作品タイトル不明
特別SS「書籍発売なんじゃね!?」
――由良家の茶の間。
小梅・ルシファーは、純白の翼を広げて書籍を掲げて叫んだ。
「今日、ついに『異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。』の書籍が発売じゃぁああああああああああああああああ!」
拍手が響く。
「本作は、異世界に勇者召喚されてなーんか酷い目に遭った由良夏樹が地球に帰ってきたんじゃが、ファンタジーばっかりじゃった! と、驚く物語なんじゃが、おどれが一番ファンタジーみたいな存在じゃろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「あー、振り返ると懐かしいっすねぇ。お父さんから紹介された夏樹くんに関わってすぐに、宇宙人との邂逅! 天使さん真っ二つ! 向島の土地神ぶっ殺す! ……これ、たった数日のお話なんすよ?」
青山銀子は、なぜか婦警さんの制服を着て小梅と同じく書籍を掲げている。
「まあ、夏樹の話はええんじゃ。見てみい! センターは俺様じゃぞ! 俺様が、主人公じゃぁあああああああああああああああああ!」
「待ってほしいっす! ――私、表紙にいないんっすけど?」
「ぎゃーっはっはっはっはっはっはっは! お姉ちゃん大好き都に表紙の出番奪われとるんじゃ!」
「ジャックさんまでいるじゃないっすか! 帯をとったらジャックさんがこんにちはって、ちょっとおいしくないっすか!?」
「……つーか、これは本当にジャックなんか? ナンシーって場合はないんか?」
「……グレイさんのお顔の判断はできねーっす!」
「じゃな」
なんともいえない空気になったので、ふたりは冷蔵庫からビールを取り出して、プルタブを開けた。
「かんぱーいじゃぁああああああああああああ!」
「かんぱーいっす!」
ごっごっごっごっ、と書籍発売を記念して水のようにビールを飲むふたり。
「かーっ、しみるんじゃぁああああああああ!」
「たまんねえっすねぇ!」
口周りに泡をつけた二人は、書籍を捲る。
「ほら! この美少女! 銀子ちゃんじゃないっすか! やだー、カラー! なんかかっこいいっす! できる女って感じして、でもかーわーいーいー!」
「媚びた声がきんもー! まあ、カラーイラストで満足するがええ! 俺様は表紙のセンターじゃからな!」
「……こ、この天使、一生ドヤ顔しそうっす!」
「もちろんじゃ! 一生するにきまっとるじゃろう! かーっ、勝ち組は酒が美味いんじゃ!」
表紙のセンターを飾った小梅は、まるで天下人のようだ。
残念ながら表紙に入れなかった銀子は、ぐぬぬ、と悔しそうにハンカチを噛んでいる。
「――まもんまもん! なにをやっているのだ、お前たちは。書籍発売の宣伝をするのであって、センターを飾っただなんだという時間ではないまもんまもん!」
由良家の茶の間に現れたのは、七つの大罪の強欲を司る魔族であるマモンだ。
サタンに次ぐ魔界の大幹部のひとりだった。
グレーのスーツを着こなし、強面だがイケメンと断言できる容姿は、映画の悪役として活躍する俳優もびっくりなほどだ。
少々、特殊な話し方をする個性があるが、些細な問題だろう。
「なーんで、マモンがおるんじゃ! おどれは書籍に名前すら出てないじゃろう!」
「そうっす、そうっす! なんでここにいるっすか!」
「まもんまもん。そう、焦るな。俺は強欲な魔族だが、宣伝をしっかりする魔族でもあるまもんまもん! ――つまり、書籍発売日を迎えたことでひとつ、お伝えするまもんまもん!」
マモンがかっ、と目を見開き叫んだ。
「――コミカライズ進行中でまもんまもん!」
「――コミカライズ進行中でまもんまもん!」
マモンは大事なことなので二回言った。
小梅と銀子は書籍に目を落とす。
彼女たちの持つ書籍の帯には、ちゃんと書かれていた。
――コミカライズ企画進行中、と。
「本当じゃぁあああああああああああああああああああああ!」
「コミカライズ企画進行中って書いてあるっすぅうううううううううううううう!」
小梅と銀子が驚き、叫んだ。
「く、くくくく、ふははははは! まもんまもんまもん! コミカライズが始まれば、このマモンのまもんまもんがまもんまもになってまもんまもになるだろう! そしてサマエル様の天下となり、魔界はまもんまもん王国となる!」
マモンがドヤ顔をして自らを野望を語り出す。
さすが、魔族だ。抜け目が無い。
「いや、サマエルは別にまもんまもん王国を望んどらんじゃろ」
「それじゃあ、マモンさんが天下取ってるじゃないっすか」
「――まもんっ!? そ、そんなこのマモンがサマエル様に下剋上などありまもんまもん!」
「そんなことはええんじゃ! それよりも、おどれはまだ書籍に出てこんのじゃから、さっさと帰らんかい!」
「そうっすよ! 今回は美脚天使と可愛い警察官さん回なんすから!」
「……まもんまもん」
マモンはしょんぼりしながら由良の茶の間から肩を落として、去っていった。
「つーわけで、書籍版『異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。』は本日発売じゃ!」
「書店で見かけましたら何卒よろしくお願いいたしますっす!」
「見かけんでもネットで買ってほしいんじゃ! 電子書籍版もでるんじゃぞ!」
「なにとぞー、なにとぞーっす!」
小梅と銀子は深々と頭を下げてお願いするのだった。