作品タイトル不明
間話「ぜっくんもわくわくじゃね?」②
ベアトリス・ブレスコットの部屋に入ったレオニー・トットは、護衛の女性騎士と世話係のメイドに睨まれるが、彼の異様な雰囲気と、扉の向こうで亡骸となった同僚の姿を見てしまい、口を開けずにいた。
「……起きろ、ベアトリス・ブレスコット」
第一王女ベアトリスは、天蓋付きのベッドの上で、力なく眠っていた。
腕を両断された痛みから解放されるため、魔法によって眠らされていることを理解したレオニーはベッドを蹴り付けた。
「おい」
「ひっ、はい」
メイドに声をかけると、彼女は怯えた声を出した。
「なぜ腕を治療しない?」
「……それは、回復魔法がお効きにならないのです」
「……原因は?」
「それは、その」
「口を噤むなら殺す」
「ひっ、わ、わかりました。言います! 言いますから、命だけは」
「早くしろ」
「は、はい。神官に治療に当たらせましたが、その、――聖剣の強い力によって斬られているので、回復魔法が弾かれてしまうとのことです」
「つまり、この女は腕を無くしたまま生きていくということか」
「わかりません。神官たちが、今、治療方法を」
「ふん。それはどうでもいい」
レオニーは、ベアトリスの傷が癒えない理由を知り、攻撃した者を理解した。
「なるほど……彼が戻っているのか」
「貴様っ!」
女性騎士がレオニーの胸ぐらを掴んだ。
「先ほどから聞いていれば、王女様のお部屋で好き放題しよって! いくら貴様が宮廷魔法使い筆頭とはいえ」
「僕に触るな」
レオニーの蹴りが、女性騎士の腹に直撃する。
くの字となって壁に激突した女性騎士が咳き込み、うめく。
彼女の口からは、血が混ざった唾液が垂れていた。
「僕は魔法使いだが、身体強化をすればお前のような力自慢の騎士など相手にならない。身の程知らずが」
レオニーは、倒れた女性騎士を蹴った。
二度、三度、四度、と彼女が気を失うまで蹴り続ける。
「ふう。くだらんことで時間を取られてしまった」
動かなくなった女性騎士から興味を失い、ベッドに戻ったレオニーは、ベアトリスを顔の前で指を鳴らした。
眠りの魔法が施されていた彼女が、目を開ける。
そして、絶叫した。
「――黙れ」
レオニーは迷惑そうな顔をして、ベアトリスの口を手で塞いだ。
彼が宮廷魔法使い筆頭とはいえ、王女に気安く触ることはあってはならない。
だが、レオニーは気にすることはない。
彼にとって、王女はアマリリス・ブレスコットのみなのだから。
「鎮痛の魔法をかけてやる。条件は僕の話を聞くことだ。いいな?」
ベアトリスが頷くをの確認してから、鎮痛の魔法を施す。
三重に魔法を施すと、ベアトリスが呼吸が落ち着く。
「……はぁ、はぁ……はぁ」
「無様だな。ベアトリス・ブレスコット。勇者召喚などしなければ、いや、したとしても自分の都合通りにいかないだけで公開処刑などしなければ、腕もランドル騎士団長も失わずにすんだものを」
弱々しくしていたベアトリスだったが、レオニーの言葉に、目を見開いた。
「……ランドルが死んだの?」
「見ていなかったのか? お前と肉体関係にあった浮気者の騎士団長殿は、お前の腕を斬り飛ばした斬撃で真っ二つだ。民の前で、臓物を撒き散らして無様に死んだぞ」
「誰が、やったの?」
「正直、知らぬし、興味もなかったが、お前の腕を見て犯人がわかった」
「――誰!?」
レオニーは口を裂けんばかりに吊り上げて笑った。
「かつてお前が召喚した勇者だ」
「……なん、ですって」
「名を、由良夏樹と言ったな」
「あ、ありえないわ。彼は魔王と相打ちとなり、死んだのよ! だから、私は再び勇者を」
「だが、お前の腕は聖剣によって斬り落とされている」
「……そんな馬鹿な、ありえない」
「察するに、勇者が魔族についたのだろう。これはまずいことになった。お前の召喚した勇者が、人間の希望が、寝返ったのだ。お前の責任は如何程だ?」
ベアトリスは硬直した。
糾弾される可能性があるとすぐに理解したのだ。
「腕を失い、ランドルを失い、勇者は寝返り、新たな勇者にも逃げられた。挙げ句の果てに――その勇者を追いかけたアマリリスは死んでしまったのだっ!」
「アマリリスが死んだの?」
「そうだ! 腕一本しか残らなかった! 貴様のせいだ、と殺してやるつもりできたが、気が変わった。お前に腕をくれてやろう」
「え?」
レオニーは、自らの引きちぎった腕をベアトリスに放り投げた。
「……これは」
「僕の腕だ。アマリリスの腕を移植するのに邪魔だったので、引きちぎったのだが、くれてやる」
「……可能なの?」
「もちろんだ。だが、条件がある」
「腕をくれるならなんでも聞くわ」
「それでこそ、ベアトリスだ。騎士団を動かせ」
「なぜ?」
「決まっている! アマリリスの仇を取るために魔族を蹂躙するのだ! 僕は魔法使いを動かす! お前も、自分の手駒が魔族に加わっている事実を隠したいだろう!」
「…………いいわ。その条件を飲みましょう。でも、片腕だけしかないのだけど」
「足りなければそこらから調達すればいい」
ベアトリスは、メイドを見た。
彼女は、レオニーとベアトリスのやりとりに怯え、その場に尻餅をついて失禁している。
「前から、この子の腕は綺麗だと思っていたの」
「ならちょうどいい」
メイドの悲痛な叫びが響いた。
しばらくして、歪な腕を得たベアトリスがベッドから立ち上がる。
「あの、勇者……あれだけ面倒を見てあげたのに、魔族につくなんて……死んだ方がマシなほど後悔させてあげるわ」