作品タイトル不明
31「初恋は甘酸っぱくてほろ苦いんじゃね?」①
――放課後。
由良夏樹は凹んでいた。
これ以上ないくらい、しょんぼりしていた。
「……許せねぇ、許せねえよ新たな神々。あいつらのせいで俺は月読先生を間違えてお母さんって呼んじゃったんだ。間違いなく、授業中に先生をお母さんと呼んでしまう想いから生まれた新たな神々がいる!」
「……夏樹くん、恥ずかしかったのはわかるけど、さすがに八つ当たりがすぎるというかなんというか」
「うん。杏も、そう思うよ。むしろ、お兄ちゃんが新たな神々とかクラスで言ったせいで厨二病扱いされている方が問題なんじゃないかなあって思うな」
「厨二病は千手さんの役目でしょう!?」
「本人の前で絶対に言っちゃだめだからね! 張り倒されるよ!?」
下駄箱で待ち合わせをしていた一登と杏と合流した夏樹は、今日の失敗をすべて新たな神々のせいにして憤っていた。
ちなみに「授業中に先生をお母さんと呼んでしまう想いから生まれた神」などいない。
「あれ、すみれさんは?」
「萌え萌え先生に呼ばれたよ? なんでも、青春の在り方と卒業式の告白についての話をするって。教育関係の論文かな?」
こてん、と首を傾げた杏に、夏樹と一登が絶対に違うと思う!」と声を揃えた。
「あ、いたいた。おーい、綾川、一登きゅん」
少し離れた場所から杏たちに声をかけたのは、ブリーチを繰り返した金髪を伸ばした少女――クラスメイトの桐木だった。
「……あ、桐木さん」
「そういえば、妹さんの件があったね」
「ちょっと、忘れてたの?」
「忘れてないよ? うん! わすれてないもん!」
「絶対忘れてたでしょう?」
夏樹はクラスはおろか学年が違うので桐木のことがわからない。
ただ、孤立していると聞いていた杏が話ができる人がいることを知り、きっと父親の政治は喜ぶだろうと目頭が熱くなった。
「あ、なまはげ先輩もいるんだ。ちーす」
「ちーす。一見するとちょっとやんちゃだけど、俺にはわかるよ。君はご家族が大好きだけど素直になれずについついキツいことを言っては自己嫌悪しちゃう子だね。…………あれ? 今、この子、俺のことなまはげって言った?」
「うわ、きも。きもすぎ。史上最強にキモい!」
「初対面でなんでこんなにキモい連呼されないといけないの!?」
「あ、ごめん、なまはげ先輩」
「……あのね、そのなまはげ先輩ってよくわからないからやめてくれる? せめて河童先輩にして?」
「河童? あー、なるほど」
桐木の視線は夏樹の頭頂部に向く。
しばらくして、なぜかとても優しい目に変わった。
「なまかっぱ先輩」
「混ぜちゃったよ!」
「髪なんて全てじゃないから、若いからって気にしちゃダメだよ?」
「え? よくわからないけど、うん」
寝癖でもついているのかな、と夏樹が頭部をわしゃわしゃと触っていると、桐木の表情が悲しげに変わった。
「えっと、私は桐木霧子です」
「これはご丁寧に。きりきりさん」
「……女子にいきなりそういう呼び方キモすぎ」
「この子、お口悪い! でもごめんなさい! 女の子との距離の縮め方わからないから!」
「ま、別にいいですけど、クラスメイトにはきりきりって呼ばれてますし」
「じゃあ、なんでキモいって言ったの!?」
「普通にキモかったので」
「素直! で、桐木さんがどうしたの? あ、もしかして、三人で帰るの? じゃあ、おじさんはこの辺にして、あとは若い子たちだけで」
「なんでお見合いのおじさんみたいになってんだよ」
「すみません」
「そうじゃなくて、なまかっぱ先輩たちと一緒にいる子供いるじゃん」
「子供? もしかして、義政大先生のこと?」
「そ。その義政……なんで先生なの?」
「そりゃ義政先生は俺たちの義政先生だからだよ!」
「意味わかんないんだけど、まあいいや。その子に妹が会いたがっているから、よかったら会わせて欲しいんだけど」
夏樹はハッとした。
一登と杏とを顔を見合わせて、頷きあう。
「――つまり甘酸っぱい恋の予感!?」
「甘酸っぱいかはわからないけど……向島のなまはげ、面倒くさいなぁ」