作品タイトル不明
エピローグ「地球もかなりファンタジーじゃね?」
「神殺しを祝してかんぱーい!」
夏樹の自室で、小梅、銀子、ジャック、ナンシーが缶ビールを掲げて乾杯した。
床にはポテトチップスや、ナッツ、せんべい等が広げられている。
母は夕食を終えたあと、友人と久しぶりに飲みに行ってくると嬉しそうに出かけていった。
実を言うと、母は親ひとり子ひとりのため夜外出することはしなかったのだが、今は同居人が、いや、新しい家族がいるため安心しているのだろう。
銀子に至っては警察官だ。
夏樹たちも母を除け者にするつもりはなかったが、霊能関係に巻き込むことができない。母が出かけたあと、お祝いを兼ねた晩酌となった。
「いやー、すげーっすよね。水無月家の土地神は力のある神だって言われていましたからちょっと心配だったんすよ。まあ、ルシファーを名乗る天使の小梅さんを泣かせる夏樹くんなら、その心配も杞憂だったんでしょうけど」
「泣いておらんし!」
「心配してくれてありがとうございます。あ、おじさんには?」
「お父さんには一応言いました。公私混同になっちゃいますけど、夏樹くんの神殺しは自分とお父さんだけのことにしておきます。水無月家も早々に、院へ土地神消滅を報告したみたいっすけど、あくまでも永きに渡り土地の穢れを引き受けたため、としていましたんで大丈夫だと思うっす」
どうやら水無月家はちゃんと夏樹の存在を隠してくれるようだ。
「しっかし、俺様と宇宙人のおかげで夏樹の力はあの山だけで済んだんじゃからな。感謝しろ!」
「わかっていましたけど、水無月家所有の山を一部切り崩したのはやっぱり夏樹くんだったんっすね」
「ばっかやろう! あれだけで済んだのは、俺の結界と障壁に、ジャックの宇宙的結界の三重じゃったからじゃぞ! しかも、俺様、全力じゃったんですけど!」
「いやー、申し訳ない。ジャックもごめんなさい。まさか宇宙船が壊れるなんて」
ナンシーとにこやかにビールを飲みながら、ポテトチップスを興味深そうに頬張っているジャックは、口の中のものを飲み込むと歯を光らせて微笑んだ。
「親友よ。君が気にすることではない。私の最愛のナンシーを助けてもらったことを考えれば、宇宙船のひとつやふたつ痛くも痒くもないさ」
「でも、星へ帰れなくなったりしない?」
「ちゃんと保険の範囲だから問題ない。夏樹に負担はかけないので安心してほしい。それにいざとなったら地球に友人もいるし、父に迎えにきてもらっても構わない」
「……すでに宇宙人に地球占領されとるじゃろ」
「それは誤解だ、小梅よ。少なくとも私の星では争いを望まない。無論、挑まれれば戦うが、争いが無益であると結論が出ており、我々は争いを嫌っている。あくまでも友好的に接していくだけさ」
「紳士っすね。どっかの国のお偉いさん方に、ジャックさんの爪の垢煎じて飲ませたいっすよ」
まったくだ、と夏樹も頷く。
すでに銀子はビール三本目を空にしたところだ。
小梅も負けじと三本目をぐびぐび飲んでいる。
ナンシーとジャックはちびちび飲むのが好きなようだ。
夏樹だけは未成年なので、お風呂上がりでもあるので炭酸水ですっきりしている。
「あ、そうじゃ。すっかり忘れておったんじゃが、ゴッドから夏樹に言伝があるんじゃが」
「なんでゴッドが!?」
突然のことで、夏樹は口に含んでいた炭酸水を吹き出しそうになった。
「よかったらSNSをフォローしてくださいじゃと。あ、銀子にもフォローしてほしいそうじゃ」
「さすがにゴッドをフォローするのはちょっと……というか、ゴッドはSNSやってるっすか!?」
「やってるんじゃよ。俺らなんぞ、強制的にフォローさせられとる。マメにいいねせんと小言言われるんじゃが」
「パワハラっすね! パワハラゴッド!」
「そうじゃろそうじゃろ! 銀子に任せるんじゃ、がつーんと言ったれ!」
「いえ、それはちょっと」
「急に真顔にならんでもええじゃないか!」
小梅は銀子と楽しそうなやりとりをしている。すっかり友人になったようだ。
あと、なぜか不思議なのは、小梅が銀子と戯れながら片手で夏樹のスマホのロックを解除してSNSを開いたことだ。
(……スマホは健全。セーフ!)
