作品タイトル不明
47「安倍東雲の理由じゃね?」①
「いや、お前全部知っとったんかーい!」
小梅がツッコミを入れた。
さすがに夏樹も唖然としている。
まさか茨木童子とカップルチャンネルを始めようとしていた男が、すべての元凶であることを知っていたとは思わなかった。
「……えっと、しののんって茨木童子と親密じゃないの?」
「そのふりをしとるだけや。まあ、敵を欺くには、まず味方からってことで」
「まどろっこしっ!」
知ってたか、と夏樹が酒呑童子と玉藻前に視線を送るとふたりは少し気まずそうに頷いた。
「直接聞いたことはないんだが」
「なんとなく察してはおったよ」
「お前らも知っとったんかーい!」
再び小梅が突っ込む。
「少年よ。落ち着いてほしい。安倍東雲くんにとって、この数年は苦渋の決断だったのだ」
「――とぅくん」
「唐突に、ときめくな!」
イケボで囁かれたせいで、胸を高鳴らせる夏樹の頭を千手が引っ叩く。
「おい、安倍東雲。面倒臭いから、さっさと全部吐け。俺たちに、事情を話そうと思ったから、ここに来たんだろう?」
「せやね。話をさせてもらいます」
安倍東雲は、まずその場に膝を着き深々と頭を下げた。
小さいおじさん雅也も、同じように頭を下げる。
「まず、謝罪をさせてください。騙すようなことをして申し訳ない」
「とりあえず、顔を上げて話をしようよ」
「おおきに」
夏樹に促され、東雲と雅也が顔をあげる。
東雲は一同に事情を語った。
「自分は、雅也はんから茨木童子が円と夏樹くんを襲った犯人やと知り、殺そうとした。けど、殺せんかった」
「だろうなぁ」
「そうじゃな。無理じゃろう」
「そうなの?」
夏樹は疑問に思い、首を傾げた。
安倍東雲は強い。
それこそ底が見えないほどだ。
そんな彼が勝てないと言う茨木童子に興味が湧く。
「正直な話、そちらにいる酒呑童子殿、九尾の狐殿であっても、一対一なら自分は勝てる自信があるんよ」
「うん」
否定はしない。
酒呑童子の底も見えないが、夏樹も負ける気はしない。
「全盛期に比べて弱体化しとる大妖怪であっても、僕なら倒すことはできる。無論、命を代償にしなければならんけど、それは些細な問題や。でもね、茨木童子は勝てへん」
「――そんなに強いのか?」
「そうや。自分は茨木童子が近づいてきた理由は知らへんけど、絶好の機会やと思い会う約束をして殺そうと思ったんや。でも、戦いを挑む前に、愕然としてたんよ。あれは、鬼やない。化け物や」
東雲は茨木童子を思い出したのか、身震いをした。
酒呑童子が代わりに続ける。
「数年前に、茨木童子はクソ強くなりやがった。どんな裏技を使ったのか知らねえが、正直、全盛期のおっちゃん以上だぜ」
「今の京都の鬼を支配しているのは、茨木童子で間違いないのじゃ。不幸中の幸いというべきか、茨木童子にも何やら考えがあるようで妾たち妖狐をどうこうしようとは思ってないようじゃが……おそらく時間の問題じゃろう」
「ま、おっちゃんもせっかく人として平和に暮らしているところを邪魔されたくないから、安倍東雲がなにかを企んでいるのは知っていても放置していたんだぜ。最初は、殺しにきたけど、話せばわかってもらえたしな」
(えっと、とりあえず……俺を襲った茨木童子が全部悪い。とりあえず殺す。酒呑童子のおっちゃんと玉藻ちゃんも茨木童子のことを知っていて、しののんとも少なからず交流があった。うんうん。なんかまどろっこしいなぁ)
「いやさ、勝てないなら関わらなきゃいいじゃん」
「せやね。でも、自分はお兄ちゃんなんよ。可愛い弟が苦しめられているのを知りながら放置はできへん。だから茨木童子は殺す。絶対に殺すんよ」
「……どうしてそこまで? 円ちゃん……安倍円がトラウマで苦しんで、復讐に囚われているのはわかるけど」
「まず、そこから違うんよ」
「え?」
東雲は泣きそうな顔をして言った。
「――円には、酒呑童子を殺せと茨木童子から呪いがかけられとるんや」