軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80_神官騎士はもう誤魔化せない③(ギズリ視点)

その日、ソレイユ様とともに最近の瘴気だまりや魔物被害について王城への定期報告へ向かった際、城内で思わぬ人物と遭遇した。

リゼット様の義兄、ミハイル・リーステラ伯爵令息である。

「ご無沙汰しております、ソレイユ神官殿、ギズリ神官騎士殿」

「おお!リーステラ伯爵令息」

俺はソレイユ様の後ろに控え、失礼のないよう、神官騎士の正式な礼をとる。

敬愛するリゼット様の兄に対してにこやかに応じるソレイユ様とは対照的に、リーステラ伯爵令息の顔はどこか強張っていた。

「その……リゼットは、どう過ごしていますでしょうか」

「リゼット様は神教会で健やかにお過ごしです。最近は神獣様との親和性も高まり、そのお力を遺憾なく発揮してくださっておりますよ」

当然、ソレイユ様はリゼット様の身の回りの世話をしていた女神官が追放処分になった話などはしない。万が一、その事実に激高されて、リゼット様を邸宅に返すように、などと言われてしまっては大変だからだ。

「ああ!少し前に討伐に出た先でルーツィア・リーステラと遭遇はいたしましたが……」

人のよさそうな笑みを浮かべ話を聞いていたリーステラ伯爵令息だったが、ルーツィア・リーステラの名が出た途端、ピクリと体を揺らし、反応した。

それにソレイユ様は気づいていないようで、安心させるべく言葉を続けている。

「ご心配なく。このソレイユがしっかりとルーツィア・リーステラに釘をさし、これまでのようにリゼット様に害を与えることなど絶対に起きないよう、お守りいたしましたので。全く、リーステラ伯爵令息もこれまでは苦労したでしょう。家族の中に聖女がいるという幸運に恵まれたというのに、その尊き存在を虐げるような者もまた同じ屋敷に長年暮らしていたなどと」

リーステラ伯爵令息は、一瞬何かを言おうと口を開き、思いとどまり、それをやめたように見えた。

「……そうです、ね……とにかく、何も問題が起きていないならばよかったです。それでは、私は用事ありますのでこれで失礼します」

その姿に、言いようのない違和感を覚えた。

(なんだ?この表情、この反応……どうしてこんなにも浮かない様子なのだ?)

たしか、リーステラ伯爵令息は、伯爵夫妻とともにリゼット様を溺愛していると聞いている。

ルーツィア・リーステラのリゼット様への仕打ちに憤り、魔塔へと送ったのもリーステラ伯爵令息だったという話もあるくらいだ。

愛するリゼット様が神教会に入ったことで会う機会が少なくなり、手放しで喜べないのだろうか?

ルーツィア・リーステラと遭遇した事実を知り、不快感を覚えているのだろうか?

しかし、それだけではないような何かを感じる。

挨拶を交わし、去っていくリーステラ伯爵令息の姿に、なぜか「今、話を聞かなければならない」という気持ちが湧きあがり、俺はすぐに適当な理由をつけてソレイユ様と別れ、一人でリーステラ伯爵令息の後を追った。

「リーステラ伯爵令息!」

「!ギズリ神官……?」

呼び止められたリーステラ伯爵令息は怪訝な表情で立ち止まる。

長々と話していては、かわされてしまうかもしれない。しかし、俺はどうしても聞かずにはいられない。

単刀直入にと、切り出した。

「リーステラ伯爵令息。教えてください。リゼット様は……リゼット様は、聖女に相応しい存在だと思われますか?」

リーステラ伯爵令息は言葉に詰まり、狼狽えた。

その表情は、「真実を口にしてしまってもいいのか」と迷っているようにも見えるものだ。

それこそがリゼット様について、「言えない事実」が存在している証拠のように思えた。

「正直に申し上げます。ソレイユ様はリゼット様のお心の絶対的な味方でありますが、私はリゼット様には別の一面が存在しているのではないかと考えております」

これは賭けだった。もしもリーステラ伯爵令息が噂通りリゼット様を溺愛し、その裏の顔を一切知らなかった場合、いたずらに怒りを買ってしまうだけの危険性があるからだ。

しかし、もしも何か伝えたいことがあった場合、俺がそれを告げるに値するかもしれないと、少しでも思ってもらえるかもしれない。

そして、俺は賭けに勝ったようで、リーステラ伯爵令息は何度か逡巡した後、ついにリゼット様について話し始めたのだった。

「リゼットは……聖女に相応しい存在などではありません。むしろ、心優しく、人を決して傷つけないのはリゼットではなくルーツィアの方だ」

「……それでは、なぜ事実と違う話がこれほど広まっているのですか?」

「リゼットは、自分を被害者の立場に置き、ルーツィアを傷つけ、悪者にするのがとんでもなくうまいんですよ」

嘲るような渇いた笑いとともに、リーステラ伯爵令息は吐き捨てた。

「やはり……」

「やはり?神教会でも何かあったのですか?」

「……実は──」

俺は、ソレイユ様の怒りを買って以降、誰にも話すことが出来なかった、この目で見たリゼット様とモネの「真実」を、そして俺自身が抱いている違和感について話した。

「──まさか、そこまでとは……追放された神官様には本当に申し訳ない」

「いえ、リーステラ伯爵令息が謝ることでは……」

「とはいえ、以前のリゼットは醜悪な本性をそのままさらけ出すことなどはほとんどなかったはずだ。そこまで直接的に虐げるようになってしまったとは驚きだな。あれは怠惰だから、忙しく能力を使う日々に鬱憤でもたまって神官様相手にストレスを解消していたのか?」

半分独り言のように呟きつつ、思案している様子のリーステラ伯爵令息を見ながら、俺はその通りかもしれないと納得していた。

他者を攻撃し、虐げ、傷つけることでストレスが解消される聖女など、前代未聞ではないか。

「神教会に迎えられることになった功績も、本当はリゼットではなく、ルーツィアのものだったのです」

「まさか……そんなことがありえるのですか?」

信じられない事実だ。しかし、同時にどこかで納得していた。

魔物討伐で一緒になったあの時、俺自身がルーツィア・リーステラに守られたことが、今でも鮮明に頭の中に思い浮かぶ。

「誰もがそう思ったからこそ、疑われることなくリゼットの功績として称えられることになったのでしょう。……ルーツィアは控えめで、自分の手柄を主張するようなことはしないだろうしな。そもそもあの時点でリゼットには、あの騒動の中で多くの民を救うほどの力などなかった」

「ただ、現在リゼット様が確かに聖女に相応しい能力を携え、その力をもって瘴気だまりの解消や、民の体調不良に向き合ってくださっているのは事実なのです」

「それが私にも不思議なくらいだ。リゼットはほんのささやかな聖魔法しか使えず、魔力も少ないくらいだったはず。治癒魔法も、一人、二人のそれなりの怪我を集中すれば治せるくらいの能力で……」

リーステラ伯爵令息は苦々しい表情を隠しもせず、疑問を口にする。

「神獣様との相性がよほどよかったということなのか?しかし、いくら聖魔力を宿しているとはいえ、あのリゼットが神獣様に愛されるなど、私にはどうしても信じられない……」

そうして、リーステラ伯爵令息の話を聞くうちに、俺の中でまた新たな違和感が生まれ始めていた。

──リゼット様も神獣フォー様もお力を高め、国のために惜しみなく使ってくださっているはずなのに、なぜ瘴気だまりは増え続け、民の体調不良も一向に改善する兆しがないのだ?

その疑問こそが、驚くべき真実を指し示していることに、気付きかけていた。