなを元に戻してくれて、ありがとうっ!」

ももかのえがおを見て、俺もまた笑っていた。

助けた人のえがおを見るのは……うん、悪くない。