作品タイトル不明
26「気に入られたんじゃね?」②
「ま、お前さんにマモンが殺せるかどうかはわからんが。やれるもんならやってみろ」
サタンは夏樹に「お前では無理だ」とは言わなかった。
魔王なりに夏樹のなにかを見抜いた可能性がある。
夏樹も笑う。不敵に、獰猛に、余裕だと言わんばかりに。
「マモンの奴は傲慢な野郎だが、気の小せえ奴でもある。おそらく、真正面から戦うことはしねえさ。春子さんのことは俺がなにがあっても守ってやる」
「……サタンさん」
「惚れた女だ。傷ひとつつけないと約束するぜ」
「うん。信じてるよ」
サタンと母がどうなるのか不明だが、彼が本気で母に恋をしていることはわかる。
小梅の父である事を含め、サタンが母を本気で想っているのなら、言葉通りに守ってくれると信じたい。
「なんだかな……こう簡単に信じられるとくすぐったいものがあるな」
苦笑するサタンだったが、真面目な顔をして話を続ける。
「誤解を避けるために言っておくが、マモンは魔族の幹部だが、俺の部下じゃない」
「どういうこと?」
「俺は魔界を制覇するにはしたが、後は飽きちまった。だから、ルシフェルを始め、強い魔族たちを幹部にして、いろいろ丸投げしていた。マモンもそんな幹部のひとりだ。奴は俺への忠誠心を持っていないし、魔界をどうこうも考えていない。立場が欲しいだけだ。だが、魔界は、魔族はそれで通用する」
「シンプルのようで面倒臭いね」
「違いない。マモンのような奴らは多い。面倒臭えことをすれば潰せばいいんだが、こそこそやられると鬱陶しいだけだ。が、それも別にいい。俺としては、マモンには警戒している」
「小梅ちゃん関連で?」
サタンは首を横に振った。
「それもあるが、マモンは――サマエルの配下だと思われる」
「サマエルか……あいつかぁ。まじ厄介だよな。この間も、コンビニで肩がぶつかっただけで睨んできたし」
「そんなに近所にいねーから。知ってるふりしなくていいから。サマエルは、俺と同格の魔族だ。俺と同一視されることもあるが、俺と同等の力を持つ魔族だ。俺とは何度かやり合ったんだが、決着はついていない」
「あれ? でも、魔王はサタンだよね?」
「いい加減、トップを決めなきゃいけなくてな。ジャンケンで俺になった」
「トップの決め方ぁ!」
「ジャンケンの強さも魔王には必要なんだよ!」
「はい、じゃーんけーん!」
ならば試してやろうと夏樹がグーを出すと、魔王はチョキだった。
なんとも言えない沈黙が訪れる。
「サマエルは今更魔王になろうなんて思っていないが、サマエル推しの奴らはいるんだ。俺を排除してサマエルを新たな魔王にしようとする者を始め、サマエルを利用して再び魔界に戦乱を招こうとする者、俺たちを潰し合わせようとする者それぞれだ」
「大変ねぇ」
「まったく大変だ。まあ、どの時代でも上を狙う奴らはいるんだ。今回、たまたま小梅の婚約者という立場を利用しようとしているのがマモンってなだけだ」
「でも、殺しちゃっていいんでしょう?」
「おう。殺せるならやっちまえ。異世界帰りだろうと、勇者だろうと、人間に負けるような幹部はいらねえ」
サタンは魔力を隠しているにも拘らず、その存在そのものが夏樹の肌に焼け付くような刺激を与えてくる。
敵わないと思う一方で、どれだけ強いのか興味が湧くが、きっと戦うことはないだろうし、ないことを祈る。
「困ったことがあれば、連絡くれ。基本的には暇だが、社交ダンス中は携帯はオフにしているから承知しておいてくれ」
「マナーがしっかりしてる!」
「ダンス中に携帯が鳴ったら、先生や春子さんに失礼だろうが!」
「あ、はい。そうですよね」
話は終わりだ、とサタンがベッドから立ち上がると、ワクワクした顔をして夏樹に告げた。
「難しい話は終わりだ。さあ、アルフォンスと三人で恋バナしようぜ!」
「えー?」
「中学生の修学旅行の夜みたいに盛り上がろうぜ!」
夏樹は中学三年生になったばかりなので、まだ修学旅行には行っていない。
サタンのテンションについていけそうもないが、アルフォンスが北欧の女神とどのような恋愛をしたのか興味がないわけではない。
野暮なことは言わず、話に付き合おうと決めた。