軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87_「一度も言っていない」

「リゼット様!一度、魔法を使うのをやめて、ひとまず落ち着いてください……!」

「離してよ、ソレイユ!私が、あっという間に浄化するから!私は聖女よ!このくらい、できないわけがないでしょう!」

状況を把握できないままであるとはいえ、誰がどう見てもリゼットの魔法が瘴気だまりを大きくしていることだけは明らかで、さすがにソレイユ様もリゼットの魔法を止めに入る。

その間に、セルヒ様とグレイス様が瘴気だまりの浄化を試み始めていた。

だけど、やっぱり瘴気だまりが大きくなる速度が速すぎる……。

湧き出始めている魔物は、フワフワとギズリ様がすぐに倒している。

私はなんとか街の人たちを誘導する。

動けない人には手を貸して、動ける人にはそれを手伝ってもらったり、急いで結界の外に出てもらったり……。

さすがのセルヒ様でも、瘴気だまりに魔法を放ちながらの結界は負担が大きいようで、結界の規模は大きくない。

安全な位置まで離れると言っても、瘴気だまりやリゼットたちの様子がしっかり見えるほどの場所だった。

「ルーツィア様!私達も手伝います!瘴気の影響が大きい方は、私とショーンで魔力マッサージをして、少しでも改善できるようにしますわ!」

「!プリメラ様!ありがとうございます!」

この騒ぎに、プリメラ様とショーン様も駆けつけてくれて、一緒に街の人達の安全を確保するために奔走する。

ひとまず安全な場所に避難した人達は、呆然と結界の中の光景を見ていた。

「こんな、こんなことって……」

「なあ、聖女様の魔法でも、瘴気だまりはどうにもできないってんなら、この王都は一体どうなっちまうんだ……?」

「王都どころか、このままじゃみんな、みんな死んじゃうんじゃ……!?」

恐怖がじわりじわりと広がっていく。

まるで、その恐怖さえも飲み込んでいるかのように、皆の不安や動揺が大きくなるほどに、瘴気だまりも勢いを増している。

それでも、皆その場からそれ以上動くことができずにいた。

すぐに逃げたい気持ちはあるのに、目の前で起こっていることが破滅をもたらすかもしれない事実から、目を逸らせずにいる。

「キュ、キュ…………」

「!ま、魔獣ちゃん!?」

か細い声が聞こえて、慌てて懐の魔獣ちゃんを見ると、魔獣ちゃんはぶるぶると震えている。そのうえ、その全身が傷だらけになり、毛にたくさんの血がついていた。

(瘴気だまりの影響を強く受けているんだ……!どうしよう……!)

このままじゃ、魔獣ちゃんの体は瘴気に耐えられなくて、死んでしまうかもしれない。

ゾッと血の気が引いた瞬間、一際上ずったリゼットの声が響いた。

「そ、そうだ!フォー!神獣であるあなたなら、何が起こっているのか分かるんじゃないの!?この瘴気だまり、私の魔法が効かないの!」

たしかに、神獣様なら何が起こっているか分かるかもしれないし、この異常を解決することだってできるかもしれない。

私も含め、その場の全員の注目が神獣様に集まる。

神獣様は、一切焦ることもなく、相変わらず悠然とした姿を見せていた。

その様子は、この事態などすぐに解決できると言ってくれそうな余裕すらあって、それを見たリゼットも、どこか安心したような表情を浮かべる。

だけど、神獣様は思いもよらないことも言い始めた。

『心配するな、リゼット。お前の魔法はちゃあんと効いているさ』

「え?で、でも」

戸惑うリゼットに、神獣様は堪えきれないように笑い声をあげる。

『ははは!よく見ろ、効いているだろう?ほら──お前の魔法のおかげで、こんなにも、瘴気が強くなっている!』

「……え?」

『お前はばっちりオレの魔力を取り込み、瘴気だまりに触れることで時間をかけてさらに力を増幅させていった。これまでも、そして今も。お前は契約主として相応しく、オレの望む通りの結果をもたらし続けてくれているよ』

リゼットと神獣様以外は、誰も言葉を発することができず、固唾をのんで二人の会話に耳を傾けている。

その間にも、セルヒ様とグレイス様は必死で瘴気だまりを抑え込もうとしているけれど、相変わらず瘴気だまりは生き生きとモヤを吐き出し続けているまま。

リゼットは、訳が分からないという様子で、顔を引き攣らせている。

「は、はあ?い、意味が分からないんだけど。それならどうして、こんな風に瘴気だまりが大きくなるのよ……だって、神獣であるフォーの魔力は、私よりも何倍も強い聖魔力だから、あっという間に瘴気を浄化するはずで……」

『リゼット』

神獣様は、まるで小さな子供に言い聞かせるように、優しくリゼットの名前を呼んで、その言葉を遮る。

『オレは、一度でも、 オ(・) レ(・) が(・) 神(・) 獣(・) で(・) あ(・) る(・) と(・) 言(・) っ(・) た(・) か(・) ?』

それは、心の底から楽しいと言わんばかりの、恐ろしく無邪気な声だった。