軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59「純血ってなんか響きがエロくね?」②

「もちろんっす。別に純潔とは言ってませんので。それはさておき、その名の通り、純血は純血っす。混ざりっけのない血です」

「純日本人的な?」

「いえ、この場合は、純粋な種族かということです」

夏樹には銀子の言葉の意味がわからなかった。

水無月澪のように、土地神と人間のハーフはいるかもしれないが、ファンタジーが秘匿されている現代でハーフの人間は少ないだろう。

神族、魔族の事情までは知らないが、少なくとも人間はそうそうハーフはいないだろうと思う。

「夏樹は、他の種族同士の結婚とかを考えたのかもしれんが、違う。もっと根本的な話じゃ」

「どういう」

「人間はのう。長い歴史の中で、神族、魔族、妖怪、妖魔、精霊、妖精、様々な種族と交わっておる。両親が人間でも、先祖は河童だったりのう」

「まさか……俺にも偉大な河童の血が」

「なーんで河童が偉大なんじゃ! それはともかく、たまにおるんじゃよ。純度百パーセントの人間が」

「へぇ」

興味深い。確かに、自然の中で生きて、今よりももっと霊能関係に密接だった時代なら、人間とそれ以外の恋も愛もあっただろう。ときには、望まない形でも。

そんな人々が出会い、交ざり、人間だけと言う血筋はいなくなりつつあると言う。

「昔はもう少しいたんじゃが、今じゃと、いるかのう?」

「いたら保護したいっすね。でも、なんで完全なる血統なんて古びた言葉が出てきたんすか」

「銀子さんには昨日話した、三原優斗が」

「まさか完全なる血統なんっすか!?」

「ううん。完全なる血統にかなり近いらしい」

「あ、なんすか。その程度っすか」

淫魔はすごいように言っていたが、銀子の反応からそれほどでもないようだと感じた。

「学校にいた淫魔が襲ってきてさ。あ、ぶっ殺しておいたけど、その時にちょっと耳にしてね」

「……前半は聞かなかったことにするっす」

「おい、公務員。酒飲んでないで働くんじゃ」

「今日はもうお仕事終わりっす。夏樹くんが片したならいいじゃないっすか。ちゃんと欠片も残さず殺してくれましたよね」

「もちろん!」

親指を立てると、銀子も満足そうに親指を立てた。

「問題なしってことでよろしくっす。んで、話を戻しますけど、純血に近い人間は割といます。純血は作ろうと思っても作れないんすよ。混ざった人間が混ざった人間と子供を作っても、純血は生まれねーっすから。それでも、一応、純血に近い同士を結婚させる家はありますかねぇ」

「面倒だなぁ。んで、純血だったらどうだっていうの?」

「そうっすねー。自分は人外さんじゃないんでわからないっすけど、昔は生贄とか、偉い方へ嫁ぐか婿入りでしたねー」

「昔の話じゃが、アホみたいに力持っている奴は、だいたい純血の人間じゃったぞ」

「へー」

夏樹はなんとなくオレンジジュースでイメージしていた。他に代わるものがなかったのだ。

夏樹個人は百パーセントが好きだ。

「最近じゃと、純血に近ければ近いだけ力があるなんて言われておるが、俺らにしたら純血かそうじゃないかの差は大きいが、あとはどんぐりの背比べじゃ」

「じゃあなんで淫魔が気にしていたんだろうね?」

「俺らの好みにもよるんじゃが、純度百パーセントのオレンジジュースが飲みたいか、加糖されてても美味しければいいかの差じゃろうな。仮に、本当に完全なる血統ならば、下級淫魔でも上級くらいにはなれるじゃろう。魔族は純血が好きじゃのう。神族的には、あんまメリットないのー。血を飲んで怪我を治すとか、回復するとかじゃろうか」

「そんな薬じゃあるまいし」

「ただ血を啜るだけじゃ解決せんしのう。血を飲むにしても面倒じゃぞ」

話の半分くらいしか理解できなかったが、とりあえず純粋な人間は現代社会にはいないようだ。

「仮に、そのなんとかかんとかという男が完全なる血統に近くても、問題はないじゃろう。こっち側に足を突っ込めば、人間の中では才能を見せるかもしれんが、それは稀じゃろうな」

完全なる血統に近くても、必ず才能に恵まれるわけではないようだ。

ただし、優斗の潜在能力が高いのは夏樹も把握している。それが血のせいか、それとももっと違う理由かどうかまでは不明だ。また小梅に言わせると、力と才能の有無は別問題らしい。

「まあ、人間的には、ただの人間じゃ限界があるから混血を選択した人たちもいますし、その辺りは難しいっすね。でも、三原優斗が完全なる血統に近いのなら、潜在能力が高い理由にはなるかもしれないっすね。もっとも、気にするほどではないんでしょうけど」

「とりあえず気にしなくていいってことでいいかな?」

夏樹の問いに、小梅と銀子はそろって頷いた。

「今どき、完全なる血統なんておらんおらん。徳川埋蔵金のほうがまだ可能性があると思うんじゃが」

「あはははははっ、言えてますねぇ! なんならツチノコよりも探すのが難しいんじゃないっすかね。どっかに保護されている可能性もありますけどー」

徳川埋蔵金のほうが可能性があると言われ、完全なる血統はいないに等しいと夏樹の中で結論が出た。

「もしかしたらっすけど、クソチートの夏樹くんなら完全なる血統だったりしないっすか?」

「ぎゃはははは、それは面白いのう! なんなら調べてやろう、ぺろり、と血を舐めさせてみるんじゃ。すぐに終わるぞぉ!」

「ちょ、痛いのは嫌だよ」

「まあまあ夏樹くん、試しっす、お試しっす。調べることなんて滅多にできないんっすから、やっとかなきゃ損っすよ」

「よいではないかよいではないか――かぷっ」

小梅が夏樹の腕に軽く噛み付いた。

わずかな痛みを覚えたが、次の瞬間、小梅の舌が夏樹の腕を舐める感覚に襲われてそれどころではなくなった。

(うわぁ、舌ってあったかい! れろーって、れろーってしてるぅ! でもなんかざらっていうか、猫ちゃんの舌と違うざらーって感じで、なんか悪いことしているみたいで、ああ、駄目だ、頭が沸騰する)

思春期の少年には、美少女が腕を舐めるという行為は刺激が強すぎたようだ。

対して、先ほどまで笑っていた小梅が真顔になって静かになっている。

まるでテイスティングしているみたいに血を味わい、それでも納得ができず夏樹の血を再び舐める。そしてもぐもぐ。

「――ちょ、ま、え? 嘘、じゃろ」

「あの、すいません。自分で振っておいてあれなんすけど、できたら小梅さん……余計なことは言わないでほしいなーって」

「いや、待て、待つんじゃ。落ち着け、ルシファー・小梅。自分の舌を信じるんじゃ」

「あはははは、じゃあ、今日はもう帰りますね。実家で荷造りしないと」

そそくさと部屋から出て行こうとする銀子を、小梅の腕ががっちりと掴む。

そして、銀子は思い切り目を見開いた。

「こやつ完全なる血統じゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」

「夏樹くんったら、設定盛りだくさんでいやぁああああああああああああああああああ!」

小梅の叫びと、銀子の悲鳴が由良家に木霊した。