作品タイトル不明
30「痛々しい言動も突き抜けるとかっこよくね?」
千手たちに接触したものの、最後まで戦わなかった柏原保は斑目ぱおんと守谷盛夫と別れ、「帝国」のトップである「皇帝」のもとへ向かっていた。
「ここにいましたか、我らの皇帝よ」
「……保か」
皇帝と呼ばれた青年は、ビルとビルの隙間の裏路地にいた。
本来ならば灰色のコンクリートに囲まれた路地は、赤一色に染まっていた。
「派手にやってしまいましたね。彼らは?」
「――新たな神々だとさ」
「ああ、例の」
「そうだ。俺たち勇者を利用しようとする愚か者たちだ。何が新たな神々だ。何が人の思いから生まれた神だ。俺たちにとっては、取るに足らない存在だ」
「その通りです」
「だというのに、俺たちを利用しようとするとは愚かだ。愚かすぎる。神を名乗るなら、己の力で敵を倒すべきだ。神話の神々はそうしてきた。俺たちも己の力で敵を倒し、未来を切り開いてきた。だが、奴らはそれができない。つまり、弱者だ」
青年の足元にバラバラにされて息絶えている新たな神々は、勇者である「帝国」を利用しようとした。
力で屈服させるのであれば、それも良い。
弱者が強者に従うことは当然のことだ。
だが、新たな神々は、青年に言ったのだ。
「――敵を倒すために我らにつけ。悪い様にはしない。だが、断るならわかっているな?」
青年は腹を抱えて笑った。
敵を倒すために戦力を集めることは否定しない。
だが、なぜ上から脅す様に言うのか理解に苦しんだ。
下手に出て「お願いします」と言うべきではないかと、つい訪ねてしまった。
すると、新たな神々は激昂し、襲いかかってきた。
――そして、青年の持つ「聖剣」によって斬り殺された。
「別に俺は、人間とも神とも魔族とも喧嘩したいわけじゃない。基本的に平和主義だ」
「はい」
「だが、弱者に従わされるのはもううんざりだ。俺たちは、勝手な理由で異世界に呼ばれ戦いを強いられた。力を授かったが、そんなもんはいらなかった。当たり前の平穏な日々を送ることができればそれでよかった」
「その通りです」
「ま、ぱおんのような異世界のほうがこっちよりもよかったパターンもあるし、俺は異世界を全て否定するつもりはないさ。だけど、弱者は強者に従うべきだと学んだ。良い勉強になった。弱者が、無能が、上でふんぞり返っているだけの愚か者には、なにもできないし、何も変えられない」
青年は亡骸を跨ぎ、路地裏を出た。
保もついていく。
人々の喧騒の中を歩きながら、青年は嘲笑する様に笑った。
「見てみろ、どいつもこいつも下ばかり見て歩いている。今ここで、人間と神が戦ったことさえ知らず、小さなスマホの中に首っ丈だ。俺たちもかつてはそうだったが、なんてつまらねえ。なんて退屈だ。だが、その退屈が愛おしくもある」
異世界での日々は、地球の何気ない日々を愛おしく思わせるのに十分すぎた。
「だから俺は決めた。このクソッタレな世界で精一杯生きようと、決めたんだ」
「私もです」
「俺たちは、誰も従わねえ。新たな神々? しるか、そんなもん。俺たちは帝国だ。力を持つ勝者だ。ならば、この力を有意義に使おうじゃねえか」
「帝国」は皇帝が仕切っているわけではない。
一番強い青年が「皇帝」になっているだけだ。強いゆえに、従わせているだけだが、それぞれ行動理由はそれぞれだ。
斑目ぱおんは、人外を憎んでおり、この世界からの排除を願っている。
守谷盛夫も、強くなってやりたいことがある。
保も同じく目的がある。
――そして、青年「小池はじめ」も目的があった。
「俺を虐げ利用した異世界の奴らは、すべて殺した。騎士も、聖女も、王も、魔族も魔王も、神も! 殺して、考えた。俺はなんだ? 俺は何者だ? 聖剣の勇者だ! 聖剣に選ばれた、勇者様だ! なら、聖剣を与えられた者としてどこまでも強くなろう。人間の守護者になろう! 世界を守ろう! 世界は俺たちのものだ!」
そんな小池はじめの手には、ノートが握られていた。
大量の目と、十字が描かれた一冊のノートだ。
そのノートの裏には、「呪われし魔眼に選ばれしもの」と書かれていた。