作品タイトル不明
76「七割じゃね?」②
「二分が限界よ」
「はいよ!」
聖剣さんが夏樹の背後から抱きしめるように現れ、囁き、消えた。
「その聖剣素敵ね。欲しいわ」
「あんたには渡してやらないよ」
「いいわよ。腕をちぎって奪うから」
「やってみろ、メンヘラ女」
夏樹と茨木童子が揃って地面を蹴った。
土埃が舞う。
「――鬼退治の時間だ。叫べ、神鳴の剣」
雷鳴が響いた。
「炎の血を、騒げ。剣となり、獲物を狩れ――血剣」
炎を纏った赤い刀を茨木童子が握ると、振るう。
神鳴の剣と血剣がぶつかる。
ふたりを中心に暴風がうなり、夏樹と茨木童子の身体を意図せず生まれた風の刃が蹂躙する。
血飛沫が飛び、互いの顔にかかると茨木童子は嬉しそうに舐めた。
「喜んでいいわ。今のお前は……私の知る全盛期の酒呑童子以上よ」
「当たり前だろ、俺を誰だと思っている?」
「ギャラクシー河童勇者でしょう?」
「ギャラクシー河童勇者Zだっ、よ!」
夏樹の肉体を蒼雷が飛ぶ。
剣を振らずとも、自らの意思を持ったかのような蒼い雷が刃となって茨木童子を襲う。
夏樹が一撃を放つ度に、七度の斬撃が襲う。
だが、浅い。
「治らないだろう?」
「――なにを、したの?」
再生能力が発動しないことに、茨木童子が不思議そうにする。
慌てた様子がないのは、傷が浅いせいだろう。
「教えるわけねえだろ、ぼけっ!」
再び地面を蹴った。
聖剣で斬り、蹴りを入れ、拳を振るい、夏樹は着実に茨木童子にダメージを入れていった。
このまま押せば勝てる自信があった。
同時に、こんな簡単にいくのか、という不安もあった。
聖剣を七割の力で振るうことで『本来の力の一部』を使用できている。
聖剣が新たに取り戻した力は『――破壊』だ。
再生能力など関係ない。
再生能力ごと破壊したのだ。
聖剣で斬り、蒼雷で焼き斬り、破壊する。
これが、七割の力を解き放った夏樹の一撃だ。
――しかし、限界が近い。
「あと一分よ」
聖剣さんの声が響き、鼻血が出た。
「あら、限界かしら?」
「お前もな」
茨木童子の左腕が落ちた。
再生はしない。
腹からの出血も止まっていない。
肩も抉られたまま治っていない。
身体中の裂傷から血が止まっていない。
対して夏樹は、怪我らしい怪我を負っていない。
どちらが押しているのか、見ればわかる。
「……そうね。正直に言うと、このままじゃ辛いわ」
「なら提案してやる。異世界の勇者はクズにも慈悲があるんだよ」
「それはいい話かしら?」
「跪いて首を差し出せ。苦しまないように殺してあげる」
「やはりあなたは優しいわね。私なら、苦しめて殺すわ」
「じゃあ、死んでも後悔しろ」
雷鳴が裏京都を震わせた。
夏樹が聖剣を薙ぎ、茨木童子を袈裟切りにした。