軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十七話 領都での再会

ラスティネル領領都へは、ディートたちと共に向かうこととなった。

こちらの面子は当然、自分、ノア、カズィ、案内役の男の四人。

一方でディートたちは村周辺の警戒のために部隊を分け、数はだいたい三分の二ほどに。

それに、うさん臭さマックスの+αがくっ付いてくるという現状。

出立前には、村人全員が見送りに訪れ、沢山の感謝の言葉を貰うこととなった。

宿泊費の代わりに刻印具の製作、修復を行い。

村の防衛では被害を最小限に抑えた。

それゆえ、お礼を言いたいという人間が詰めかけたのだが。

まさか村人全員が村の広場に集まったのは驚きだった。

近くに来る機会があれば、また立ち寄って欲しい。

そのときはまた、フィッシュパイをごちそうしてくれるとは、村長とおかみさんの言葉。

それに「是非また」と返して、ディートたちと共に領都へ向けて出発。

道中は話相手が案内役の男から、ディートにバトンタッチ。

王都住みの者が珍しいのか。話疲れを起こしてしまいそうなほどの質問責めを受けることになり、それが終わると今度はギルズが話し掛けて来る始末。

こちらは諸国漫遊など、聞いているだけの話が多かったため、疲れることはなかったが。

ふいにディートが離れた折に、内緒話をするかのように近づいてきて。

銀を手に入れたらどう使うのか。

刻印だけなのか。

別のものにも使うのか。

などなど。

やたらと使い道について根掘り葉掘り聞いてきた。

それには油断せず、刻印の事業に使うとだけ言って適当にはぐらかしたが。

一体何を考えているのか。

ダンウィードの話や。

こういった妙な面もそう。

いまだ人物像が掴めない。

ともあれ、道のりは本来のルートから大きく迂回。

小さな山を越え、川沿いに馬を歩かせ、目的地である領都に到着したのは、日が傾きかけた頃だった。

夕日を背にしたラスティネル領領都。

王国ではオーソドックスな円形の城塞都市であり、この辺りでは最も栄えた都市だ。

城壁の外には、バラックが点在。河川は王都と違って城壁の外を流れ、西へ西へと向かって伸びている。

領主の住まう領城は都市の敷地内にある小高い台地に建てられているため、一際大きく高く見える。

城門をくぐると、夕刻の賑わいを湛えた街が。

王都ほどではないにしろ〈輝煌ガラス〉が普及しており、目抜き通りは特に明るい。

この辺りは銀の産出が多いからか、街のところどころで、銀を使った装飾や銀をもじった名前の店が数多く見受けられた。

領都に入った折、ギルズは「いっちょひと稼ぎしてくるわ」と言って勝手気ままに離脱。

いまはディートたちとも一旦別れ、宿の手配を終えたあと、食事処で休憩中。

領主ルイーズ・ラスティネルへの挨拶と謁見は、翌日の謁見時間にすることに。

本来ならばすぐに連絡を入れるのが筋なのだろうが――こちらが急いで入れずとも、このあとディートたちが報告、事情説明などをしてくれるのは目に見えている。別れ際に「よろしく」と言った際、ガランガが「頼まれました」と返したゆえ、間違いない。

食事を取り終え、おなかもいっぱい。

椅子の背もたれに寄りかかって一息ついた折。

――なんか、麦の値段が上がってるよな。

――今年は不作って話聞いてないけどな。そういや塩の値段も最近高くねえか?

――そういやそうだな。一体どうなってんだろうな?

――さてなぁ。ま、そのうちルイーズ様がなんとかしてくださるだろ。

――だな。

ふと、そんな話が聞こえてくる。

どうやら物価が上昇しているという話のようだが。

しかし、話している者たちはさほど気にした様子もなく、「ルイーズ様万歳!」と領主を称えながら乾杯に興じている。

領主に対する信頼が篤いのか。至って平和な様子だった。

しかし、麦や塩の値上がり。

村でも、村長の口からそんな話を聞いたが。

「麦とか塩の値段ねぇ……ノアは、どう思う?」

「いまの話ですか? 単に周辺の物価上昇に合わせて値段が上がっただけなのでは?」

「こう、なんていうか、戦争の前触れとかは?」

そんな適当な思い付きを口にすると、カズィが呆れ混じりの半眼を向けてくる。

「なんでお前はそうやっていちいち物事を物騒につなげて考えるんだよ……」

「いやぁ、だってさ。麦や塩の値段なんてそうそう上がらないだろ? 普通上がり始めの傾向が見えて来た時点で、領主が介入して調整するぞ?」

麦や塩は、人々の生活に直結するものだ。

値上がりすれば、みなもとに戻そうと手を尽くすし。

当然これが市場操作による急激な物価の上昇ならば、領主が許さないはずだ。

こういったものは領全体の収益にも影響が出るため、食事客が話していたように、改善に乗り出すのが当然。

それに、商人たちがそんな勝手なことをしないよう、この辺りは法もきちんと整備されている。

不作や他領の介入がない限りは、こういったことはそうそう起こりにくいはずなのだが。

「確かにそうかもしれねえがな……俺のご主人様の頭の中には、平和って言葉はないんですかー? んー?」

「つむじをぐりぐりするな。つむじを」

カズィとじゃれ合っていると、ノアが改めて先ほどの話に言及する。

「それは考えにくいでしょう。王国が帝国との戦争の準備をしているのなら西部だけでなく王国全体で高騰していますし、この辺りでは戦を起こすほど対立している領主もいません」

