作品タイトル不明
3「妖怪がなんか用かい? じゃね?」②
「とりあえず、一回、お家に戻ろうか。このまま河原にいても仕方がないし」
「まあ、慌てなさんなって、坊ちゃん」
「なによ?」
ミネラルウォーターを飲み干した夏樹が立ち上がる。
すでに学校は遅刻が決定したので、もう今日は諦めた。
月読先生には『ぬらぬらしたのでおやすみします』と連絡を入れておいた。
「まあまあ、座んなって。まずはおじちゃんとふたりっきりで話をしようぜ。ちょっと人間と妖怪でよう」
「……ファンタジーなお話?」
「俺たち妖怪をファンタジーって一括りにするならそれでもいいんだが」
ぬらりひょんは、夏樹にざっくりファンタジー扱いされたことに苦笑している。
話をしたいというのなら、話をしようと思い、夏樹は再び腰を下ろした。
「はっちゃけてぬらぬらしちまったけど、ちょっと真面目な話だ」
「うん」
「お前さんの人となりは、河童や、この辺に暮らす妖怪、そこにいる橋姫、すさすさうっせー奴とかに聞いた。調べるようなことをして悪かった」
「別に気にしないけど、おじいちゃん、交友関係広いね」
「長生きだからな。それで、だ。お前さんは今後どうするんでい?」
「どうするって、とりあえず受験勉強? 正直、やりたいことがないから行ける範囲の学校でいいかなって思っているんだけど、早く社会人になりたいし、悩んでるところかな」
「いや、なんつーか、それも大事なんだが、そうじゃなくてだな。――異世界から帰還なさった勇者様は、この日本でどんな生き方をするのかってことさ」
「あー、そっち」
「おう、こっち」
夏樹は腕を組んで悩んだ。
確かに自分は異世界で無双した勇者であるが、日本に帰ってきたからといって特別この力でどうこうする予定はないのだ。
イベントがたくさんだったので、今後を考える暇がなかった。
「……うーん。この力を使ってなんかしようって野望はないよ。そりゃ、強い神様とか魔族に喧嘩売られたら買うし、殺せるなら殺しておくけど。自分から喧嘩売りにはいかないよ。あ、でも京都には遊びに行こうと思ってる。行くなと言われたけど、思ってる!」
「待て、京都はやべえ。坊ちゃんみたいなトラブルに愛されている子が行ったら、絶対巻き込まれる。京都はマジでやべえんだよ」
「やばいの? どのくらい?」
「……例えるなら……ファーストなチュウを失敗して歯をぶつけちゃったくらいやばい」
「めっちゃやばいじゃん! 京都やべえよ! なにそれ、今後気まずくて、初々しいカップルなら別れる原因にもなるやつじゃん! ちょっと、連絡とりづらくて気づいたら疎遠になってる感じの!」
「もしかして経験者か? そいつは申し訳ねえ」
「ううん。少女漫画で学んだ!」
「そっか。少女漫画か。まあ、いいんだけどよう。とにかく、そのくらい京都はやべえんだよ」
京都がやばいのは伝わってきたが、なにがどうやばいのかがわからず気になる。
「ちょっと、やばいのはわかったんだけど、どのくらいやばいか教えてくれないと、気になって新幹線飛び乗っちゃう!」
「おまっ!? 遠野には来ないって言ったくせに、京都は行くのかよ!」
「遠野どこにあるか知らないし! どこ? 青森?」
「ちげーよ! なんで青森なんだよ! 岩手だよ! いいところだから、遊びにおいで! ちなみにサレルノ市とチャタヌーガ市と姉妹都市だぜ!」
「いや、どこそこ!?」
なんとなくだが、ぬらりひょんは銀子と同じタイプだと思った。
疲れはしないが、振り回されてしまう。そんな感じだ。
「京都はなぁ……狐さん一派と、鬼さん一派がめっちゃ喧嘩してて、やべぇのなんのって。そこに安倍さんの一門が加わって三すくみよ。坊ちゃんが観光なんて行ったら各派閥に目をつけられて絶対帰ってこられないね!」
「まじかー。三すくみかー。ていうか、安倍さんって……まさか、せーめー的な?」
「そうそうめーせーめーせー。安倍さん一門もなぁ、俺らとお手々繋いで仲良くしようぜ穏健派と、人外は根絶やしだよ過激派がいてなぁ。もう両極端なの。だーかーらー、遠野においでよ。今なら、可愛い雪女ちゃんとかろくろっ首ちゃんとか紹介してあげるから。お嫁さんにどう?」
「ぐ、ぐいぐいくるなぁ」
「その話、聞かせてもらったよ! 僕にのっぺらぼうの美人さんを紹介してくれるかな?」
「いや、のっぺらぼうって顔がないのに、どこで美人かどうか判断するんだよ。難易度高えよ」
聞き覚えのすごくある声が、河原に響く。
「誰でい!」
「いや、そんな律儀に相手しなくていいから」
警戒心をあらわにして立ち上がったぬらりひょんに、夏樹が突っ込む。
もちろん、声の主のことはわかっていた。
「千手さんとコンビニで会って、せっかくだから朝ご飯でもって話をしていたら、話を聞かせてもらったよ。夏樹くんだけが異世界の勇者だと思ったら、大間違いさ。この僕、佐渡祐介は、大地の勇者として異世界に召喚され、前任勇者と比較されて罵倒され種馬扱いされ最後に死んだ可哀想な勇者なのさ!」
「……お前、すごいな。昨日まで引きこもっていたとは思えないな。あと涙拭けよ。自分で言って泣くなら言うなよ」
「……うん」
夏樹の後任勇者である佐渡祐介と、魔眼を持つ霊能力者七森千手がなぜか背中合わせのポーズを決めて、そこにいた。