軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75_可愛い患者様、魔獣ちゃん!

「セルヒ様!ようこそいらっしゃいました!お会いできて光栄です」

「そして、あなたがルーツィア様ですね。お噂は聞いておりますわ」

「は、初めまして……!」

「歓迎に感謝する」

マッサージ店を営む元王宮魔法師夫婦、ショーン様とプリメラ様は、私とセルヒ様を明るい笑顔で歓迎してくださった。

(お噂って、どんな話かしら?)

私のことを聞いたことがあると言うプリメラ様の口ぶりに、不思議に思う。

そこで、はたと気付いた。

……少し前の私なら、『自分の噂』なんて聞いたら、どんな悪い話をされているのかと不安になり、怯えていたはず。

実際に、リーステラではなくなって、そういう場面があった時には、怖くて怖くてたまらなかった。

だけど今、私は純粋に気になっただけで。

魔法のことだけじゃなく、心の持ちようも成長していると実感できて、なんだかすごく爽快な気分だった。

心が軽い!今までの私は、どれだけ自分に呪いをかけていらない錘を背負っていたんだろう?

「ルーツィア、プリメラ女史が言っている噂とは、恐らく俺が君のこととなると別人のようになることをひっそりからかわれていることをさしているんだろう」

そして、私が不安にならなくなったと同時に、セルヒ様のこういう時の反応も以前より穏やかになっていることにも気づいた。

……前は、決して私が不安にならないよう、嫌な気持ちにならないようにって、絶対に誤解や勘違いが生まれないように、すごくすごく気を使ってくれていた。今見たいな場面でも、私が申し訳なくなるくらいに慌ててフォローしてくれていたよね。

(そっか。セルヒ様、私がもう不安にならなくなっていること、気付いてくれているんだ)

セルヒ様を見ると、何も心配いらないよという顔で微笑んでくれる。

「はい、もちろんです!……って、あれ?セルヒ様がからかわれている……?」

うっかり聞き流してしまうところだったけれど、一体どういうこと?

不思議に思って聞こうと思ったけれど、それより先にプリメラ様が「まあ」と声を上げた。

「申し訳ありません、私の言い方、誤解を招きかねませんでしたね!決して他意はありませんので、お許しください」

「わ!もちろんです!大丈夫です、私のことを知ってくださっていたならとても嬉しいです。改めて、ルーツィアと申します」

「ええ、改めて、よろしくお願いいたします、ルーツィア様」

プリメラ様、にっこり笑うと目が三日月のように弧を描いて、とっても温かい笑顔の方だわ。

初対面の方と打ち解けるのはあまり得意ではないのだけれど、プリメラ様の笑顔に、あっというまに緊張がほぐれていく。

ショーン様も穏やかそうな方で、すごく素敵なご夫婦だ。

「キュゥ?」

「まあ!なんて可愛いのかしら。その子が今日の患者様ですわね」

明るい話声に誘われたのか、私の懐からもぞもぞと顔を出した魔獣ちゃん。知らない場所にいて、知らない人がいることに、キョトンと目を丸くしている。

「それじゃあ、こちらへどうぞ」

プリメラ様に促され、奥の部屋に通される。部屋の真ん中にベッドがあって、そこでマッサージを受けるらしい。

優しい森のような香りがしている。

「あの、今日はマッサージの方法を見学させてもらえるって聞いたんですけど、本当にいいんですか?」

そう、セルヒ様が事前に魔獣ちゃんのマッサージをお願いしたいと連絡してくれた際に、マッサージの仕方を教えてくれると言ってくださったのだ。

きっと、大切な技術なのに、私が聞いてしまってもいいのかな。

「魔獣のマッサージをする機会なんてめったにありませんから。私達にとっても貴重な機会をいただけてありがたいんです。それに、『天才魔法使いセルヒおすすめの店』って宣伝してもいいってお許しをいただけたので、むしろ私達には得の方が大きいですわ」

思わずセルヒ様を見ると、少し恥ずかしそうに目を逸らす。

「俺の名が宣伝になるかは分からないが、減るものじゃないしな」

「セルヒ様!魔獣ちゃんのためにありがとうございます!」

そんな約束までしてくださってたなんて!

「魔獣のためというより、ルーツィアのためだが、喜んでもらえてよかった」

「はい!とっても嬉しいです!」

優しい優しいセルヒ様。いつだって私や他の人のためにって考えてくれているんだよね。

「これほどストレートに伝えているのになぜか伝わっていない気がする……」

「セルヒ様、なかなか苦労されているんですね……僕はプリメラの方が積極的だったからなあ」

そんな会話をしているなんてつゆ知らず、私はプリメラ様にベッドの方へと呼ばれて近づくと、魔獣ちゃんを抱き上げて、その上におろしてあげる。

「キュキュ~?」

「魔獣ちゃん、このお姉さんが、とっても気持ちいマッサージをしてくれるからね」

不思議そうな顔をしている魔獣ちゃんにそう言いながら、そういえばアルヴァン様はいまだに魔獣ちゃんにあまり触らせてもらえていないことを思い出した。

いつも「私も、私も触りたいです魔獣ちゃん様……!」って嘆きながら、たまに気が向いたときだけ威嚇しない魔獣ちゃんに、控えめに触って鼻血を出しているアルヴァン様……。

それに、瘴気だまりの現場でも魔獣ちゃんはすごく怯えて異様に警戒していた。

多分瘴気にあてられていたんだとは思うのだけれど。今更だけど、ひょっとして知らない人がたくさんいたこともその原因の一つだった可能性もあるよね。

ショーン様もプリメラ様も初めてあった人だから、怖がるかも?

なんて少し心配になったのだけど──。

「キュッ!キュッ!」

魔獣ちゃんは甘えたような短い鳴き声で喉を鳴らしながら、仰向けになるように後ろ向きにコロンとベッドに転がった。

「「か、かわいい……!」」

思わず心の声が漏れたのだけれど、その声がプリメラ様とそっくりそのまま被っていて、お互い目を見合わせて笑ってしまう。

「それじゃあ、魔獣ちゃん、今から触れますわね」

そういって指を広げたプリメラ様の手に、魔力が絡んでいく。

(あ、プリメラ様の魔力は優しいキャラメル色だ)

魔力マッサージ、一体どんなものなんだろう。