軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17「ビッグネームが来たんじゃね?」③

笑顔を浮かべる春子と、魔界のトップが好きな子を前に照れている中学生のようにもじもじしているある意味地獄のような光景に夏樹は眩暈がした。

「あ、あのさ、とりあえず……どうすればいいんだ、これ?」

場を収めようとした夏樹だったが、どうすれば収まるのかわからず頭を抱える。

「ねえ、夏樹。どうして太一郎くんがお家にいるのかしら? お知り合いだったの?」

「あー、えっとね、サ……じゃなくて太一郎さんと、そちらの 一心(ぴゅあ) さんは小梅ちゃんのお父さんとお兄さんなんです」

「あらあら、まあまあ! 小梅ちゃんのお父様が太一郎くんなの? それに息子さん? もうっ、夏樹も皆さんが来ているって教えてくれたらいいのに。いつも通りの格好で、お母さん恥ずかしいわ」

「いいえ、春子しゃんはいつでも素敵です!」

「もうっ、太一郎くんったら、いつもお上手なんだからっ!」

サタンの賛辞の言葉に春子は嬉しそうにする。

明らかに母に好意を持っているサタンを見て、夏樹はげんなりした。

小梅など今にも吐き出しそうな顔をしている。

「そうだわ。せっかくだから、太一郎くんと 一心(ぴゅあ) さんもご飯食べていってね。あ、でもお肉が足りないわ。ちょっと、買ってくるわね」

「春子ママさん! こんなおっさんにすき焼きなんて食わせんでええのじゃ!」

「おい、ルシフェル。これで、上等な肉を買ってこい」

懐から長財布を取り出して息子に投げる。

財布を受け取ったルシフェルは「はいはい」と立ち上がった。

「パパとご飯なんて久しぶりだから嬉しい! お兄ちゃん、山のように高級お肉買ってきてね!」

「……小梅ちゃん、我が娘ながら現金な子」

「マイシスター……心のこもっていない声でもお兄ちゃんと呼んでもらえるだけで、私は幸せです」

高級な肉が山盛り食えるとわかった途端、小梅の態度がひっくり返った。

これには銀子も「……小梅さん、そりゃないっすよ」と顔を引き攣らせ、サタンとルシフェルも悲しげな顔をした。

ルシフェルが立ち上がったので、夏樹も続く。

「よかったら、俺も付き合いますよ」

「……助かります。お願いします」

買い物カゴを持って、「え? 私はここに置いてかれちゃうんすか?」と動揺を隠せずにいる銀子にごめんね、と目配せすると夏樹はそそくさと茶の間を出ていった。

玄関を出て、商店街に向かって歩く。

途中、すれ違う人々がルシフェルの美貌に目を奪われている。

自転車に乗った中高生は電柱にぶつかり、ジョギング中の主婦が全速力で走り出した。

男性でも、びっくりするほどのイケメンが歩いている姿を目で追ってしまっていた。

「――由良夏樹くん」

「はい?」

ルシフェルは人間の視線が気にならないのか、それとも視線を向けられるのが日常茶飯事なのか平然としている。

「父が申し訳ございません。まさか夏樹くんのお母上に近づいていたとは……殺すことはできませんが、頑張って五十年ほど封印しておきますね」

五十年封印されていれば、母も歳を重ねているだろう。

もしかしたら寿命を全うしているかもしれない。

夏樹だって、その頃には老人といえる。

魔族の五十年は短いかもしれないが、人間ならば半生以上だ。

「いえ、別に」

夏樹は苦笑した。ルシフェルは気を遣ってくれているようだが、夏樹は実を言うと母が幸せならそれでいい。

一度は、異世界に召喚され二度と帰れないかもしれないと思った。何年も向こうで過ごしている間、母がどうしているのだろうとも考えていた。

結果的に、召喚された同じ時刻に戻ってこられたからよかったものの、そうでなかったらと思うとゾッとする。

だからこそ、母には支えてくれる誰かが必要だ。

それがサタンというのはいかがなものかと思うが、母がサタンを選ぶならそれでいいと思えるのだ。

「父を弁護するようなことをしたくはありませんが、下心はあっても、遊びや戯れで近づいているとは思いません。というか、あのように思春期の少年のようにモジモジする気持ちの悪い父を今まで見たことがありませんでした」

「……そうなんですか。それならいい、のかな?」

「どうでしょうね。小梅ちゃんは家族のことを言わないでしょうが、私たちは母親が違います。しかし、父は母たち、私たちにちゃんと愛情を持って接してくださいました。良き父かと問われると素直に是と言えませんが、悪い父でもありません」

「はい。小梅ちゃんもサタンさんを心から嫌がっていないみたいですし、親子仲に関しては疑いません」

「ありがとうございます」

「ただ。母がサタンさんと本気で一緒になりたいと思うならそれはそれで反対はしませんけど、祝福してもいいのかどうなのか困りますよね」

夏樹がそう苦笑いすると、ルシフェルも確かに、と肩を竦めた。