作品タイトル不明
47「茨木童子としののんじゃね?」②
「は? そんなん、嘘やろ?」
茨木童子は、絶命こそしていないが息絶えようとしていた。
「ありえへんやろ! こんなあっけなく死んでまうか?」
東雲は茨木童子の身体を揺さぶる。
「どんだけ自分がお前のこと殺そうとしたと思っとるんや! なんで、こんな簡単に死のうとしてんねん!」
「……姉貴、東雲」
「べぁ」
東雲は震えながら、怒鳴る。
だが、茨木童子の反応はない。
安らかな顔をして、目を閉じている。
星熊童子と熊童子が居た堪れなくなったのか、東雲の肩に手を置く。
「認めへん! こんな結果は、認めへん!」
だが、東雲はふたりを振り払い、懐から瓶を取り出す。
「君を殺すんは自分や」
東雲は、覚悟を決めて瓶を開けた。
■
少し時間は遡る。
「しののん、これどうぞー」
戦いの支度をしていた東雲に、夏樹が瓶を取り出した。
急に差し出されたので反射的に受け取ってしまったが、よく見るとウイスキーの瓶だった。
さすがに東雲は苦笑する。
「……夏樹くん? 気持ちはありがたいけど、自分は銀子はんやないから朝から酒飲んだりせえへんよ。しかも度数が六十度あるんやけど、このウイスキー!?」
酒は嫌いではないが、朝からこんな強い酒を飲む趣味はない。
お茶とかのほうがありがたいと思う。
「違う違う! 俺だって、銀子さんや小梅ちゃんならともかく、しののんにウイスキーを朝っぱらから飲ませようなんて思わないって!」
「じゃあ、これはなんなん?」
「吾輩のブラッドである!」
「急にキャラが崩壊しても困るんやけど!?」
栓を開けて鼻を近づけると、確かに血の匂いがした。
夏樹の血ということは、完全なる血統である。
「えっと、僕にはこの血は必要ないと思うんやけど」
「みんなに渡しているんだよ。スターベアさん、とらぴー、ベアさんたちに万が一のことがあったら困るし、もしかしたらこっちの世界の魔族にも効くかもしれないからお守りがわりに」
「……そう、やね」
「あれ? しののん的には、スターベアさんたちとはやっぱり蟠りがある感じ?」
「むしろ、なんも感じとらへん夏樹くんのほうがびっくりや」
「茨木童子とは正々堂々戦ったから、思うことはないよ。昔のことも覚えていないし。しののんや円ちゃんの人生が狂ったことに関しては、腹立たしいけど、殺したからね。それで、終わり。鬼姉妹たちが、茨木童子を殺した俺をどう思っているのかは本音はわからないけど、恨むなら恨んでいいし、憎むなら憎んでいいよ」
「……夏樹くん」
東雲にはわかった。
仮に、星熊童子たちが茨木童子の件で夏樹を恨み、敵を取ろうとするのならば、真正面から受けて立つだろう。
そして、殺してしまうと思う。
それは、どこか悲しいと思った。
夏樹には、躊躇いがない。
いや、彼基準ではあるが、東雲からすると敵への容赦がなさすぎる。
東雲たちが葛藤するところを夏樹はしない。
きっとだからこそ強いのだろう。
しかし、そうなってしまうほどの経験をしてきた夏樹を、悲しく思った。
「しののんは強いから心配はしていないけど、万が一ってこともあるし。鬼さんたちにも死んでほしくないんだ」
「……せやね。受け取っとくわ。ちなみに、ちゃんと洗ってあるん?」
「しののん……俺が洗うと思う?」
「思わんなー。夏樹くんらしいわぁ」
■
「きっと夏樹くんはこんなん展開予想もしとらんかったやろうけど、堪忍な。自分は、どうしてもここで茨木童子を死なせられへん!」
夏樹の血を飲ませようとしたが、茨木童子は動かない。
もう彼女に飲む力が残っていないのか、飲む気がないのか。
「……なんで自分はこんなことしとるんやろうなぁ」
憎んでいたはずなのに、何度も殺すことを考えたのに、今は生きていて欲しかった。
「矛盾しとるなぁ! 円にも謝らんとな!」
東雲は瓶に口をつけて夏樹の血を口に含んだ。
そして、力無く横たわる茨木童子の唇に、自らの唇を重ねた。