軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

83「七森家兄弟の事情じゃね?」③

千手がツッコミを入れたことで、虎童子は七森家に関して深掘りしてこなかった。

気遣ってくれたのか、それとも、あまり興味がなかったのか、どちらでも構わない。

できれば誰かに言うことはしたくなかった。

――ただ、弟から裏切り者と呼ばれたことは、小さなしこりとして胸に残っている。

かつて、七森千手は当主の父親と次期当主の兄を魔眼で停止させると、家を出る準備をした。

霊能力者をまとめる院とは話をつけてあり、七森家の情報をいくつか提示することで最低限の住まいの保証と仕事を用意してもらえた。

ただ、それを良しとしなかったのは七森家の方だった。

皮肉なことに、千手の持つ「停止の魔眼」の強さが、父と兄を停止させたことではっきりしてしまったのだ。

七森家初代以来の「停止の魔眼」を持つ千手の価値は希少だ。

そもそも、ここ数代で「魔眼」を持つ者は生まれていないのだから。

そうなってくると、千手を七森家の外部に出すことは、七森の血が外部に行くこととなる。

もし、千手が誰かとの間に子供ができて、その子が「魔眼」を持っていたら、七森家の価値が失われるだろう。

比較するまでもなく次期当主の英智と違い、千手の方が性格が良い。

霊能力者としての才能も、努力も、すべて千手の方が上だった。

英智を嫌う人間は意外と多いため、ならば千手を次の当主にするべきだという声が分家から上がってくるのは仕方がないことだった。

分家たちの訴えに異を唱えたのが、七森家当主の妻である七森久乃だった。

久乃は、自分が産んだ子である淳也を次の当主にするとした。

そして、千手がこのまま家にいると淳也の地位が脅かされると考えたのだろう。血走った目をして「出ていけ」と騒ぎ立てたのだ。

千手はこれ幸いと出ていくことにしたが、淳也のことは気にしていた。

久乃は英智しかまともに可愛がらず、淳也は放置状態だった。

そんな淳也に今ごろ何をしようと言うのだ、と思ったが、所詮は血のつながりが半分しかない家族の話だ。関係ない。

当時の千手は早くこの家から出て行きたいとしか思っていなかったので、淳也が七森家の後継になりたくないことを知りながら、家を出たのだ。

そのことを恨まれているのであれば、仕方がないことだと思う。

フリーランスの霊能力者として働きながら、淳也のことは気にしていたが一度として連絡を取らず、尋ねることはしなかった。

「……後悔するのは今さらか」

「どうしたの、ダーリン? あ、ピザ食べる?」

「もう腹一杯だ。食いすぎて腹痛いとか言うなよ、虎童子」

「あたいがこのくらいで腹壊すわけないじゃん! あ、ダーリン、デザートのアイスは?」

「お前がねだって買ったでっけーのがあるぞ。俺はいいから責任もって全部食えよ」

「当たり前じゃん! ぺろり、とすぐ食べるもん!」

「……俺は飽きずに食えよ、と長期戦のつもりで言ったんだけどな!」

不思議なことに、虎童子のおかげで思い出してしまった過去が千手に重く押しかかることはなかった。

今日は少しだけ、虎童子に感謝した。