作品タイトル不明
57「魔剣王クラインズって剣士がいたんじゃね?」
青山銀子は、向島市警察署で働く警察官だ。
特別災害課に属しながら、日夜、向島市の平和を、魔剣を振るい守ってきた。
銀子は幼い頃から、剣の扱いが上手かった。
型などはまるで駄目だが、剣を握らせると、負けなしだった。
幾人の剣士が、銀子を「天才」と呼ぶ一方で「才能なし」と罵った。
銀子は他人の評価を気にしない。
剣士の一人から奪った霊剣を握り、霊能関係に足を踏み込むと、瞬く間にその名を轟かせた。
数多の妖怪を、悪霊を、悪魔を、時には犯罪霊能者を斬り殺した。
だが、すぐに飽きてしまった。
――そんなとき、由良夏樹と出会った。
まだ一ヶ月も経っていないのに、毎日がイベントだ。
異世界帰りの勇者という、今でも読むライトノベルの主人公のような中学生。
彼と知り合うと、天使の小梅・ルシファーと、宇宙人のジャックとナンシーと出会う。
魔王サタンと一緒に酒を飲み、海獣リヴァイアサンと男の娘談義を楽しみ、果てには異世界にいる。
――なんて退屈しない日々だ。
夏樹のことは気に入っている。
初めて気にかけた異性だ。
少々、年齢的に差があるが、誤差だと思う。
正直、好きだ。
しかし、まだ恋や愛に発展していない。
小梅のように自分はチョロくないのだ。
時間をかけて、ゆっくりと、気持ちを育てたい。
――今は、ただ、この慌ただしくも賑やかな日々が続けばいいと思う。
■
リングに上がった銀子を魔剣士クラースが射殺さんばかりに睨む。
「可愛い女の子にそんな目をしちゃいけないっすよ? まったく、いくら私が美人だからって、そんな熱々な視線を向けられたら火傷しちゃうっすよ」
「――貴様の持つ魔剣……我が、師のものか」
「こっちの話聞いてもいねーっす」
クラースの視線は、銀子が肩に担ぐ両刃のロングソードにあった。
無骨な西洋剣だが、夏樹と戦った魔族の騎士が持っていた剣だ。
確か、この世界に十本あるかないかだった気がする。
「魔剣太郎の持ち主をご存知っすか?」
「――魔剣太郎!?」
「いい名前っすよねぇ。久しぶりに、これだ! って名前が降りてきたっす! かつて、神奈征四郎さんから家宝の魔剣をプレゼントされたときに魔剣花子と名付けたときいらいの衝撃でしたっす」
「魔剣花子!?」
クラースは、名前の意味がわからずとも、銀子のネーミングセンスの無さを理解したようで、驚きに目を見開いている。
彼の隣にたっていた、獣人ダナーは、クラースの言動から自分の相手ではないと察し、リングから飛び降りた。
離れた観客席から「神奈家の魔剣はプレゼントじゃなくて奪ったはずじゃね!?」と夏樹が叫んでいるが、気にならない。
「……貴様、我が師……魔剣王と名高いクラインズの愛剣を侮辱するつもりか!」
「はぁ、クラインズさんっすか?」
「魔剣王クラインズは、魔族一の剣士だった! 私は彼の弟子であり、いずれ倒して魔剣王を継ぐはずだったのだ!」
「ちなみに、クラースさんは魔族の剣士の中では何番の実力者っすか?」
「二番だ」
「はー。そりゃすごいっす」
「貴様、先ほどからなんだ……」
「いやいや、普通に大変だなーって思っているっすよ。クラースさんは魔剣王を倒していないから剣士としては次席のようっすけど、その魔剣王を倒したのは勇者由良夏樹くんっすもんねぇ。逆立ちしても、一番にはもうなれないっすねぇ」
にぃ、と唇を吊り上げて、挑発するように銀子が笑う。
クラースは、実にわかりやすく、顔を真っ赤にした。