数字の羅列とは言え、脈絡もない数字にしているはずが、なぜロックを簡単に解除されたのか不明だ。
パソコンのほうは英数字を複雑にしているので、大丈夫だとは思うが、あとでパスワードを変えておこうと思う。
(思えば、帰還してから忙しくてスマホもパソコンもあんまり触ってないな。いや、違うか。小梅ちゃんや銀子さん、ジャックとナンシーがいて賑やかだからスマホとか触る必要がないんだな)
異世界ではまともな人間がいないこともあって、賑やかに話をすることもなかった。
魔族を殺しては、貴族たちが祝賀会を開き、酒を飲み飯を食う。何もしていないくせに、まるで自分の手柄だと言わんばかりに、物語る。
強制的に参加させられていた夏樹は、そんな貴族たちを同じ人間とは思えず、嫌悪していた。
飲み食いしない夏樹を不気味に思いながらも、媚を売ろうとする人間の醜悪さに何度吐いたことか。
(ま、今頃、俺がいない人間側は魔族に押し潰されているんだろうねぇ。魔王も、クソ魔神に操られている時よりも、解放されてからのほうが理性的で強かったし。ま、俺が勝ちましたけど)
人間が魔族を殺し、奴隷にしていたように、魔族が人間を殺し、奴隷にするのも時間の問題だ。
唯一、魔王に勝利できた夏樹は帰還しているので、人間側に戦力はいない。
勇者召喚もいつでもできるわけではないようだし、真偽は不明だが生贄が必要だと聞いたこともある。
人間の中にも強者はいたが、魔族に恨みがない場合はそうそうに人間を見限っていた。
魔族を倒そうとしているのは、権力者だけで、下は振り回されていたにすぎない。
夏樹にも魔族側の人間から何度も接触があったが、夏樹の目的は地球への帰還であり、魔族と仲良くすることではないので断った。仮に、魔族が地球への帰還方法を知っていたら味方になっただろうが、残念ながらそれはなかった。
(まあ、二度と縁のない異世界はどうでもいいや。はっきり言って、帰ってきてからの四日間の内容が濃くて、スッカスカだった異世界とか忘れそうな勢いなんですけど)
ひとりで苦笑している夏樹に、ほろ酔いとなって頬を赤くしている小梅がスマホを差し出してきた。
「俺様は親切だからゴッドのアカウントをフォローしておいたぞ!」
「ちょ、なに勝手に――うわぉ、すげぇな、おい! フォロワーが∞になってるんですけど! こんな仕様あったっけ!?」
「それはゴッド仕様じゃ」
「すげえなゴッド!」
さすがゴッドなだけあってかSNSで優遇されている。
「あ、あの、ゴッドがフォローしている方たちの中に、ゼっさんとか、おでん、とか那岐爺、那美婆とかいるんですけどぉ。あ、もう隠す気ない名前もある。この人、怖い神話の人だ!」
「すげーっすね。逸話的に関わりたくねー人もいるっすねぇ」
「つーか、サタンがSNSでゴッドと相互フォローしてるんじゃねーよ」
「い、一応、親子らしいんでいいんじゃないっすかね」
見ているのが辛くなってきたので、そっとスマホを閉じようとしたとき、ゴッドが夏樹のアカウントをフォローした通知が入った。
「いやぁあああああああああああ! ゴッドにフォロバされたぁあああああああああ! これ、やばくない、挨拶したほうがよくない?」
「あっ、な、夏樹くん、メッセージきたっすよ」
「見たくない」
「見てくださいっす! 無視はやばいっすよ!」
「うぇぇ」
恐る恐るメッセージ欄を見てみると、予想通りゴッドからだった。
『――はじめまして、由良夏樹くん。みんなのゴッドです。フォローありがとうございます。よろしければ今度お話をしましょう。特に、異世界に関して教えていただけると嬉しいです』
「ぜーんぶご存じだー!」
夏樹には、『喜んで』とお返事することしかできなかった。
――異世界から帰還した勇者由良夏樹は、警察官、宇宙人、天使と出会い、神殺しをして、果てにはゴッドとSNS上で繋がってしまったのだった。
「地球も異世界以上にかなりファンタジーだったよ!」