作品タイトル不明
67「神殺しじゃね?」③
「……危なかった」
みずちの刀は喉を斬り裂く寸前だった。
夏樹の一撃の方が早かったことと、聖剣を握っていたのが右手だけだったので左手で刀身を掴むことができたことで事なきを得たのだ。
「……お見事です。まさか、腐っても土地神の私が手も足も出ないとは」
「いや、あんたも強かったよ。できたら全盛期のあんたと戦いたかったな」
「ふふふ。全盛期の力があれば、君と戦う必要などなく、水無月家の方々を苦しめることもなかったでしょう」
神域と離れの建物だけではなく、水無月家の三分の一と背後の山の一部が消し飛んでいた。
小梅とジャックが張ってくれた結界も消えてしまっている。
(……ちょっと力込めすぎたかも)
反省はするが後悔はない。
これでも手加減をしたのだから、揉み消すのは水無月家に頑張ってもらいたい。
「……あとどのくらいもつ?」
「さあ、よくて、二、三分でしょう」
地面に力なく横たわる土地神みずちは、左肩から聖剣によって袈裟斬りにされたと同時に、両断され、斜めに斬られた胸から下は消し飛んでいた。
だが、みずちを苦しめ、この場に蔓延っていた穢れも聖剣の一閃で消えている。みずちの表情は死を前にして、安らかなものだった。
もしかすると一分も持たないかもしれない。
夏樹はみずちの傍に膝を突くと、胸の上に手を置く。
「……なにを?」
「ごめんね。俺は誰かを傷つけることしかできないんだ。だから、あんたを浄化して助けることはできなかった。殺す以外の解決方法がなかった」
「お気になさらないでください。殺していただけたことで、私がどんなに救われたか。娘を生贄にせず、済んだのですから」
「でもさ、俺はすごく腹立たしい。あんたを本当の意味で救えなかったから。だからさ、ちょっと自己満足っていうか、俺の負い目を軽くさせてくれ」
夏樹は魔力ではなく、霊力を高めた。
霊力を持っているわけではなかったのだが、何度か霊能力を見たことと、今回の土地神との戦いで『なんとなく』使えるようになった。
水無月家の本家が建っているだけあり、この場には霊力が満ちている。
大気中の霊力を集め、みずちに一気に流し込んだ。
「――ヒール」
ぐんっ、と集めた霊力がすべて持っていかれた。
だが、回復したわけではない。みずちの見た目にも変化は訪れていない。
「これで十五分ちょっとはもつだろう?」
「……なぜ?」
「奥さんと娘さんにちゃんと最期のお別れをしないとさ。きっと、残された人も、俺もモヤるからさ。待ってて、呼んでくるから」
「由良夏樹殿」
「うん?」
「――ありがとうございます」
「どういたしまして」
少しだけ気が晴れた。
夏樹は制服の上着を脱ぐと、みずちの身体にかけた。
さすがに下半身が無くなっている痛ましい姿を見せる必要はないと思ったのだ。
すでに神域はないので茅と澪を探すと、少し離れた場所にいることがわかる。
逃げるよう忠告したのに、と思いながら、近くにいてくれてよかったとも思う。
「おーい!」
夏樹が声をかけると、茅たちが駆け寄ってきた。
いろいろ説明をしてほしいような顔をしていたが、先に夏樹が口を開く。
「残された時間は十五分だけだ。茅さん、澪さん、みずちとお別れを」
夏樹の言葉の意味を理解したのだろう。
茅と澪は深く頭を下げたあと、手を繋いで走っていった。
夏樹は追いかけない。
残り少ない家族の時間に入るような無粋な真似はするつもりはない。
ふたりを見送り、一秒でも長く家族の時間が続きますように、と願った。