軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1「ついにゴッドと会うんじゃね?」①

由良夏樹は緊張していた。

異世界に召喚されて勇者として戦うことになったのも驚きだったが、死に物狂いで戦って魔王を倒し、魔神を殺して地球に帰還してみたら近所にファンタジーが溢れていたことにも驚いた。

天照大神、月読命、サタン、ルシフェル、ルシファー、マモン、サマエルと聞いたことのあるビッグネームの神族魔族と出会った挙句、宇宙人と未知なる邂逅まで果たしたのだ。

もう驚くことはないと思っていたが、さすがにゴッドと会う約束をするとは思わなかった。

おかげでストレスのせいで朝から胃が痛い。

いつもならしっかり食べる朝食も、味噌汁しか飲めなかった。

「……しっかし、まさか俺がゴッドと会うことになるなんて。あと、小梅ちゃんから渡されたサングラスが何の役に立つのかもわからない」

小梅は、相手が祖父であることもあってついて行こうかと提案してくれたが、ゴッドからはふたりで話をしたいと言われていたのでやんわり断った。

すると、「必要になるんじゃ」とサングラスを手渡してくれたのだ。

銀子と夏樹が「なんで?」と首を傾げたのは言うまでもない。

だが、小梅は理由を教えてくれず、「会えばわかるんじゃ」といたずらっ子のような顔をした。

基本的に夏樹は、嫌なことはさっさと済ませるタイプなので、学校をサボってゴッドと会うことにしたのだ。

月読先生に連絡したところ「何かあったら呼んでください」と心強い言葉をもらっている。

夏樹としても、ゴッドに会いたい理由がある。

まず、小梅と一緒に生活しているので、ご挨拶をしたかった。

もうひとつは、夏樹が異世界に召喚されたことをゴッドは知っていたのだ。

すでに終わったことではあるが、なぜ自分が勇者として異世界に召喚されたのか知りたかった。

どんな理由があろうと、納得はできないだろうし、時間は戻ってこない。それでも、理由くらい知る権利があると思ったからだ。

異世界に召喚されたのは『聖剣の勇者』としてだが、それだけではないこともわかっている。

なぜ自分だったのか、という疑問がどうしても消えなかった。

夏樹はゴッドが答えを知っているのではないかと思い、少し期待していたのだ。

「……おっと、ここだな」

ゴッドに指定されたのは、向島市にある喫茶店だった。

レトロな雰囲気を持つ外観は、近所の人たちの憩いの場という印象を受けた。

夏樹は普段は珈琲をあまり飲まず、飲む時もコンビニや珈琲チェーンが多いので、喫茶店というのは新鮮だ。

クラスの女子が、おしゃれなカフェでスイーツを、という話は聞いたことがあるが、そういう喫茶店とはきっと違うのだろう。

――喫茶店の名前は『最初の妻』

「……なんか飲み屋みたいな店名だなぁ。あとなんとなく嫌な予感がするのはきっと気のせいじゃないと思う! ぽんぽん痛い!」

とはいえ、喫茶店に入らなければ始まらない。

「――いざ!」

きっと魔王と戦うときでさえこれほど緊張はしなかっただろう。

木製のクラシックな扉を引くと、からんころん、と小さな鐘が鳴った。

「いらっしゃいませ。あら、可愛い子」

「あ、どうも。あの、待ち合わせを」

店内に入ると、珈琲の香りと共に上品な女性がカウンターの向こうから出迎えてくれた。

黒髪を綺麗に整え、背はすらりと高い。

細身のブラウスの上にベストを羽織り、慣れた手つきで珈琲を淹れる仕草はカッコよかった。

そしてどこかで会ったことがあるような感覚を覚えてしまう。

「……待ち合わせって、こんな中学生を昼間っから。サングラスは持っている?」

「ええ、一応」「じゃあかけてね」

「はい。――うわ」

夏樹がサングラスを装備すると、女性が指を鳴らした。

背後から、圧倒的な存在感が襲い掛かり呼吸が止まった。

サタンや天照大神よりも遥かに強い力だ。それでいて、どこか優しさがある。

「ちょっと、力を抑えてちょうだい」

女性が文句を言うと、背後からの力が収まる。それでも、息苦しいくらいには存在感がいまだにあった。

「……今日は暑いけど、お腹痛そうな顔をしているからミルクを入れた落ち着く珈琲を持って行ってあげる」

「あ、ありがとうございます」

女性にお礼を言い、振り返った夏樹はサングラスの存在理由を理解した。

「あー、そういうことかー」

店の角にあるボックス席には、これでもかと無駄に光を放つ人型の『何か』がいた。

『何か』が自分を待っているゴッドで間違いないと察した夏樹は、ゆっくり嫌そうに近づいていく。

「――どうぞ」

懐かしさを感じる、無駄に良い声だった。

「失礼します」

ゴッドと対面する形で座った夏樹に――発光しているせいでわからないが、なんとなく微笑まれた気がした。

「はじめまして、由良夏樹くん。後光が眩しくて申し訳ございません。私はゴッド。みんなから愛される――そう、アイドルのような存在です」