作品タイトル不明
間話「熊童子の姿に悩むんじゃね?」①
「なあ、いばちゃん」
「なぁに、しののん」
向島市のホテルに滞在している安倍東雲は、かつての仇でありながら相思相愛になってしまった茨木童子にためらいがちに声をかけた。
茨木童子は、甘えた声で返事をする。
「……ここしばらく悩んどるんやけど」
「うん?」
「熊童子のことや」
「あの子がどうかしたの?」
「あー、なんや。自分がこんなこと言うのはなんやけど、もうちょっと人に寄せることはできへんかな?」
「うーん、もともとあの子は人型にならない子だったからねぇ」
酒呑童子の娘たちのひとり、熊童子の外見は熊そのものだ。
可愛らしいつぶらな瞳を持ち、木の実とはちみつを愛する熊童子。
しかし、見知らぬ人間が見たら恐ろしい熊だ。
「ご飯の時には人間の姿になってくれとるんやけど、もう少し人間寄りにできんかなぁ?」
「……結構頑張っていると思んだけど」
「頑張っとるのはようわかるんよ。でも、もう少し、なんというか、最近はいろいろ物騒やから、万が一があったやらあかんと思うんよ」
「あー」
昨今の熊問題は深刻だ。
そのため、熊童子の姿が万が一人に見られてしまったら大変なことになるだろう。
「そうは言ってもねぇ、もともと熊童子は人を食ったこともないし、むしろ、子供たちを背中に乗せたり、迷子を家まで届けたりしているのにねぇ」
「……熊童子はんがええ子なんは十分に承知しとるんやけど」
「そもそも、野生の熊と一緒にしてもらいたくないのよねぇ。知性が違うは、知性が」
「せやねぇ」
「でも、しののんのお願いだから熊童子にやんわり言ってみるわ。あの子も、人間の姿になることが嫌いなわけじゃないのよ。ただここ何百年ってする必要がなかったのよねぇ」
「スケールが大きいんやねぇ」
こちら都合で申し訳ないと思うが、完璧な人の姿になることができれば熊童子も行動範囲が広がるだろう。
せっかく向島市にいるのに、行動範囲が狭まっているのはかわいそうだと思っていた。
もっとも、本人はお風呂とご飯を堪能しているので不満はないようだが。
――熊童子が完全な人間体になるまでもう少し。