軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74「決着の時間じゃね?」④

三原優斗の杏に対する言動が、自分に「なにか特別な力」があると自覚していると、夏樹は確信した。

その正体まで行き当たっていないようだが、きっかけさえあれば気づく可能性もある。

杏に近づいた優斗が触れた瞬間、眠っているはずの潜在能力が一時的に爆ぜたことも見逃せない。

――なによりも驚いたのは、夏樹と方向性も能力も違うであろうが、優斗の潜在能力の正体が勇者としての力であることだった。

実を言うと、夏樹は優斗を放置してもいいと考えていた。

自分に害を与えることができない、できたところで羽虫くらいにしか感じないだろうと思っていた。しかし、勇者の力を持つのなら話は別だ。

今は魅了だったとしても、万が一、力をはっきり自覚し、目覚めたら大変なことになると直感が騒いだ。

例えば、魅了が強くなり、洗脳できるかもしれない。攻撃の手段を手に入れて、気に入らない人間を殺すかもしれない。

今まで、好き勝手に生きてきた優斗が大きな力を手に入れた場合、自制などまずしないと考えられた。

優斗にとって不幸だったのは、幼馴染みの夏樹の方が先に力に目覚めていたこと。そして、現時点では比べ物にならないほど力に差があること。

夏樹にとって幸運だったのは、優斗の力が目覚める前にその本質を知ることができたことだ。

きっかけは、一登から教えてもらったことだった。

一登自身がちゃんと理解している訳ではなかったが、優斗は夏樹に悪い意味で執着している。

普段、一緒にいる少女たちに好意さえ抱いていないという驚くべきものだった。

また、優斗は先日水無月茅に相談した時から監視下にあった。

夏樹の言葉を信じてくれた茅が、万が一、力を使って優斗が悪さをしているのなら見過ごせないと判断してくれた。

八咫柊の式神によって監視されていた優斗の居場所はすぐにわかった。

近づいてみると、杏を唆している瞬間だったのだ。

それだけならまだいい。

杏がなにかしようとしても、興味もない。

しかし、よりよって夏樹にではなく、小梅に標的を定めたことは我慢できなかった。

優斗程度の魅了では小梅はもちろん、銀子だって問題ない。仮に勇者の力に目覚めたとしても、小梅では相手にならないだろう。小梅はそれだけ強いのだ。

だが、それはそれ、これはこれ、だ。

新たな友人に。短い時間だが、家族のように接した小梅によからぬことをされたら実害がなくとも堪ったものではない。

つまり、三原優斗は最後の最後で選択肢を間違えた。

夏樹の拳は、優斗の頬骨を砕くことはしなかったが、とある力を同時に叩き込んでいた。

水無月茅に、感謝の気持ちとして贈られた封印術だった。

「――っ、夏樹!?」

「――っ、じゃねーから。悪いけど、もう嫌。超、嫌。お前の存在に吐き気を覚えるんですけど。嫌悪しかないんですけど。関わるのめっちゃ嫌なんですけどっ!」

「夏樹っ! 幼馴染みの僕に、よくもそんなことを! だいたい、お前が――」

「あ、別にお前なんかの感想とかどうでもいいんで。誰も、お前になんて興味ねーんだよ!」

「ぐべっ」

もう一発ぶん殴っておいた。

地面に突っ伏した優斗に向かい、術式を発動させる。

「――縛れ。封印術――牢」

優斗はもちろん、杏にも聞こえないほど小さな、しかし魔力を込めた声を発した。

刹那、優斗の力を術式が封じ込めた。

術式、といっても夏樹は正式な使い方は知らない。ゆえに、自前の規格外の魔力で雁字搦めにしてやった。

肉体的にも影響が出るようだが、もう知ったことではない。

全盛期ではないとはいえ、夏樹の全力の魔力で優斗の潜在能力すべてを封じたのだ。この術式が解けるには、夏樹が死ぬか、優斗が夏樹以上の力を手に入れて自ら解除するか、夏樹と同等の力のある第三者が術式を解除する以外ない。

『由良様ほどの力の持ち主であれば、まず人間では解くことができないでしょう。いえ、神や魔でも、どうかわかりません』

水無月茅からのお墨付きもある。

優斗が自力で解くことは不可能に近い。彼がたとえ霊能力を知ったところで、その力は全て封じられ成長がまずできないのだから。

(殺さないっていうか、こんな屑殺す価値もない。むしろ、魅了がなくなったこいつが、好き勝手していた代償をどう支払うのか楽しみだよ)

魅了が解けた人たちから相応の罰を与えられて、ちゃんと苦しむべきだ。

肉体的にも封じられ、今まで通りの都合のいい日々が終わったことを自覚し、絶望してほしい。

(魅了抜きでもまだ女の子を夢中にできたなら、それはそれでお前の勝ちだってことで。きっと無理だろうけど。お前に魅了以外の魅力があったところで肝心なものが役に立たなかったら……ぐへへ)