作品タイトル不明
49「絶望じゃね?」
小梅・ルシファーは、防戦一方だった。
「ぜーぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜ! この絶望の神ぜっくんの絶望ソードは、触れた瞬間、絶望した過去を思い出させる絶望的な素敵アイテム! 過去の自分のあんなことやこんなことを、まるで今体験したように思い出すことができるのだ!」
「絶対にかすりもしたくないんじゃが!?」
光の槍で防御するが、わずかに掠っただけでも効果はあるようで、実に怖い剣だ。
戦場で絶望などすれば、待っているのは死だ。
ぜっくんは隙があれば容赦無く小梅を殺すだろう。
「ちょっと、小梅さん! なにやってるっすか! みなさん、戦いが片付いてきていますから、絶望の神をぶっ飛ばしましょう!」
「ばっ、銀子! うかつに近づくでない!」
「え?」
「隙あり! 絶望ソード、絶望斬り!」
「剣と技名ださすぎっす!」
戦いを終えて応援に来た銀子が魔剣太郎を握り絶望の神の背後をとった。
しかし、絶望の神は特に隙などなかったがとりあえず「隙あり」と叫び絶望ソードを振るう。
銀子は魔剣太郎を全力で振り下ろした。
魔剣によって絶望ソードが両断された。
「――なんと絶望的な」
「正直、斬ることに関しては夏樹くんよりも得意っすよ!」
ドヤ顔をする銀子の手の甲を、絶望ソードの破片が掠る。
数ミリほどの切り傷ができた。
「ぜ、ぜっぜっぜっぜっぜ! 青山銀子! 我が絶望ソードに触れたな!」
「こんなかすり傷なんだって言うん、す、か……?」
銀子の脳裏に、かつて味わった絶望が襲った。
■
青山銀子が由良家で本格的に生活することになって、実家から荷物を持ってきた日のことだった。
「あ、銀子さん、荷物?」
「そうっす! 本格的にお世話になるんで、私物を少々っす」
「……段ボール箱五箱が少々なんだ」
「嫌っすねぇ。女の子に野暮なこと言いっこなしっすよ!」
「……女の、子?」
夏樹が首を傾げた瞬間、銀子の瞳からハイライトが消えた。
「――夏樹くん」
「はい? ――ひえっ」
「中学生はぴちぴちきゃぴきゃぴしているっすから、魅力的に見えるでしょう。彼女たちに比べたら、私は女の子ではないかもしれないっす。でもね、目の前で首傾げるんじゃねえよ」
「は、はひ……しゅみましぇんでした」
ガクガクと震える夏樹が素直に謝罪してくれたので、銀子は笑顔を取り戻した。
「わかってくれればいっすよ! もうっ、女の子に失礼な態度を取ったらモテないっすよ!」
「う、うっす! 申し訳ありません! あ、お荷物運ぶのお手伝いします!」
「ありがと――いえ、いいっす」
「なんでぇ?」
こてん、と首を傾げる夏樹に、銀子は慌て出した。
「いえ、あの、そのっすね。このダンボールには下着がたくさん」
「下着がダンボールいっぱい入っているの!? 女性の下着に反応じゃないよ! この段ボール箱いっぱいに下着が入っていることに驚いているだけだからね!」
「い、いいじゃないっすか!」
「……でも、今さらだよなぁ。洗濯物取り込んだりするし、畳んであるのそのままだし」
「そうっすよね! 装備していないなら、ただの布切れっすもんね! しかも、基本的に取り込んで畳むのはサタンさんですし! なーんで、魔王が家事しているっすか!?」
「それは俺にもわからない!」
「と、とにかく、お気遣いだけで感謝しておきますっす! ほら、夏樹くんは自室でこっそり思春期タイムでも楽しんでくださいっす」
「思春期タイムってなに!?」
「ふふふ、あえて言わせたいんすね。この欲張りさんっすねぇ!」
「なんか誤解されてる!?」
なんとか誤魔化せた、と銀子は一番触れられたくないダンボールを持つ。
「ふんぬ!」
「……衣類が入っている段ボール箱を持つ掛け声じゃねーし」
「気のせいっすよっと! っしゃおら!」
「絶対重いものもってるでしょう!? ……無理して手伝ったりしないけど、必要なら言ってね」
「あ、ありがとうございま――」
乗り切った、と銀子が気を抜いた時――ダンボールの底が抜けた。
ずさささささ、とたくさんの研究資料が床にばら撒かれてしまう。
「ああっ、貴重な資料が!」
「……資料? ……なんで女の子みたいな男の子と王子様みたいなイケメンが裸なの?」
「見ちゃダメっす! まだ夏樹くんには早いっす! その扉を開くのは、あと三年ほど早いっす!」
「三年後も開くつもりはないからね!」
資料をかき集める銀子に、ツッコミをいれた夏樹だったが、一度咳払いすると、慈しみを宿した笑みを浮かべた。
「――ほどほどにね」
そう言って、背を向けた夏樹は部屋に戻っていく。
研究資料を抱き抱え、残された銀子は――叫んだ。
「絶望だぁあああああああああああああああああ!」