作品タイトル不明
107「月読先生でもびっくりじゃね?」③
急に失神した月読だったが、夏樹たちが慌てていた一分ほどで目を覚ました。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、こわっ! こわっ!」
高熱を出した日に悪夢を見た時のような滝のような汗をかき、息を荒らげた月読の言葉に夏樹は何があったのか察した。
「……月読先生、遭っちゃったんだね」
「夏樹くん…………はい、遭っちゃいました。夏樹くん、彼女はまずいです。やばいです。君は恐ろしい力に憑かれています」
額や首の汗を袖で拭った月読は、机の上に置かれていた水筒を手に取り中身を一気に飲み干した。
少し落ち着いたのか、呼吸が少しずつ整っていく。
「あの、俺が言うことじゃないかもしれないんですけど……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。ご心配おかけしました」
「というか、月読先生。いったい何があったんだ? 由良夏樹の中に突っ込んだかと思えば気絶してしまうとは……そんなに由良夏樹の中はヤバかったのか?」
夏樹と萌葱は尋常ではない月読の様子を見て心配していた。
特に夏樹は、自分の体験したホラーを月読が味わったのかと思うと同情を禁じ得ない。
「…………夏樹くん、正直に言っていいですか?」
眼鏡を外し、教科書をうちわがわりにして扇ぐ月読は夏樹の目をまっすぐに見つめ、穏やかな笑顔を浮かべた。
「ど、どうぞ?」
「えー、君の海の力の話はなかったことにしましょう。私は何も聞かなかった、見なかった、知らなかったということでひとつ」
笑顔を浮かべているが、彼の目には「もう嫌だ」と浮かんでいる。
「ちょ、見捨てないでください! 同じホラーを体験したらもう仲間じゃないですか!」
「すみません、本当に無理です。私は、ホラー映画特有の急にガッとくる展開が苦手なのです。だというのにリアルでそんなことをされて、寿命が縮みました」
「神様なんだからちょっとくらい寿命が縮んだって大したことないでしょう!」
「大したことありますよ! 寿命が長いだけでないわけじゃないんですから!」
「俺だけであのホラーさんをどうしろと!?」
「夏樹くんなら大丈夫です。先生、信じています」
「絶対に嘘だっ!」
夏樹としては、頼りにしていた月読から丸投げされてしまう事態はどうしても避けたかった。
「いえ、本当です。海の中にいた女性は、夏樹くんを守っています。それは間違いありません」
「守られているの!? じゃあ、あのホラー仕様は!?」
「そんなこと私が知りたいですよ! ちょっと、申し訳ないですが、一度着替えに行かせてください」
「……あ、ごめんなさい。漏らしちゃいましたか?」
「漏らしていません! 汗をかいたから、シャワーを浴びて着替えたいだけです!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ夏樹と月読を尻目に、萌葱が腕を組み呟いた。
「……そういえば、新たな神々にも海の神はいたな。どこで何をしているのか知らないが、もしかしたら大地の神や炎の神たちと一緒に向島市で仲良くやっているかもしれないな」