作品タイトル不明
82「七森家兄弟の事情じゃね?」②
「――俺のツッコミを誰かが待っている気がする」
「……ダーリン、ツッコミのやりすぎでついに妄想まではじまっちゃって。でも、とらぴーは見捨てないでずっと介護してあげるからね」
「虎童子ぃ! 俺をかわいそうな人みたいに言うな!」
耳鼻咽喉科を終えて帰宅した七森千手と虎童子は、ルームウェアに着替えると、帰りながら買ってきたピザをテーブルに広げる。
「あたいピザって初めて! ザーピーって若い子たちは言うんでしょう?」
「言わねえよ!? いや、俺は若い子じゃないから聞いたことないだけかも知れねえが、言わないだろう?」
サングラスを外し、電子煙草をサイドテーブルに置くと、ナプキンを広げて食べる準備を終えた虎童子に取り分け皿を渡す。
「ほら、腹減っているなら食え」
「いただきまーす!」
虎童子は健啖家なのでピザを四枚購入した。
このくらい余裕とウキウキしている虎童子に対し、千手は胸焼けしそうだった。
人生ではじめて、四枚もピザを買った。
「うっま! 初めてピザ食べた! これが本場イタリアの味!」
「……いや、それ、照り……いや、なんでもねえ、美味いなら何よりだ。
本場イタリアのピザにはまずない味を美味しそうに食べる虎童子を見ていると、わざわざ指摘するのは無粋だろうと考えたのだ。
「しかし、意外だな。京都にもピザ屋はあるだろうに」
「うーん、あたいとしては食べたかったんだけど、茨木姉ちゃんがなぁ」
「……古い鬼だと洋風は嫌いだったか?」
「最初はね。その後で、東雲とイタリアン行って喜んでたけど! 文句言ったら物理で酷い目に遭うから何も言わなかったけど!」
「怖い姉ちゃんがいると大変だなぁ」
「由良夏樹が茨木姉ちゃんをぶっ殺した時、万歳したぜ! まさか異世界で復活しているとは思わなかったけど、今は昔の、昔の姉ちゃんに戻ったからよしとするけど」
「姉妹はいろいろあるよな」
千手もピザに手を伸ばした。
久しぶりに食べたが、うまい。
ただやはり味が濃く、脂も多いので、少し食べれば満足だ。
最近、胃が脂を受け付ける量が減ってきたことを気にしている千手は、サイドメニューのサラダと一緒に食べる。
「ダーリンだって、愉快な兄がいたじゃん」
「兄に関しては本当に愉快だったなぁ。父親はもっと愉快だったが」
愉快な父親は、加座間源蔵と一緒に月読を接待すると意気込んでいた。
今頃、一緒に酒でも飲んでいるのかも知れない。
(それはそれで畏れ多いんだが……)
「そういえば、弟も来ていたよね?」
「ああ、淳也か」
「あっちゃんはちょっとダーリンを恨んでいたっぽいけど?」
「どうしてここにいない淳也に距離詰めようとしているんだよ!」
「未来の姉ですから!」
「キリッとした顔をするな!」
こんなやりとりをしている間に、虎童子はぺろりとピザを一枚食べ終えていた。
口周りを拭くように伝えると、千手は大きく息を吐く。
「まあ、なんだ。俺は淳也を見捨てたからな」
「ダーリンが!? 面倒見が良すぎて苦労ばかりしているダーリンが!? 由良夏樹よりも問題児だったとか!?」
「由良ほどの問題児なんて存在しねえだろ! あと俺が苦労しているってわかってるなら、もうちょっと気を遣って!?」