作品タイトル不明
74「茨木童子強くね?」②
「ふっざけんな、このクソメンヘラ鬼ぃいいいいいいいいいいいいいいい!」
聖剣を地面に刺して魔法障壁を張った夏樹だが、その障壁も圧倒的な霊力によって砕かれ全身が粉々になりそうな衝撃を受ける。
「……あら? すごいわね。自分はそっちのけでその他を守ったのね。ご丁寧に星熊童子たちまで守るなんて、馬鹿な子」
「うるせえ、ブス」
夏樹は自分ではなく、小梅たちを守るために障壁に全力を注いだのだ。
結果、自分の防御が疎かとなり、大きなダメージを受けた。
「げほっ、おえっ……あー、内臓やられたかも」
「私の霊力は毒よ。あまり人が食らっていいものではないわ」
「俺の内臓がメンヘラになったらどうするんだよ?」
「苦しむ前に、降参なさい。痛みを与えないように首を刎ねてから、食べてあげる」
「会話ができねー! こいつきらーい!」
ダメージを負ったが、まだ夏樹には余裕がある。
(――夏樹、もう様子見はやめなさい。あたしもできるだけ協力してあげるから、六割の力を出して早々に殺しなさい)
(……うん。五割じゃやばい。できるだけ力は取っておきたかったけど、使い果たす勢いで戦おう)
正直なことを言うと、茨木童子を倒したあとに安倍家を更地にするつもりだったので、力を温存しておきたかったのだが、茨木童子を殺すことを優先することにした。
ふう、と夏樹は呼吸を整える。
大気中の魔力を取り込むと、瞬間的に膂力を限界まで上げて茨木童子を蹴り飛ばした。
蹴られたサッカーボールのように屋敷の残骸の中に突っ込んだ。
何回か咳をして、血を吐き出すと、夏樹は小梅たちの元へ近づいた。
「夏樹……おどれ、大丈夫なんか?」
「ちょっとまずい。想像していたよりも、強いからマジで本気ですよ」
「俺様がしてやれることはなんじゃ?」
「――かなり本気出すから全力でみんなのことを守って欲しい」
「余裕じゃ大船に乗った気で任せるとええ!」
「小梅ちゃんがいてくれてよかった。心強いよ、ありがとう」
「――とぅくん。ま、まあ、俺様のありがたみがわかればええんじゃよ」
夏樹と小梅は拳をぶつけ合った。
「祐介くんもさすがに茨木童子には興奮しないよね?」
「もっとかける言葉を選んで! 正直に言うと、イケるよ!」
「……さすが大地の勇者だね」
「いえいえ、海の勇者様には勝てませんとも」
「とりあえず防御よろ」
「がってん!」
祐介もまだ余裕があるようでほっとした。
「しののん」
「……夏樹くん、自分が不甲斐ないせいでごめんな」
「気にしなくていいよ」
「……せやけど、ひとつだけ自分は茨木童子に仕掛けをしとったんよ。それを発動させれば、夏樹くんの有利になるはずや」
「なにそれ?」
「それは――」
東雲が何かを言おうとしたが、彼の腕の中で円がうっすら目を開けた。
「……夏樹、ちゃん?」
円の目に、今の夏樹がどう映ったのかわからない。
しかし、彼は懐かしい呼び名をしてくれた。
今はそれでいい。
「久しぶりだね、円ちゃん。今はゆっくり眠ってると良いよ。全部終わらせてから、仲直りしよう」
「――うん」
再び目を閉じた円を東雲が小梅に託す。
「千手さん! 未来の奥さんたちをちゃんと守っててね!」
「別に奥さんたちじゃねえから! 茶化してねえで、早く茨木童子をぶっ殺してこい!」
千手にも声かけは忘れない。
夏樹と東雲がみんなから離れるように、瓦解した屋敷に近づくと、茨木童子が瓦礫を押し寄せて出てきた。
かなり本気で蹴ったはずが、ダメージなど受けていないようだ。
「あら、しののん。私の前に立っていたら、危ないわ。今から、完全なる血統を殺してから血肉を喰らうの。あまり見られると恥ずかしいわ」
「……お前はどこまでも鬼やね」
「ええ、鬼ですもの」
「そんなお前にプレゼントや。僕が長い時間をかけて、施した呪をくれたる。死なへんやろうけど、痛い目みせたることはできるやろう」
「しののんからのプレゼントなんて――感激よ」
東雲から呪いを施されたと告白されても茨木童子の表情は変わらない。
笑顔を浮かべたまますべてを受け入れるように両手を広げた。
東雲はそんな茨木童子に心底嫌そうな顔をすると、彼女を睨み、
「……死ねや、ボケ」
短くも霊力が過分に込められた呪いの言葉を吐いた。
――次の瞬間、茨木童子の内側から炎が吹き出した。