軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90_彼女こそが相応しい(セルヒ視点)

リゼット・リーステラが神獣に愛されていることに、違和感を覚えていなかったと言えば嘘になる。

──神獣ともあろうものが、どうしてあんな存在を気に入るのか。心の底から疑問だったからだ。

ルーツィアをあれほど傷つけ続けているような人間なのに。

だがしかし、それは俺個人の感情の話であり、まさか聖女の称号を得て聖魔法を行使している者が悪魔を召喚し契約しているなどと、誰が思うだろうか。

結局、どれほど不信感と嫌悪を抱いていても、聖魔法を行使している限り、魂からの悪人ではないと、俺を含め誰もが無意識に信じ込んでいたのだ。

実際に、その心の内がどうであれ、リゼット・リーステラは瘴気だまりの浄化を精力的に行い、民を治癒し、追いつかない分は回復魔法を込めた魔石の販売という形で補填しようとしていたのは事実なのだから。

しかし、悪魔の話を聞いていると、その事実さえも姿を変えていく。

なぜ、瘴気だまりを簡単に解消できるほどリゼット・リーステラの力が強くなっているにも関わらず、新たな瘴気だまりがこれほど早く、多く生まれてしまうのか。

普通ならば、聖魔力の行使が強く多くなればなるほど、その残滓に触れて瘴気だまりの発生はなくなっていくはずなのに。

──リゼット・リーステラの力が悪魔との契約によって増幅されたものだったとすれば、納得がいく。

つまり、瘴気だまりを聖魔法で浄化していたのではなく、同じ瘴気に塗れた力で抑え込んでいただけだったのだ。

それでは、一見瘴気だまりが消え去ったように見えても、瘴気の量やそのまがまがしい力自体は増幅され続けてしまう。おそらく、それをあの神獣のふりをした悪魔が喰らい、己の力にしていたのだろう。

同じ理由で、回復魔法を込めた魔法石の流通が増えた頃に、体調不良者が減るどころか増加していったことも説明がつく。

聖魔力による回復魔法以上に、あれには瘴気の力が凝縮されてしまっていたのだ。

瘴気に侵されたルーツィアのちび魔獣の容態がますます悪化するのも無理はない。

つまり、リゼット・リーステラは、聖魔法を行使するとき、その力以上に瘴気を増幅させ続けていたのだ。

本来ならば、まかり間違って聖女に悪魔がついてしまったところで、その聖魔力に悪魔自身が耐えられず自滅するだけだっただろう。

しかし、リゼット・リーステラの抱く悪意の量が自身の持つ聖魔力の能力を超えていたため、瘴気が恐ろしい速度で増え続けることになったのだ。

……そもそも、本来ならば聖女の召喚に悪魔が呼ばれること自体がありえないことではあるが。

その時点で、リゼット・リーステラの運命は決まっていたのだろう。

まあ、リゼット・リーステラが聖女になったこと自体、ルーツィアの功績があってのことだったわけで。結局は聖女の器ではなかったということなのだろう。

当のリゼット・リーステラは呆然自失で座り込んでいる。

悪魔は契約に縛られているため、今はまだ直接手出しは出来ないのだろう。

神獣を召喚するための魔法陣を通る際に、かなりの力を消費したなずだ。だからこそ、そこまで聖魔力の強くなかったはずのリゼット・リーステラが優位の契約を結んでいたのだ。

悪魔は楽し気ににやにやと笑い、その場にくつろいでいる。

はっ。余裕なものだな。

しかし、それも無理はない。このまま瘴気だまりが大きくなり続ければ、ある程度瘴気が満ちたところで、一気に悪魔の力に変えられてしまうはずだ。

この規模のものから力を得るならば、ここ最近の国内の被害を鑑みても……恐らく、その時点で契約の主従関係は反転し、完全に悪魔が優位なものになる。

そんなことになれば、この国は終わりだ。

(事実がはっきりしてきたとはいえ、この事態をどうするべきか……)

グレイスと二人がかりでも瘴気だまりは消し去るどころか、少しずつ大きくなり続けている。

今は魔物をフワフワと、神官騎士ギズリが相手どっているが、このままでは魔物の数が増え、対処しきれなくなるだろう。

(もうすぐノースが来る。オーランドも来てくれるはずだ。それまでは、なんとかこのままこの場をしのいで──)

その時、視界にとんでもなく眩い光がうつった。

それはルーツィアのいる方から放たれている。

ハッとして振り向くと、まさに今ルーツィアが強い光に包み込まれようとしていた。ルーツィアは、魔獣のちびを抱いている。

本能的に、ルーツィアが何をしようとしているかが分かった。

優しいルーツィアならば、その選択をすることも十分に考えられたのに……!自分の不甲斐なさを呪う余裕もなく、焦りが湧きあがる。

ちびは瘴気に侵されている。加えて、どんどん強くなっていく瘴気だまりで、民たちも傷つき、動けなくなっているこの状況だ。

今ルーツィアが契約をすれば、恐らく無事では済まないのではないか。

咄嗟に瘴気だまりを抑える魔法を止めることも出来ず、俺は思わず叫んでいた。

「ルーツィア!!!」

だめだ、だめだ!ルーツィアが傷つくことなど、許せるわけがない!ましてや、命を落とす危険すらある。

もう遅いかもしれないという絶望に襲われながら、魔法を止めて今からでも力尽くで契約を阻止しようと、足を動かしかけ──ノースの声が耳に飛び込んできた。

「セルヒ、大丈夫だ!さっきアルヴァンが教えてくれた。あの魔獣……いや、あの方の正体は── 神(・) 獣(・) 様(・) だ!」

ちびの正体が、神獣……?

驚愕の事実に、すぐにでもルーツィアの元へ向かおうとしていた足が止まる。

ノースは自力では空が飛べないアルヴァンも、自分の浮遊魔法でともに連れてきていた。

何日寝ていないんだというやつれた風貌で、髪を振り乱し、しかし目を輝かせたアルヴァンは、今までに見たことがないほど興奮している。

ノースにおろしてもらい地面に足をつけた途端、よろめきながらも息を切らしながら俺の方へ近づいてくる。

「ハア、ハア!し、しん、しんっ、神獣様はどこですか!?」

そしてちょうどその時、ルーツィアを包んでいた光が一際眩しく輝き、その中から弾むような声が響いた。

「魔獣ちゃん、あなたの名前は──おこげちゃんよ!」

さらに、アルヴァンの悲鳴のような叫びが轟く。

「お、おこげだって~~~!?!?!?」

そのまま直立の体勢のまま、後ろにぶっ倒れてしまった。

ああ……いつもの光景だな。また何かぶつぶつと呟いている。

「お、おこげ、おこげちゃん、だってぇ……?偉大なる神獣様に、なんて間の抜けた名を……」

どうやら、ルーツィアの名付けセンスに卒倒したらしい。

──はは。そうか、ルーツィアは、神獣と契約したのか。

驚くべき事実ではあるが、俺は妙に納得していた。

誰よりも心優しく純粋なルーツィアほど、神獣の相手に相応しい者はいない。