軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48「ビップ扱いも大変じゃね?」

母に「いってきます」と言い、銀子の車で中学校の前まで送ってもらうと、爽やか笑顔を浮かべるジャックと、可憐な笑みのナンシー、そして窓から乗り出し大きく手を振る小梅たちに夏樹も手を振った。

同級生は、夏樹が大人の、しかも見目麗しい男女に送ってもらったことを驚いているようだったが、誰かになにかを聞かれる前に移動することにした。

校門から少し離れると、誰でも知っているドイツ製の黒塗り車が目に入る。車の側には、パンツスーツに身を包んだ三十歳ほどの女性が、夏樹を見ると深く腰を折った。

彼女が、水無月家の迎えだとわかった。

「由良夏樹様、お初にお目にかかります。わたくしは、水無月家に使える八咫柊と申します。昨日は大変失礼致しました。正式な謝罪は水無月家当主よりございますが、都様はわたくしにとって弟子のような存在です。もしお怒りが収まっていないのであれば、わたくしにおっしゃってください」

女性――八咫柊の声は、涼やかなものだった。

不思議と緊張が窺える。

昨日、水無月都が突っかかってきたことでこちらが不快であると考えているのかもしれない。正直な話をすると、不快であったし、いらつきもしたが、そのあとに優斗にもっとムカついたし、未知との遭遇を果たし、天使とバトル、ビルを一棟ぶっ壊して、みんなでお寿司パーティーとイベント盛りだくさんだったので、都のことは記憶にうっすらとしか残っていない。

「いえ、謝罪していただけたなら別に」

「寛大なお心に感謝します。どうぞ、水無月家にご案内いたします」

「あ、ども。……外車とか乗ったことないからドキドキするんですけど」

「普通の車ですので、気軽にお乗りください。飲み物を用意させていただきましたので、乗車中によろしければどうぞ。この柊が命を賭して水無月家まで運転させていただきます」

「……命かけなくても」

「由良様は大切なお客様ですので、万が一のことがあっては困ります。すでにお察しだとは思いますが、こちらの車も対霊能力、呪術、術式、魔術、魔法はもちろん、銃弾の対策もしておりますのでご安心ください」

「……えぇぇぇぇ」

口にはしなかったが、柊はどうやら夏樹を過大評価しているようだ。

いくら夏樹が勇者としての力を持っているとしても、普段、縁のない外車に施された対策など見抜けるわけがない。なんとなくなにかしているな、というくらいはわかるが、防弾対策までしているとどうやって見抜けというのだ。

「どうぞ、お乗りください」

「ど、どうも」

後ろの席を柊に開けてもらうと、恐る恐る車内に乗り込む。車内は無人だった。

校長室の椅子や、警察署署長室のソファーとでさえ、比べ物にならないほどの座り心地だった。

夏樹としては、車の座席に革仕様があるのか、とただ驚くしかない。

母の乗る軽自動車は空間こそ広いが、本当に普通の車だ。銀子の車は、正直おんぼろなので、比較するのも申し訳ないくらいラグジュアリーだった。

肘掛けと思われるところには、冷えた炭酸飲料、お茶類が置いてある。

疑うわけではないが、毒が入っていたら困るし、水無月家でトイレを借りることになってもなんとなく気まずいので遠慮しておくことにした。

「それでは、出発させていただきます」

「お願いします」

車はスムーズに発進した。

外車をタクシーのように利用できる夏樹は、ビップ気分だった。

「由良様。改めて、本日は水無月家への来訪を感謝致します」

「いえいえ。俺も誤解があるようなら解いておきたいですし、仲良くしたいですから」

「そう言っていただけると水無月家としても安心です。……しかし、水無月家当主はさておき、一族の現役を退いた老人たちは少々面倒な方々ですので、基本的に相手になさらないでください」

「はぁ」

「本日も、当主様と澪様、都様が夏樹様にお会いする予定でしたが、割って入ってきてしまいました。ご不快な思いをしましたら、あとでこの柊に罰をお与えください」

「罰って、そんな」

(従者って言ったけど、被虐趣味でもあるのかな? それとも仕えるだけのなにかが水無月家にあるのか?)

旧い一族の老人連中が小うるさいことは夏樹もよく知っている。

異世界で、長老、老師、元老院と『老』と名のつく方々は基本的に面倒臭い奴らばかりだった。

基本的に夏樹はご老人を大切にする子だったので、気にしなかった。

「ここだけのお話ですが、老人たちは由良様を恐れているのです」

「はぁ」

「自分たちには理解できない、未知なる力を持つ由良様にどう対処していいのかわからず虚勢を張ることしかできません。哀れな弱者だと思い、御慈悲をいただけますと幸いです」

「ぜ、善処します」

八咫柊は、まだ中学生の夏樹を侮ることはせず、客人として礼を尽くしている。

夏樹としても、柊の印象は悪くない。同時に、怖く思う。彼女のようなタイプは、主人のためなら勝てないとわかっても、万が一の時には噛み付いてくるタイプだ。

そうならないことを祈るが警戒はしておくことにした。

しばらく会話がないまま、向島市の郊外にある山の麓に近づいた。

民家が減り、だからと言って田畑もなく、竹藪に覆われた道を通った先に――大きな武家屋敷があった。

「うわー、武家屋敷だ! テンション上がるぅ!」

さっそく車を降りた夏樹は背を伸ばして、向島市にこんな屋敷があったのかと興味深く視線を向ける。

いくつかこちらを見ている『目』に気づいたが、とくに気にしない。

頑丈そうな門をくぐると、和装に身を包んだ使用人と思われる男女が十人、左右に並んで頭を下げていた。

(うわぁお。この頭下げている人たちの間を歩けってか? 中学生には難易度高けぇ!)

ビップ扱いも大変だ、と夏樹は肩をすくめた。