軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「姉弟集合じゃね?」②

お茶と茶菓子を用意するため、部屋を後にした雲海を見送ると、天照大神と月読は心底嫌そうな顔をした。

「――クソ愚弟」

「……クソ愚弟」

「お名前で呼んでよ!」

泣き真似をする弟に、姉と兄はイラっとする。

古今東西探しても、これほど可愛くない弟はいないだろう。

「とりあえず、座らせてもら……相変わらずきったねぇな」

「……こ、このマザコン野郎! この部屋のどこが汚いんだ!」

「いや、汚ねえだろ。俺の部屋のほうがまだ綺麗だぞ」

「なんで自分の部屋の写メをもってるんだよ! 見せんな! うわっ、なにこれおっしゃれー! え? どこで暮らしてるの? タワマン?」

「いや、神界だよ。嫁さんたちが、今風のお家に憧れていてねー。今度、日本のどこかにも一軒家を構えようってことになったんだけど、なかなかいい物件が見つからなくてな! そこでだ、姉貴」

「あ、向島市はすさすさ言う奴は住めないっていう決まりがあるんで」

「ふざっけんなよ! 月読だって住んでるんだから、俺だって住みたい! 住みたいのぉ!」

「かわいくねー、弟だなぁ」

ひとしきり構ってもらった素盞嗚尊は満足したようで、転がっている一升瓶を避けてその場にあぐらをかく。

月読も、正座した。

「という感じで姉弟の絆を深めたところで、俺の親友由良夏樹の話をしようぜ。――何あの子、怖い!」

「いつから夏樹君が愚弟の親友になったのですか。あとで謝罪に行きなさい」

「ひでぇな兄ちゃん! 俺と夏樹は子供の頃から親友じゃねえか!」

「友達がいないからって夏樹君との記憶を捏造しないように」

「と、友達いるって! 八岐大蛇とか、マブよ、マブ!」

「…………まあ、いいでしょう。それで、戦ってみてどうだったのですか?」

「あの子、やばいって。つーか、聖剣が神殺しじゃん。全力出されたら、全力の俺でもかなりやばいだろ。なにあれ? 異世界行くとみんなあんなに強くなるの?」

素盞嗚尊は夏樹を神域に招き戦ったが、全力ではなかった。

神剣を使い、神として戦ったが、本当の意味で全力を出せば神域を破壊していただろう。

だが、それでも出せる力をすべて出した。

言い訳のしようがなく、敗北したのだ。

「異世界は行ったことないですもんね。話に聞く限りだと相当ひどいところみたいですけどねぇ。異世界はサブカルチャーで十分です」

「姉貴はそうなんだろうけどよう。俺的には、なにをすれば人のままあれだけ強くなれるのか知りてえよなぁ」

「おそらく、夏樹君も強くなろうとして強くなったわけではないのでしょうが……異世界で生きるためとはいえ、過酷な経験をしたはずです。子供が持っていい力ではない」

素盞嗚尊は全力を出せばとは言わなかった。

むしろ、全力を出しても、夏樹が同じく全力を出したら改めて敗北する可能性があるとまで言う。

口には出さないが、天照大神と月読も負けず嫌いな弟が素直に負けを認めるところを初めて見た気がした。

「そもそも、世界の管理はゴッドの管轄です。異世界も異世界ですね。力のない子供ではなく、最初から強者を喚び出せばいいものを」

天照大神としては、大切な子が知らぬ内に誘拐されているのが気に入らない。

小説や漫画のように、ハーレムを作って異世界を満喫していたのであればまだよかったが、夏樹の場合はその逆だ。

その後、同じく異世界召喚された佐渡祐介も夏樹同様にひどい目に遭っている。

両者の件は、きっちりゴッドに苦情を入れておいた。

「管轄外の話をしても仕方がありません。私たちは、彼がよい少年であることに感謝しましょう。あれだけの力を持ちながら、心がまっすぐなことは見習うべきです」

「確かに。力を持っているからってやりたい放題の神とかいるもんね」

「なんて奴がいるんだ! 姉貴、俺に言えばそんな神ぶっ飛ばしてやるよ!」

「……じゃあ、自分を殴れよ」

「え?」

月読が、立ち上がる。

今日は難しい話をしに来たわけではない。

あくまでも姉の領域で勝手をしたことに謝罪に来たのだ。

神としての役割もあるが、今は新たに生まれた神々の動きを待っている役目もある。

月読としては、夏樹の善性を信じているので、問題視していない。

「さて、私はそろそろお暇します」

「なんだよ、兄貴。一杯やろうぜ」

「帰りも運転なので、飲酒は駄目です」

「神のくせに車かよ」

「いえ、自転車です」

「この山のお家までチャリで来たの!?」

「ええ、いい運動でした。最近は、試験を作ったり、採点したり、果てには問題を起こした生徒の転校手続きやらと忙しい日々です」

「先生も大変だなぁ」

「やりがいがある仕事ですよ。個人的には愚弟が起こす揉め事の処理の方が大変です!」

そう言い残すと部屋を後にする月読を、素盞嗚尊が追いかける。

「あ、姉貴、これ飲んでね! 待てよ、月読! 最近の中学生は発達がいいっていう議論を交わそうぜ!」

「交わしません!」

「マンション行っていい? え? アパートなの!? ……車も持ってないし、お金なら貸すよ?」

「お金に困っていません!」

月読と素盞嗚尊のやりとりを聞きながら、天照大神は苦笑した。

なんだかんだと素盞嗚尊はお兄ちゃん子だ。

ただ、感情表現が不器用なので、邪険にされてしまう。

もちろん、月読も月読で本当に素盞嗚尊を嫌っているのなら、姿を見せはしないだろう。

「まったく男どもは。さーて、せっかくだからお土産のお酒でもいただ――え? マジで八岐大蛇って酒作ってんの? 三代目八岐大蛇蒸留所って、ネーム的にどうなの!? つーか、焼酎かよ! 日本酒つくれよ!」