軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58「純血ってなんか響きがエロくね?」①

夏樹が帰宅すると、すでに観光から帰宅していた母とジャックたちが出迎えてくれた。

小梅は一足先にお風呂のようで、風呂場から陽気な鼻歌が聞こえてくる。

「……おかえりなさいっす、夏樹くん。私は二度と護衛の真似事なんてしねーって誓いました」

「なにがあったんですか?」

スーツを着込んだ銀子だが、ひとりだけくたびれてテーブルに突っ伏している。

「ジャックさんとナンシーさんが、こんな地方都市でも新鮮なのか楽しんでくださったのはいいんすけど、お二人って美形カップルでしょう。めちゃくちゃ注目されて」

「あー」

ハリウッド俳優でもびっくりなイケメンジャックと、同じく女優でもこんな美人はいないだろうというナンシーの外国人カップルはさぞ目立っただろう。

「小梅さんは小梅さんで、子供みたいにあっちにふらふらこっちにふらふらって消えちゃいますし、リードがほしかったっす」

「どんまいです」

小梅のはしゃぎっぷりも容易に想像ができて苦笑してしまう。

「春子お義母様は良くも悪くもマイペースで、問題はなかったんすけど、途中、知り合いに会うと話がなげぇっす!」

「あー、お母さんって話好きなんだよ」

「そんなこんなで疲れました。一番風呂もジャンケンで負けて小梅さんに取られちゃいましたし。私に残されたのは、ビールっす。飲みまくってやりますよ!」

「ほどほどにね」

ものすごく疲れている銀子に、完全なる血統や水無月家の話をしないほうがいいかなと思い、夏樹は買ってきたお土産を開けてイチャイチャしているジャックとナンシーと話を始める。

ふたりはすっかりこの街が気に入ったようだ。

一度は酷い目に遭ったものの、それ以上に良いことがあったと喜んでくれている姿を見ることができたのは夏樹としても嬉しい。

「ふー、さっぱりしたんじゃー! ママさん、お風呂上がりの牛乳をください!」

「はーい。ちょっと待っててね。あ、銀子ちゃんもお風呂入っちゃいなさいね」

「わかりましたっす。んじゃ、夏樹くん。お先に失礼するっす」

「あ、うん」

やっぱり夏樹のジャージを着込んで、並々と注がれた牛乳を喉を鳴らしてうまそうに飲む小梅。

彼女をじっと見ていると、夕方に出会った那岐爺と似ているようで似ていない雰囲気を感じる。

那岐爺が夏樹の想像した通りの神ならば、ルシファーの小梅もそうだが、ビッグネームが地上に簡単に居ていいものかと思う。

「ぷっはー! 沁みるのうぉ。やっぱり風呂上がりは牛乳じゃ! ふいー、さて、晩御飯まで時間があるようだし、夏樹……ちょっと面貸すんじゃ」

「えー。ご飯がもうすぐだし、俺もお風呂入りたいのに」

「お前は最後じゃ。俺らの後に入ったら、お湯をごくごく飲むじゃろうて」

「飲まねえよ!」

「……それはそれで年頃の少年としてどうなんじゃ? 美少女のだし汁じゃぞ?」

「だし汁とか言うなよ! あー、もう、話があるなら部屋でしましょう、ね、ね」

ジャックたちが変な言葉を覚えてしまったら困ると思い、夏樹は小梅の背を押して、自室へ押し込んだ。

「それで、話って何?」

「……お前、今日、魔族と会ったじゃろう?」

「わかる?」

「わかるにきまってるじゃろう! その匂い、淫魔じゃな。下級じゃが、俺が探していた淫魔の一匹じゃ」

「そういえば、魔族狩りしているって言ってたよね」

小梅が頷く。

「ゴッドにいいところを見せようとしているのもそうじゃが、淫魔どものやり方も気に入らんのでのう。基本的に、淫魔は一掃しているんじゃが、この街にも何体かいて……おかしなことされとらんかと思ったが、ちゃんと殺したじゃろう?」

「うん。同級生に紛れ込んでいてね。なんだか知らないけど、逆恨みされて襲われたからちょっと懲らしめてから殺したよ」

「道理で桁違いの魔力を感じたと思ったんじゃ。ところで、逆恨みってなんじゃ?」

ベッドにゴロンと寝っ転がりながら尋ねてくる小梅に、夏樹は答えた。

「なんか、一昨日、淫魔の術が吹き飛んだらしい。んで、今までの準備がご破産。ついでにクラスメイトにフラレたから、腹いせじゃね?」

「おうおう、淫魔なんてそんなもんじゃ。じゃが、なんか本当に一瞬だったが、強い衝撃波みたいな力がこの街を覆ったのう。わからん奴のほうが多いじゃろうが、俺は偉大なるルシファー様だからな。余裕で気付いたぜ!」

「そうなんだ? 一昨日か。一昨日のいつくらい?」

「なんじゃ、夏樹は感じなかったんか? 夕方くらいじゃぞ」

「夕方か。そのくらいだと放課後だよな。うーん、ちょうど帰ってきたときだし」

ベッドの上で、枕を抱きかかえた小梅が、不思議そうにつぶやく。

「しっかし、いまだに意味がわからん。いきなり強すぎる力が、まるで扉を開けてこっちの世界に入ってきたみたいに急に現れよった。一瞬じゃったが、あれだけの力が放たれれば、下級淫魔の術など吹き飛ぶじゃろうて」

「そんなに強い力を持つ者がいるのか。この街怖すぎだろ」

「一番恐ろしいのは、この小梅様じゃがな!」

ふははははは、と高笑いをする小梅は、那岐爺のことまで気づいていないようだ。

もしかすると、夏樹が想像するよりも遥かに多くのファンタジーが身近に溢れているのかもしれないと思う。

夏樹がそんなことを考えていると、小梅が静かになった。

「どったの?」

「いや、なんじゃ。夏樹みたいなクソ強い力の持ち主がいるのによくもまあその淫魔も気づかんかったな。よほど目の前に美味しそうな獲物がいたんじゃろうか?」

「そうそう! それを聞きたかったんだよ」

「なんじゃ?」

「完全なる血統って知ってる?」

夏樹の疑問に、小梅は目を見開いた。

「え? 逆に知らんのか?」

「あら?」

「話は聞かせてもらいましたっす!」

すぱーんっ、と部屋の扉が開いて風呂上がりの銀子が入ってくる。やはり部屋着は夏樹の服だ。

ふたりに着られている服を、今後どうすればいいのか夏樹にはわからなかった。

「いやー、いいお風呂でした、と言いたかったんすけど、小梅さん! お湯を熱くしすぎっす!」

「なんじゃと! お湯は限界まで熱くするのがいいんじゃ!」

「江戸っ子っすか、あんたは!」

「お風呂はいいから、完全なる血統に関して教えてよ!」

喧嘩を始めそうになった小梅と銀子に夏樹が少し声を大きくすると、銀子が椅子に座って説明を始めてくれた。

「要は純血っす。あ、エッチな意味じゃないっすから」

「誰もそんなこと言ってねーし!」