作品タイトル不明
66「晩御飯じゃね?」
「あ、お母さんからご飯を食べてきてってメッセージ入ってる」
ざっと送られたメッセージに目を通すと、母は三原家に泊まるそうだ。
いくら優斗が問題児だったとはいえ、家族にとって急な訃報は辛いものがあるのだろう。
葬儀の準備もあるし、母が手伝ってあげたほうがいいと思う。
夏樹は自分もなにかできることはないか、とメッセージで尋ねてみると、すぐに返事がきた。
葬儀に出ることと、一登の支えになってほしいとのことだ。
「どうした?」
河童キングを名乗る犯罪者を、院の人間に引き渡しホクホクした顔をした千手は、スマホを眺めている夏樹に声をかけてきた。
「いや、晩御飯を外で食べてこいって、お母さんが」
「よし。なら俺が奢ってやるよ! 金も入ってくるしな!」
懐が暖かくなる予定の千手が気前良く奢ってくれると言うと、小梅と銀子が千手を拝んだ。
「ご馳走になりますんじゃ」
「ごちっす!」
「……あんたらも金もらうだろうに。そうだ、せっかくだから主をお呼びしよう!」
「……ゴッドを呼ぶんか?」
「そいつがどこのゴッドだか知らないが、俺の主はジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻様だけだ!」
「こやつどうしたんじゃ?」
「いやー、ジャックとナンシーと再会してから、頭のねじが数本外れちゃったみたいで」
「まあ、ジャックとナンシーはゴッドの孫から見ても、ゴッドよりもゴッドみたいじゃからのう」
千手のジャックへの入れ込み様に、小梅が納得するように頷く。
スマホを片手に夏樹も同意し、ここにはいないジャックに十字を切って祈った。
「で、どこに食べに行きます?」
「どこでもいいけど、今日は動いたから重いもん食べたいな。あと、ビール飲みてえ」
千手の言葉に、銀子と小梅がうんうんと頷く。
「アルフォンスに飯でも作らせるかのう」
「誰だそいつは?」
「ミカエルさんちのご子息です」
夏樹がアルフォンスの正体を教えると、千手は小刻みに震えてから叫んだ。
「ルシファーに続いてミカエルも地上にいるのかよ! 素盞嗚尊様とか月読命様とか、大物ばかりいすぎだろ! もっと小物からこいよ!」
「小物ではないと信じたいけど、河童さんは?」
「小物だよ! いや、遠野のほうにいる河童は結構やべえらしいが、この街に住んでいるのは小物だろ!」
「つまり大物の河童さんもいるんだね?」
「お前さん、河童好きだな! 遠野行くなよ!? 絶対、妖怪たちに絡まれて上がすぐ出てくる未来しか見えねえぞ! あと京都にも絶対行くなよ! いいか、行くなよ!」
「……わかりました」
「いや、その顔はわかってない。むしろ、妖怪見たさに確実に会える場所を確信したから行く気満々の顔をしてるぞ!」
「――さすが千手さん。魔眼の一族」
「関係ねーよ! もう少し静かに暮らせって、十代でそんな慌ただしく生きていたら三十代くらいで疲れちゃうぞ!?」
千手の悲鳴が河原に木霊する。
夏樹は物分かりのいいように頷いているが、千手の推察通り、本気で遠野か京都へ行く気満々だった。
その後、アルフォンスの店におしかけた夏樹たち。
「まだ店はオープン前なんだけどなぁ」
そう言いながら、アルフォンスは手慣れた手つきで中華を作ってくれた。
残念ながらジャックとナンシーは、家族との通信があるので合流できなかった。
夏樹と千手は、蓮が作った炒飯を食べながら、神奈家の出来事を面白おかしく語った。
「マジで、うちの蓮に変なこと教えるなよ。マモンから預かってる大切な息子さんなんだから、マジで頼むぞ! マジだからな! おい、夏樹、千手、にやにやすんな! 俺はマジで言っているんだからな! 真面目な蓮がお前らみたいにはっちゃけられたら困るんだよ!」
蓮の作ってくれた炒飯は、料理を学び始めたとは思えないほど美味しかった。
千手と一緒に料理漫画の如くリアクションを取ったり、他愛無い話をしたりして楽しい時間を過ごした。
ただ、話の中で一登の話題になり、三原優斗が亡くなったことを家族が知ったと伝えると、蓮もアルフォンスも暗い顔となる場面もあった。
後日、一登を店に連れてくることを約束して、晩御飯を食べ終えた夏樹たちはそれぞれ帰路についたのだった。