作品タイトル不明
73「決着の時間じゃね?」③
「優斗、くん?」
驚いた顔をする杏に、優斗は優しく微笑みかけた。
中学に上がり、何度も女子と触れ合うことが多くなると、優斗は自分の体質をはっきりと理解していた。
なぜか不明だが、触れれば触れるほど少女たちは自分を好きになる。
肌と肌が触れ合う程度なら、好意を抱く程度だが、その時間が長ければ好意は強くなる。
キスをすれば、もっと効果は強くなり、それ以上になれば言うまでもない。
無論、それ以外の努力が大切だと知ったので、女子のために笑顔を貼り付け、思ってもいない言葉を囁き、精を吐き出すためだけに抱いた。
彼女たちを褒め、一番だと囁き、君なしでは生きていられないと泣いてみせた。すると、優斗のことを第一に考えてくれる少女たちが増えた。少女たちが協力し合い、自分のために動いてくれるようになった。
夏樹へ嫌がらせをしてみても、なにも効果はない。
ならば、もっと直接的に苦しめるしかない。
「学校に来ていないから心配したよ。なんとなく事情はわかっているよ。夏樹が悪いんだよ。君の真っ直ぐな思いに夏樹は応えるべきだ」
「……優斗くん」
優斗は、杏の隣のブランコに腰を下ろすと、手を伸ばして髪を撫でた。
少し嫌そうに離れた彼女を見て、不思議だが自分への好意が消えていることを確認した。
しかし、杏の性格はわかっている。
基本的に構ってちゃんで、お姫様気質で、自分が一番なのだ。自分の思った通りにならないと納得できない子なのだ。
「実を言うとね、杏が心配で見守っていたんだ」
「え?」
「朝、夏樹の家に行ったよね。せっかく杏が歩み寄ったんだから、夏樹も折れればいいのに、強情だよね」
「う、うん」
「一登の奴も役に立たないし、兄として情けないよ」
もちろん、見守っていたなどは嘘だ。しかし、杏の性格上、じっとしていられず夏樹の元を訪れることはわかっていた。また一登が慌ただしく出かけていったので、杏がらみでなにかあると思い、遠目から様子を見ていたのだ。
「夏樹が全部悪いと思う。杏は、何も悪くない」
「そう、そうだよね」
「もちろんさ。僕は杏に幸せになってほしいんだ。好きな人と幸せにね」
「優斗くん……もしかして」
「僕でよかったら手伝うよ。夏樹は親友だからね、今は意固地になっているけど杏に心を開くように説得してみるから」
「優斗くん、ありがとう! やっぱり優斗くんは頼りになるよね」
「ははははは、もちろんさ。でもね、その見返りがほしいんだ」
「え?」
優斗の見返りを求める言葉に杏が困惑する。
杏は自分になにかよからぬ要求をされるのではないかと不安になる。
だが、優斗は笑顔を浮かべたまま、自分の欲望を口にした。
「僕はね、夏樹の近くにいる人が気になるんだ」
名前こそ知らないが、夏樹の傍に驚くほど美しいブロンドの女性と、愛嬌のある女性、そして絵に描いたようなイケメンがいることを確認している。
なによりも目を引いたのは、モデルや芸能人でも太刀打ちできない美しさを持つ女性――小梅だった。
「杏にとっても、夏樹の傍に君以外の女がいるのは面白くないだろう?」
「――うん。杏はお兄ちゃんの傍に杏以外がいるのは嫌」
「だから、杏も僕に協力してほしいんだ。僕が、夏樹からあの女たちを引き離そう。僕が口説くから、杏はその隙に」
優斗には自信があった。
触れることさえできれば、好意を抱かせることができる。あとは、勢いに任せればいい。交友を深めれば深めるほど、好意は強くなるのだ。
優斗が知る限り、夏樹が異性にあれだけ心を許している姿は見たことがない。ならば、奪うしかないだろう。
日本人の女性――銀子も美人だが、品がなさそうなので優斗の好みではなかったが、小梅は別だ。夏樹から奪いたい以上に、自分のものにしたいという欲望がぐつぐつ沸き上がってくる。
「杏、僕に協力してくれるかい?」
「――んなこと考えていると思ったよ!」
優斗と杏は絶句した。
いるはずのない夏樹の声が響いたのだから無理もない。
背後を振り返ると、嫌悪で表情を染めた夏樹がいた。
「お前の好き勝手にさせるわけがないでしょーが! 食らえ、勇者ぱーんち!」
夏樹の右の拳が、優斗の左頬を捉えた。