作品タイトル不明
間話「いつも通りのふたりじゃね?」
青森でりんご農家を営みながら、動画配信をする魔族ことサマエルは、ノートパソコンと睨めっこしていた。
「――もっと処理の速い高性能なパソコンがほしい。動画編集が大変だ。そうだな、デスクトップがいいな」
風呂上がりのサマエルは、近所の中学校の短パンと体操着を着て、丸テーブルの上に置いた古いノートパソコンで動画編集をしていた。
「……サマエル様、さして動画がバズったわけではないのに一端の動画配信者気取りでパソコン購入は控えた方がよいかと思いまもんまもん」
スーツの上から割烹着を身に着けたマモンが、サマエルの手に届きやすい場所に冷えたビールが注がれたグラスと、冷奴、だし巻き卵を置く。
「お前が動画の中で大暴れするから、カックカクなんだよ! 編集中にフリーズするんだよ! 途中でやり直しとか勘弁してよ! 睡眠時間削ってるんだよ!」
「まもんまもん……まさか編集していたとは、このサマエル様の忠実なる下僕であるマモンをもってしても見抜けませんでした」
「お前が動画の中で魔界あるあるとか、七つの大罪の名前出したり、サタンディスったりしなかったら編集しねーよ!」
「それは申し訳まもんまもん。まさか、魔界にその方ありと名を轟かせたサマエル様が、コンプライアンス? 的な何かを気にしてなさるとは……ひよっ、いえ、落ち着かれたものですねまもんまもん」
「おい、お前、今、ひよったって言ったろ」
「まもんまもん」
「まもんまもんは便利な言葉じゃねーんだからな!」
ひとしきり怒鳴ったサマエルは、ビールを一気飲みする。
げぷっ、と少々お行儀悪いことをしてしまうが、ここにはマモンしかいないので気にしない。
「言っておくけど、一応動画は伸びてるからな! ショートもいい感じだし。私へのコメントも増えたんだぞ」
「それはまもんまもんですね」
「今のまもんまもんは良い意味か悪い意味か!?」
「ところで、まもんまもん。そろそろライブ配信をしませんか?」
「……絶対まもんまもんにしかならないから嫌だ」
「じゃあ、オフ会はいかがでしょうか。まもんまもん」
「じゃあ!? じゃあ、でそれ!? お前な、一応は魔族でひっそりと暮らしているんだから、人間に過剰に関わるなよ」
「動画配信をしているさまたん様に言われてもまもんまもん」
「お前が来るまで細々としていたからいいんだよ! なんだよ、この登録者19999人! あとひとりで二万人なのに、朝から誰も登録してくれないんだぞ!」
「……百万人まで長すぎなまもんまもん」
「お前、その設定覚えてたのか?」
「設定とか言わないでいただきまもんまもん! 魔界の母校から講師にならないかとお誘いを受けているのです、まもんまもん! 魔界に帰れないとお仕事がまもんまもんなのです!」
「講師ぃ?」
「まもんまもん。現在、魔界でも動画配信者を育成しているそうで」
「魔界平和だな! 私たちが若かった頃は、ごりごりの武闘派ばっかりだったのに!」
「サタンも社交ダンスしてまもんまもん」
サマエルは項垂れた。
記憶にある、若かりし頃のサタンはもう死んだと思うことに決めた。
「過去にしがみつくのは年寄りの悪いところですね、まもんまもん。俺たちも前を向きませんと。まもんまもん」
マモンはグラスにおかわりのビールを注ぎ、空いた皿を片付ける。
代わりに、今朝収穫をしたアスパラのおひたしと、チャーハンを並べ、割烹着を脱いだ。
「サマエル様、俺は少々おでかけしてきまもんまもん」
「ん? 出かけるのか?」
「まもんまもん。お車をお借りしますね。真門亜子さんと――夜空を見にいくのでまもんまもん」
「……あのね、マモンくん。仮にも七つの大罪の強欲を司る魔族なんだから、イメージを大事にしようよ」
「田舎に来てびっくりまもんまもん! 空気は美味しいですし、星も綺麗なまもんまもん!」
「それは私も思ったけど! 夏の夜空とか感動したけど! 蛍もいるしね! ちょ、待て、車って私の軽トラか? 猪や鹿のせいでボッコボッコになってる軽トラで女の子と星を見にいくの?」
「まもんまもん!」
「待て、それはさすがになくね? ちょっと待ってろ、知り合いから外車借りてやるから」
「まもんまもん! お気になさらず、大事なのは車ではありません――ハートさ!」
「急にうざくなったな、おい! そろそろ、私はツッコミの魔族になりそうだよ! 勘弁してくれよ!」
マモンはサマエルの言葉を気にすることなく、身だしなみを整えると、軽トラの鍵を指でくるくるさせながら、スキップしていく。
「……亜子ちゃんの同級生が何人か事故ったりしたみたいだけど、誰が何をしたんだか」
軽トラの排気音を聞きながら、レンゲでチャーハンを掻き込むサマエル。
「――うま」
今度、ショート動画で料理やらせようと今後の動画配信の予定を組むのだった。