作品タイトル不明
5「やっぱりイベントがくるんじゃね?」
スーパーはなまりからの帰り道、銀子はビール一箱を愛し気に抱きしめご満悦だった。
「いやー、買ったっすねぇ」
「本当だよ! まさか俺と小梅ちゃんとタイガーさんまで持つ羽目になるとは思わなかったよ! タイガーさんに至っては二箱も持ってるからね! 力が強くて素敵!」
「……夏樹くんが身体強化してくれたらもう一箱行けたっすけどね」
「嫌だよ! 五〇〇ミリが二十四本でしょ!? 十二キロじゃん! 重いよ!」
「ちゃんと春子さんが好きな銘柄にしているから問題ないっす!」
「今さらだけど、銀子さんやお母さんたちに好きな銘柄とかこだわりあるの!? 毎回違うのをカパカパ飲んでるじゃん!」
「残念ながら皆さん、好きな銘柄が違うのでローテーションで飲んでいるっす」
「知らなかった!」
中学生の夏樹にはビールはみんな同じに感じる。
ワインなど赤か白の違いしかわからない。
ウイスキーだけはラベルがカッコいいとかで判別はできるが、そんなものだ。
俳優が映画の中で飲んでいた、くらいではないとよくわからない。
「いやー、きっと春子さんの息子さんですから夏樹くんも大人になったら酒豪っすよ!」
「そうかなぁ」
「六年後にみんなで飲むのが楽しみっすねぇ」
「楽しみじゃのう」
「六年後か……みんなと六年後も一緒だといいね」
六年後を想像するのは難しかった。
現在、十四歳の夏樹は今年十五歳になる。
来年だって何をしているのかわからないのに、六年後なんてどうなっているのかわからない。
(楽しくやっているといいなぁ)
小梅や銀子、千手や一登たちと親しい関係が続いていればいいと願う。
「千住さん」
「なんだ?」
「六年後だと千手さんは三十代だね」
「馬鹿野郎! ギリギリ二十代だ!」
由良家の買い物袋を肩にかけた千手が怒った。
二十三歳の彼は六年後、二十九歳だ。
確かに、ギリギリ二十代と言える。
「銀子さんはえっと、ギリギリ二十代だっけ?」
「余裕で二十代っすよ! ピッチピチっすよ!」
「本当に若い奴はピッチピチなんぞ言わんからのう。確か、銀子は二十一じゃったから、まあ、アラサーじゃのう」
「やめてくささいっす! アラサーって言葉が心にくるっす! そんなこと言うのなら、小梅さんなんて何歳っすか!?」
「俺様は今までもこれからも十六歳じゃ!」
「ずるいっすぅううううううううううううううううう!」
確かに小梅は十代半ばだ。
ただ、十六よりも、十七、十八よりではあると思うが、夏樹は勇者なのに勇気がないので口にはしない。
千手からも「絶対に余計なことを言うなよ」という無言の圧が放たれているので、ミスはしない。
「さーて、夏樹くんの心無い言葉に傷ついた銀子ちゃんは今日はいつもより飲むっすよ!」
「いつもよりって、肝臓が死んじゃうよ!?」
「ヒールお願いするっす!」
「ヒールさんも万能じゃないよ!」
こんなやりとりが楽しい。
きっと六年後もこんなことを続けているのだと思った。
「お酒を飲む前に少し付き合ってもらえないかしら?」
不意に人の気配が消えた。
「――由良ぁ!」
「うん。まさかこんな日中に堂々と接触してくるなんて……お待ちしていました、イベントさん」
「そうじゃねえだろぉ!」
千手のツッコミはこんな時でもしっかりしている。
安心した。
「とりあえずビールの箱を降ろしてからでいい?」
神の気配はある。
だが、ビールの箱が邪魔でちゃんと相手が見えなかった。
「悪いけど、こっちは仲間を倒されてイラついているのよ。声をかけただけでも誠意だと思ってね。じゃあ、さようなら」
なぜか殺意の高い女神が襲いかかってくる気配を感じ取った。
夏樹は「なんとなく」左に避けた。
―――それが悪かった。
攻撃は避けることができた。
今までの勘から避けることができた。
しかし、それは夏樹だけの話。
「あ、ああ……そんな、そんなことって、なんで、こんなことをなんで、どうしてっすか」
身体能力に優れている銀子は女神の攻撃を避けることができなかった。
「そんな、血が……血が止まらないっす」
女神の腕が貫いている。
「夏樹ぃ! ヒールじゃ!」
夏樹は首を横に振った。
もう間に合わないことは明確だった。
「いやぁあああああああああああああああああああああ!」
銀子の持っていたビールの箱に女神の腕が刺さり、金色の液体がばしゃばしゃと地面に溢れていた。