「だよなぁ。一体どこと戦争するんだって話だもんな」

やはり、そういったことは考えられないのか。

戦争するにも、まず戦争をする相手がいないのだ。

それで戦争が起こりそうなどと言うのは、どうしたって無理がある。

だが、それでも生活に欠かせないものの値段上昇というのは、不自然だろう。

今年はどこも豊作だったと聞いているし、にもかかわらず、領周辺の食料の値段だけが上がっているとの話がそばだてた耳に聞こえて来る。

「この辺りを拠点にしているどこぞのバカな商人が買い漁ってるんだろ。よくある話だ」

「なら、すぐに収まるか」

なんでもかんでも事件につなげて考えるのは本の読み過ぎだなと思いながら、カップのお茶を啜っていると。

「――これは、アークス様」

ふいに後ろの方から、声をかけられた。

振り向くとそこには、商売人らしい風体をした小太りな男が。

村からいなくなった商人、ピロコロの姿があった。

「あんたは……」

「ちょうどお見かけいたしまして、失礼ながらお声をかけさせていただきました。出立の折はご挨拶もできず申し訳ありません」

ピロコロは畏まった態度で謝罪の言葉を口にし、大きく頭を下げる。

昨夜に村を出立し、すでに領都に到着していたのか。

村でも感じた通り、やたらと恐縮しきりなピロコロ。

そんな彼に、

「いや、無事で何よりだよ。でも、村で荷が盗られたって聞いたけど?」

「はい。襲撃の折、門を破られたときに隙を突かれて、丸ごと奪われてしまいまして……」

「やっぱり、銀も?」

そう訊ねると、ピロコロは力を落とした様子で「はい……」と口にする。

「最近、この辺りで賊の活動が活発になっている聞いていたので、気を付けてはいたのですが、村の人間を誘導していた隙を突かれて……」

村人の避難の方を優先したので、盗られてしまった、と。

「そのため、急いでここまで馬を走らせ、領主さまにご報告したのです」

「その件は大丈夫だったのか?」

領主の命令で運んでいた荷をみすみす盗られたのだ。

それは処罰の対象になり得るはずだが。

「え、ええ。ある程度お咎めと罰金を払うことになりましたが、山賊被害を抑えられないのは領主にも責任があるということで、思いのほか軽めに済みました」

「そうか……」

理解のある領主なのだろう。罰金は仕方ないにしろ、捕らえられたり、重い罪にされたりしないだけ、恩情があるというものだ。

「それで、ピロコロはこれからどうするんだ?」

「私ですか? 私は……」

「なにか他に仕事でもあるのか?」

「ええと……」

何気なく話を振っただけなのだが、ピロコロはなぜかしどろもどろになる。

返答に困っているということが如実にわかる挙動の不審さ。

そんな態度に小首を傾げると、

「それが……私はこれからナダール領に向かうことになっておりまして、他の仕事は受けられないのです」

「ナダール領に? これから?」

「は、はい……」

ナダール領。

ここラスティネル領とは隣接しているため、移動するには楽だろう。

領都に沿って流れる川を下って行けば、やがてナダール領に到着する。

商品の運搬も、船を使えば楽に進む。

だが、まさかここでもナダールの名前が出て来るとは思わなかった。

最近よくその名前を聞くなと思いつつ、また訊ねる。

「それも、ここの領主さまからの指示なのか?」

「いえ、これはそれとはまた別の仕事でして」

「また運搬の?」

「え、ええ、ええ。そうなのです」

ということは、ナダール領での別件なのか。

しかし、この話になってからどうにも、ピロコロの挙動が変だ。

どこか狼狽えているというか、会話もたどたどしく、要領を得ない。

さきほど挨拶をしたときには普通だったはずなのに。

まるで話の途中で言い訳を探している子供のような印象さえ受ける。

一体どうしたのかと、訊こうとしたのだが。

「で、では、私はこれで……」

「あ、ちょっと……」

制止の声をかけるが、しかしピロコロはこちらの引き留めの声も聞かず、そそくさと店から去ってしまった。

逃げるように去っていったピロコロの背を見送りつつ、ふと言葉をこぼす。

「……なんか、変なヤツらばっかりだな」

「さすがアークスさまがそれ言うと説得力がありますね」

「キヒヒッ! まったくだ!」

「その中にはお前らも含まれてるんだからな! な!」

不用意な発言を、ここぞとばかりに茶化してくる従者たちにそう言って、しばらく。

「しかしあのおっさん、随分と仕事を抱えてるんだな」

「おかしいのか?」

カズィの疑問めいた言葉にそう返すと、彼は、

「いやおかしくはないがよ、仕事に失敗したのにすぐ他領で仕事だろ? こういうの、次に仕事を頼むヤツは控えるモンじゃねえのかってな」

「ピロコロ氏は基本的にラスティネル領とナダール領を行き来している商人なのでしょう。それなら、運搬業務が立て込んでいてもおかしくはないかと」

「で、今回のは……行きか帰りかわからないが、ナダールであらかじめ受けていた仕事ってわけか」

カズィの言葉に、ノアが頷く。

確かに、ここラスティネル領とナダール領は、川で繋がっている。

河川舟運も手掛けていれば、上流から荷を運んだあと、帰りに仕事を引き受けることもあるし、またその逆もあるだろう。

なら、電話のような通信手段がない世界。

あらかじめ仕事を引き受けておくことも、不自然ではない。

あらかじめ。

「…………あらかじめ?」

何気ない会話の中にあった言葉が何故か引っ掛かる。

あらかじめ。それはつまり、〈前もって〉ということだ。

――盗まれた荷。

――突然いなくなったピロコロ。

――撤退、自害など、不可解な行動ばかりした山賊たち。

――頻発するナダールという言葉。

ふいにそれらが、一本の線で繋がったような気がした。