作品タイトル不明
36「夜の来訪者じゃね?」①
「たっだいまー!」
「こんばんは、お邪魔します」
夏樹は一登と共に自宅に戻ってきた。
靴を脱いで、うがい手洗いをすると、茶の間に向かった。
「……なんで死屍累々?」
「死屍累々ってわけじゃないんだろうけど、そう見えるよね」
夏樹と、背後から顔を出した一登も困惑顔だ。
「小梅ちゃんと銀子さんも帰ってきているのに、なんかすっげー疲れ果てて倒れてるし。サタンさんに至ってはもう灰になりかけてるじゃん」
「……よ、よう、夏樹。サタンさん、頑張ったぜ」
「あ、ありがとうございます。でも、何があったのか聞いていい? 聞くの怖いけど、聞いていい?」
茶の間に倒れている小梅と銀子はぴくりとも動かない。
サタンは生まれたての子鹿のように震える足になんとか力を入れて立ち上がると、台所の椅子に座った。
夏樹と一登も椅子に座る。
「一登は少し一緒だったから知っているんだろうけど、モスマンが向島市を観光するってことになってな」
「あの姿で街に出て阿鼻叫喚になったの?」
「さすがに人の姿になってもらったからな」
「そうなんだ。一登、何にも言わないんだもん」
「夏樹くんと森さんと片岡くんの話に夢中で忘れていたよ。ごめん、ごめん」
諸事情から学校を休んでいる一登は、サタンと一緒にモスマンの観光に付き合ってくれていたようだ。
夏樹はサタンにモスマンを丸投げしたつもりだったが、きっと一登は手助けしてしまったのだろう。
「とにかく、義政先生とモスマンの相性が良すぎて……とにかく疲れた。一登が夏樹の方に行ってから、なんかよくわからねえ新たな神々に与した魔族や天使なんかがちょっかいかけてきて……俺の敵じゃないんだが、個性ある奴らばっかりで精神的に疲れた」
「それは……なんというか、お疲れ様でした。小梅ちゃんと銀子さんはどうしたの?」
「ああ、ふたりは花子の花嫁修行に巻き込まれて雲海のばあさんにシゴかれたようだ」
「小梅ちゃんと銀子さんがぶっ倒れるほどの花嫁修行ってどんなことしたんだろう?」
「さあな。男の子は知らない方がいいだろう」
正直、どのような花嫁修行をしたのか気になる。
スパルタだったのか、それとも夏樹には想像もできない未知なるものなのか。
「サタンさん。義政くんとモスマンさんはどうしていますか?」
「ふたりなら夏樹の部屋でゲームやっているぜ」
この場にいない義政とモスマンは夏樹の部屋にいるということなので、疲れ果てている大人をそのままに夏樹と一登は部屋に向かおうとした。
――ぴんぽーん。
ふたりが移動しようとする前に、由良家のチャイムが鳴った。
「……もうすぐ九時になるっていうのに、近所の人じゃないよね」
魔力、霊力、神力は感じない。
探ってわかったが、人間ではない。
「誰かな? はーい、今行きまーす!」
「ちょ、夏樹くん!? どうしてそんな警戒心まったくないの……って、行っちゃったし」
一瞬鋭い表情をしたはずの夏樹が、無警戒に玄関に向かってしまったことを一登は嘆く。
夏樹ならば、万が一ということはないかもしれないが、もう少し夜の訪問者に危機感を持ってほしいと一登はため息をついた。
「大変だな、一登も」
「慣れました」
「ははは、サタンさんもその内慣れるかなって……正体不明の来訪者が来たのに俺たちまでのんびりしているわけにはいかねえだろ」
「ですね! 僕たちも――」
サタンと一登が椅子から立ち上がる。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!? チュパカブラさんだぁあああああああああああああああ!?」
夏樹の悲鳴が響き、サタンと一登は顔を見合わせて再び椅子に座った。