作品タイトル不明
10「絶望するんじゃね?」①
「……なーんで夏樹は倒された魔王みたいなノリなんじゃ?」
「夏樹君だからじゃないっすかねぇ」
「心配して叫んだ俺様が馬鹿みたいじゃった」
「いえいえ、良き乙女でした。銀子さん、大満足っす!」
「うっさいわ!」
小梅たちは、夏樹の心配をしなかった。
あの様子ではすぐに戻ってくるだろう。
異世界に飛ばしただけで夏樹がどうこうなるとは今更思えなかった。
「……ま、姐さんたちと同じように俺たちも由良の心配はしてねえさ」
「せやねぇ。夏樹くんが戻ってくる前に、面倒な敵は片付けておこか」
千手は電子煙草を咥えながら、東雲は飄々とした様子だ。
夏樹の心配は微塵もしていない。
「なっちゃんなら大丈夫やって信じとるから」
「むしろ、どうやって夏樹君を倒せるのかって思います」
「……勇者じゃなくても強かったのに勇者になって手に負えなくなっている気がする」
円が、祐介が、一登が、夏樹の無事を信じていた。
気づけば、都たちも、それぞれ戦いを終えている。
魔族とブレイバーズ王国軍の戦いは続いているが、ぜっくんに操られて襲いかかってきた兵士はすべて倒したのだ。
「さて、どうしますか、絶望の神よ?」
義政が尋ねると、ぜっくんは笑みを浮かべた余裕の表情を消し、憤怒を浮かべた。
「――なぜだ!」
どしゃり、と閉じた門の上に血を撒き散らして現れ倒れた門の神に目をくれることなく、ぜっくんは叫ぶ。
「なぜ、お前たちは絶望しない! なぜ由良夏樹は絶望しない!」
血走った目をして唾を飛ばすぜっくんからは、今までの余裕は見て取れなかった。
彼はシルクハットを叩き落とし、頭をかきむしる。
「お前のために対策をした! 義妹を、友人を敵にし、襲撃だってした! 異世界召喚というトラウマも刺激した! だが、お前は絶望しない! なぜだ、なぜだっ、なぜだぁああああああああああああああああああああ!」
絶望の神は、人間の絶望から生まれた。
現代社会だけの話ではない。
昔から、世界には絶望が溢れている。
ぜっくんは、新しい神の中でも古い神だった。
絶望の中で産声を上げ、数多の絶望を見てきた。
絶望する人間を救った。
救った人間が再び絶望した。
自身も何度も絶望した。
――そして、心が折れた。
絶望の神は、繰り返される絶望に、絶望したのだ。
――ゆえに、絶望を楽しむことにした。
どうせ絶望するのなら、絶望を与えよう。
どうせ苦しむのなら、私が苦しませよう。
人は絶望する生き物だ。
ならば、せめて自分の手で絶望させてあげよう。
それが、絶望の神の出した答えであり、人の救済だった。
絶望の神は人間を愛している。
心から愛している。
愛しているからこそ、彼らが絶望することが我慢ならない。
だから自分の手で絶望させ続けるのだ。
――しかし、由良夏樹は絶望しない。
――笑っているのだ。
――彼の仲間も誰一人として絶望しない。
絶望の神は、絶望しない者たちを前に――絶望しそうだった。