軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56「ビッグネームじゃね?」

「ご自宅までお送りせずよろしいのですか?」

「はい。母はこっち関係は全然知らないんで、できれば内密に」

「……そうでしたか。未成年の由良様にお力をお借りするのに、保護者様にご挨拶できぬこと申し訳ありません」

「その辺は気にしないでください。むしろ、巻き込まないでいただけたほうが、俺としては助かります」

母に知られたくないものそうだが、下手に家に近づいたせいでルシファー・小梅や、ジャックとナンシーの宇宙人の存在が明るみになってしまう方がまずい。

土地神どころの騒ぎではなくなってしまう可能性がある。

また、個人的にひとつだけ片付けておきたいことがあった。

「……では、本日は失礼します」

「こっちの準備ができしだい、ご連絡しますので。少し待っていてください」

「よろしくお願いします」

中学校の前に降ろしてもらった夏樹は、深々と礼をする茅を見送った。

時間的に、昼を少し回ったくらいなので授業は当然終わっていない。

昼休みにもなっていない。

昼食の誘いは茅からあったが、どうせなら買い食いをしたかったので丁重にお断りさせてもらった。

学生服姿のままだが、ハンバーガーとウーロン茶を買って食べながら歩く。

途中、昔、一登と一緒に遊んだ公園を見つけて懐かしくなって立ち寄った。

ベンチに座り、スマホを触ろうとしたとき、

「にいちゃん、少し金を恵んでくれねえかね」

いつの間にか、隣に座っていた老人に声をかけられギョッとした。

グレーのスーツに身を包み、頭にはハンチング帽を被った初老の男性だった。

品を感じるが、言葉遣いは意外と荒い。

突然現れたにも関わらず、夏樹が抱いたのは警戒ではなく、親しみだった。

「お金って、俺中学生なんですけど」

「そんなもんみりゃわかる。でもなぁ、財布を落としちまったんだよ」

「携帯は? ご家族は?」

「……ばあさんがいるが、喧嘩してプチ家出中だから電話はできねぇ」

「うわぁ。まあ、いいけど。はい」

ポケットの中にあった全財産の三千円をそのまま渡すと、老人は苦笑いを浮かべた。

「にいちゃんよう、俺が言うのもなんだが、警戒心つーか、お人好しすぎねえか? 俺が嘘ついていたらどうすんだ」

「そういうことを言う人は嘘をついていないんじゃないかな。足りるかわからないけど、タクシーかバスでおうち帰れないかな?」

「……コンビニでビール買ったら怒る?」

「怒んないって、あげたお金をどう使ってもそれはおじいちゃんの自由だよ」

夏樹は、困っている人がいれば、自分にできる範囲なら手を差し伸べてもいいと思っている。

他人に興味がないのは相変わらずだし、自業自得の奴は嫌いだが、困っている人を無視する趣味はない。

中学生にしたら三千円はなかなか大金だが、困っている老人に渡すのなら、「よいことをした」と自己満足に浸れる。

「おもしろいにいちゃんだな。よし、気に入った。にいちゃんの名前は?」

「俺は、由良夏樹です。よろしく」

「おう。俺は那岐ってじじぃだ。よろしくな。まあ、那岐爺でも、那岐じいさんでも好きに呼んでくれ」

「じゃあ、おじいちゃんで」

「お、おお、素直にこうおじいちゃんと呼んでくれる孫たちがいないから新鮮だな。より気に入ったぜ」

にこにこしながら、那岐と名乗った老人は、胸ポケットにお札をしまった。

「だが、このままだと俺の気がすまないんで、ちょっといいことを教えてやろう」

「……いいこと?」

「土地神みずちをぶっ殺しても、神々は気にしねえ」

「……へぇ」

夏樹は目を細め、興味深そうに那岐爺を見た。

ぱっと見、人間だが、よく偽装されているのがわかる。

幾重にも術をかけて、人間寄りにしているが、内面には太陽のように神々しい力を持っているのがわかる。

不用意にこれ以上覗き込んだら、身が焼かれてしまうのではないかと怖くなる。

「やっぱり神様か。それも、かなり上かな」

「俺の正体はどうでもいいよのう」

「そだね。あまり興味はないかな」

「ははははは。やっぱり面白いな。で、続きだ。みずちは殺してやれ。仮にも土地神として千年以上も土地に尽くしてきたんだ、魂が消滅しなけりゃどこかに生まれ変わるだろうさ。神っていうのは頑丈でな、人間が思っている以上に殺しても、すり潰しても、どっかで蘇っちまう」

「面倒臭い存在だねぇ」

「とくに自然に由来する神は、自然があって、敬い、畏れる人間がいる限り完全な消滅はねえよ。別物になっちまう可能性はあるがな」

あまりよくわかっていない夏樹に、那岐爺は目尻の皺を深めた。

「ま、気にすることはねえってことさ。人間は神殺しをすると業を背負うと思っているが、命を奪えば神だろうと人だろうと背負うのは変わりはねぇ。そこに大も小もねえのよ。神を殺すことを恐れるなら、自然破壊の方がよっぽどひでえ話だってんだがな」

「あー。それを言われると、人間を代表しないけどごめんね」

「はーはははっ。別に破壊すんなって言ってるわけじゃねえよ。ただ、神だろうと自然だろうと、命の重さは同じだってことだ。自然の恵みに感謝して、生きていればいいんだよ」

那岐爺は、ベンチから立ち上がると夏樹の頭をくしゃりと撫でた。

刹那、夏樹の脳裏に日本人なら誰もが知るビッグネームが浮かんだ。すると、那岐爺は人差し指を口に当てる。

「そうそう、土地神がいなくなっても後任はいるから安心しろ。神ってのは、人間の知らないところに掃いて捨てるほどいるんだぜ」

「そりゃ、なにより」

「少々の影響はあるだろうが、水無月家当主が考えているような酷いことにはならねえし、させねえから安心しておけ」

「ありがとー」

「……やっぱり気に入ったぜ。あ、ところで、気づいていると思うが、もうすぐ来るぜ。ま、しっかりやんな」

那岐爺が手を振ると、陽炎のようにゆらめき消える。

次の瞬間、

「見つけたっ! 由良夏樹っ、ぶっ殺してやる!」

殺伐とした聞き覚えのない声が頭上から降ってきた。