作品タイトル不明
78「なんか来たんじゃね?」①
夜。ブレイバーズ王国の空を駆けるペガサスが、魔族の領地に侵入した。
魔族の領地の入る瞬間、探知用と思われる魔法を潜り抜けた感覚があったが、ブレイバーズ筆頭宮廷魔法使いレオニー・トットは構わずペガサスを駆る。
「魔族め……生意気なことを。言葉を話せるだけのモンスターの分際で」
ブレイバーズ王国をはじめ、人間の大半は魔族をモンスターとして見ている。
魔王をはじめとする魔族たちの国も、国として認めておらず、モンスターが群れているだけという認識でしかない。
魔族が主張する領地も、あくまでもモンスターの多い地域であり、魔族たちの領地という認識ではない。
人間にしたら、魔族の領地は――未開拓の土地でしかないのだ。
そんな領域の夜空を、レオニー率いるペガサスたちが駆ける。
宮廷魔法使い筆頭レオニーを先頭に、部下の魔法使い数名が魔族を滅ぼすために詠唱を始めていた。
彼らが求めている魔法は、広範囲殲滅魔法だ。
多大な魔力を消費する、「奥の手」である魔法を、先制攻撃として放とうとしているのだ。
レオニーにとって、最愛の婚約者を奪ったモンスターも、魔族も変わりがない。
ならば、殲滅するだけだ。
そんなレオニーから離れた上空に、第一王女ベアトリス・ブレスコット率いる特級騎士の部隊がペガサスに乗っていた。
特級騎士は、騎士団の中でも選ばれた存在であり、王族のためにすべてを捧げる騎士である。
一度は腕を失ったベアトリスだが、レオニーが腕を移植したことで、腕を取り戻すことに成功した。
しかし、ベアトリス自身は知りえぬことだが、腕は一時的に取り戻しただけだ。
レオニーは、婚約者アマリリス・ブレスコットを失った。その一端はベアトリスが二度の勇者召喚をしたせいでもある。
今回は騎士を動かすために利用したが、後できちんとベアトリスの命も奪うつもりだ。
ある意味、一番の大罪人と言っても過言ではないベアトリスを、レオニーは苦しめて殺すことを決めていた。
「魔族も、王家も、すべて殺してやる。お前たちの死を、アマリリスに捧げるんだ」
復讐に取り憑かれたレオニーが、狂気を瞳の奥に宿して笑う。
その時だった。
轟音が響き、地面が爆発した。
「――な」
騎士が馬ごと吹っ飛び、受け身を取れずに地に落ちる。
嫌な音を立てて、首を折り、手足をあらぬ方向に曲げ、騎士たちが転がる。
「なにが起きた!?」
ペガサスを止め、宙に静止する。
地面では、砂埃がたちよく見えない。
襲撃を考えるのが一番だ。
レオニーは、このまま魔族を攻め込むか、襲撃者に対応するか迷った。
その迷いが隙を作ってしまった。
「――やあ! ギャラクシー河童勇者さんだよ!」
「な」
眼前に黒髪の少年がいた。
屈託のない笑顔を浮かべた少年は、幼く見える。
そんな少年の手には、見覚えのある剣が握られていた。
「貴様、その剣は」
レオニーの言葉は続かなかった。
騎乗していたペガサスの首が刎ねられ、血を撒き散らし、地面に向かって落ちていく。
ペガサスをクッションにしたおかげで、身体への痛みこそあっても、大きな怪我なく地面に着地した。
「やあ! 魔族大好き勇者さんだよ!」
レオニーが身構えるよりも早く、身の丈を超える鉄塊を持った爛々と光る瞳を持つ青年がいやらしい笑みを浮かべて立っていた。